其の452:小津じゃない青春映画「早春」

 更新ペースを戻すため無理矢理の執筆(汗)!

 異色青春映画「早春」(’70 英・西独)・・・タイトルに書いたように我が国の誇る小津安二郎大監督の同名作品ではない方です。「裸の女の立て看板とプールに入ってる少年」のスチールでも有名な今作(注:映画おたく限定)。これ日本じゃ、またまたDVD出てないんだよね・・・そんな状況のなか、先日、友人Sくん所有の海外版ブルーレイにて初めて観ることができました!おかげでスチールの謎がようやく解けた(笑)^^。長年待ち続けたベルトルッチの「1900年」のDVD発売決定は嬉しい限りだが、この映画もDVD出さんかい(怒)!!


 1969年のロンドン。高校を卒業したマイク(=ジョン・モルダー・ブラウン)は、公衆屋内プール場に就職。同じ接客係の年上の女性スーザン(=ジェーン・アッシャー)に好意を抱くようになる。そんな中、イケメンのマイク(でも童貞)は年配の女性客に迫られるなど、大人の汚さに嫌悪を覚えるようにもなる。一方、スーザンは婚約者がいる上、中年の体操教師とも関係を持っていることを知ってしまったマイクは彼女と婚約者を尾行。2人が入ったポルノ上映館でスーザンの気まぐれから口づけを交わす。思わぬ行為に有頂天になるマイク。だが、スーザンは彼と交際することもなく、中年教師とも関係を続けていく。マイクは恋するスーザンの後を追いかけるが・・・!?


 監督・共同脚本を担当したのはポーランド出身のイエジー・スコリモフスキー(1938〜)。同郷のロマン・ポランスキーの「水の中のナイフ」の脚本も書き、俳優として出演もする御仁。彼も社会主義政権下のポーランドにあって、自由を求めて西欧に飛び出したクチ。そんな彼が“故国での鬱屈”を主人公マイクに託して“鬱屈する青春”を描いたことは容易に推測できる。

 “自由”になった反動かどうかは、ポーランド時代の作品を観ていないので何とも言えないけど・・・映像が非常に瑞々しい!!手持ちを多用して、少年の“恋焦がれる女性に対しての性衝動的アクション(ぶっちゃけストーカー)”が描かれる。店に入ったスーザンを路上で待つために何度もホットドッグ買うことになるギャグもGOOD!ついでに書くなら映画館で上映してる「性教育」の名のポルノ映画にワーグナーの「ワルキューレの騎行」が延々かかっているのも笑った。こういう独特のセンスがホントにいいわ♪若い時の男なら・・・好きな女性がプライベートでどうしているのか、知りたいじゃない。完全に<男のコ目線による男のコ映画>なので、当然のことながら筆者も彼のストーキングぶりを観て「青いなぁ・・・」と苦笑いしながら(←こっちはアラフォーなんで)、彼の行動を見守った次第。映像的にも内容的にも近年の邦画では・・・こういうタッチやテイストの映画、ないよねぇ??誰か、やってくんないかな。もっとも年上のスーザンから見りゃ「小僧がなに、あたしの邪魔しくさんねん!」って感じだろうけど(笑)。

 原題は「DEEP END」・・・今作の場合は<プールの最も深いところ>の意味。雨とか海とか“水もの”は映画や演劇の場合、登場人物の“心象心理”を描く場合に用いる定番中の定番演出。ベタな表現で書くなら<少年の揺れ動く恋心>を今作ではプールの水に託した訳ですよ。もしかするとイエジーくん(「ロボジー」じゃないよ)は「いっそ職場の設定をプールにすれば・・・」ってことで決めたとしたら、余りにも分かり易過ぎ(笑)。でも一点、不思議なのは、マイクの両親は職場見学の場面で登場、仕事終わると本人もチャリで帰宅してるはずなんだけど・・・家の中の描写が全くない。何故?それで思い出したのが邦画の青春映画「バタアシ金魚」(水泳部の話だ)。これも主人公のバックボーンが一切描かれてないんだよね・・・世代的にもあうし、松岡錠司監督は結構、プールつながりで今作を意識したかもしれない(違ってたらメンゴ)。

 俳優陣についても少々。マイクを演じたジョン・モルダー・ブラウンは、まじイケメンで、ツルゲーネフの名作の映画化「初恋」で当時の若い女子たちに大変人気があったそうだが・・・オチはここでは当然書きませんが、この映画は決して“甘く切ない爽やかな青春映画”ではないのだ!!今作で観客に衝撃を与えた彼は、ヴィスコンティの「ルードウィヒ/神々の黄昏」にも出演したが・・・大半の作品が日本未公開。細々ながら活動しているらしいけど・・・落ちたよなぁ(残念)。
そしてスーザンに扮したジェーン・アッシャー。なんと彼女はビートルズポール・マッカートニーの元フィアンセ(’67年・婚約、翌68年・ポールの浮気で婚約解消)。子役から女優業のキャリアをスタートさせた彼女が「早春」に出演したのは婚約解消後の23歳頃。そのせいもあってか(?)エロ度は低めながらヌードも披露。冒頭に書いた「裸の女の立て看板」は彼女です(ビーチク出しあり)。幸い彼女は今作以降もテレビや映画に出演、結婚して3人の子供をもうけ、自身のケーキ店を運営する実業家として悠々自適の生活を送っているそうだから・・・よかったよかった^^

 
 重複するけど<ラスト>はねぇ・・・本当に痛切!具体的に書けないのが残念だが・・・いや〜、心に残るよ、男のコとしては。ただ<イメージ的>に伏線はちょいちょい張ってあるから、筆者は予想通りだったんだけど・・・切ない、切ない。しつこいようだけど、こういう異性に対して悶々とする思春期の少年映画は、近年貴重なんで・・・是非、日本でもDVDを出してほしい。いや、出すべきだ!!


 
 余談ですが・・・イエジー・スコリモフスキー監督はその後もイギリスで活動を続けた後、齢71歳にして母国ポーランドに帰国し「アンナと過ごした4日間」(’08)を発表してます。彼もよかったよかった^^