其の451:壮大な“if”映画「ミスター・ノーバディ」

 多忙過ぎて間が空いてしまいました(日帰り地方出張もあったしな)。性格的にあんまり空くのは気持ち悪いんで・・・隙をついて今書く(半ば強引)!!

 「トト・ザ・ヒーロー」、「八日目」のベルギー人監督ジャコ・ヴァン・ドルマルが<人生の選択>によって生じる様々な展開をドラマティックに描いた製作費50億円の大作ーそれが「ミスター・ノーバディ」(’09)。マカロニウエスタンに似たようなタイトルの映画もありますが、そうじゃありません!このテのパターンは既に「スライディング・ドア」や「バタフライ・エフェクト」、「ダイアナの選択」等々でも使われてるけど、今作はすっげー複雑!!軽く以前の“if”作品を越えましたワ。面白いのに、いまいちメジャー作じゃないのが口惜しい!!!


 科学技術の発達により人類の<不死>が実現した西暦2092年。不死となる治療を行わなかった118歳の老人ニモ・ノーバディ(→「レクイエム・フォー・ドリーム」のジャレッド・レト)は、“人類最後の死ぬ人間”として世界の注目を集めていた。そんなニモの下を訪れたジャーナリストの要請で、彼はこれまでの人生を回想する。ニモの人生最初の選択は、9歳だった時<別れた両親のどちらについていくか?>。母を選んだ場合はアンナ(→「イングロリアス・バスターズ」のダイアン・クルーガー)と出会いこととなり、父を選んだ場合はエリース(→「ドーン・オブ・ザ・デッド」のサラ・ポーリー)と出会うのだが・・・お話は単なる二択ではなく、めっちゃ複雑なパラレルワールドを形成していく!!

 
 ・・・いや〜、非常に書きにくい内容!だって「母を選択」した場合は「アンナと出会う」んだけど「彼女とつきあう」パターンもあれば、「ふられて終わる」ケースも劇中出てきて・・・まるでネズミ講の如く枝分かれして(=都合12パターン)、最後の最後には火星にまで到達することも(苦笑)!「とりあえず観て!」としか言いようがない。ドルマルは超複雑にして緻密な脚本をものにしたよなぁ(ドルマルの脚本執筆期間、実に6年)。

 まず主人公の名前にニヤリ。“ノーバディ”はまんま<誰でもない>だが、“ニモ”も日米合作でアニメ映画も作られたアメリカのウィンザー・マッケイの漫画「リトル・ニモ」の主人公からの引用だろう(ニモもラテン語で<誰でもない>の意)。二重に命名された主人公は<誰でもない=全ての人に該当する>。ドルマルは「(今作は)何かを選ぶのではなく、すべてを体験してはどうだろうかという映画体験だ」とコメント。全く展開が読めないので、観客はニモの回想(とカオス)を凝視していくこととなる。

 なんせ火星まで出てくる話だから(「ジョン・カーター」か^^)スケールの大きさは言わずもがなだが、撮影に半年(ベルギー、カナダ、イギリスに果てはドイツまで)、編集に1年半・・・金と時間がかかってる分、映像も凄いぞ!未来都市や宇宙船の造形のほか(ユニコーンまで登場)、トリッキーな映像も多々あり。このように書くと、完全にSFだと思われそうだが、家庭の様子や青春時代の恋愛劇なんかも描かれてるんで、SFが苦手な御婦人でもご安心あれ^^!

 ジャレッド・レトは青年時代から最晩年(もち特殊メイクよ)までを上手く演じ分けて巧&好演!筆者的に彼は若い頃のアラン・ドロンに似てると思うのだが・・・いまいち日本ではブレイクしないね(残念)。3人の女性(ダイアン・クルーガーサラ・ポーリーリン・ダン・ファン)もそれぞれ特徴が違ってて、主人公に上手く絡んでる。察するに台本は電話帳並にぶ厚かったと思うので・・・よく混乱しなかったもんだ。感心(→“プロ”だって!)。

 
 <ラスト>は・・・これも超複雑な「TAKESHI’S」同様、筆者の解釈もあるけど・・・目の色変えてまで“真相”を見極めなくていいと思う。男も女も相手次第で人生が大きく変わる・・・とベタな感想でもよろしいかと。監督が“ニモは最後にきっとこう言うだろう”を前提にいいこと言ってるんで最後に引用して、この項を締めたいと思う。「人生には楽しいこととそうでないこともある。もし楽しいなら、それをやってみるべきだ。もしそうでないなら、やらなければいい」



 <どうでもいい追記>大戦末期にナチスの残党がUFOで密かに月面に移住、世界に再攻撃を仕掛ける日々を虎視眈々と狙うーというナイスなアイデアの映画「アイアン・スカイ」が9月に日本公開決定!この日を待っていた!!!万歳^^