其の186:殺人ゲームへようこそ「華麗なる殺人」

 イタリアを代表する大物俳優であり、フェデリコ・フェリーニの諸作でも知られる故マルチェロ・マストロヤンニ(「ひまわり」もこの御仁)。その彼が1965年に出演したB級SFアクション映画が「華麗なる殺人」!一昔前によくあった<マン・ハント(人間狩り)>ものだが(「デス・レース2000年」とかシュワちゃんの「バトル・ランナー」とか「ローラーボール」)勿論、マルチェロ主演だけに陰鬱さやハードさはない。いま観るとポップでキッチュスティーブ・マックイーンの「華麗なる賭け」やキムタクの「華麗なる一族」とお間違いなく(笑)!


 近未来、戦争や犯罪を抑止するためにゲームとしての殺人が<合法化>された世界(どうやら21世紀らしい)。参加者は無作為に「ハンター」と「ターゲット」として選出され、10回生き残った者は賞金100万ドルを手にする事が出来るほか栄誉と数々の特典があるデスゲーム!イタリア・ローマでこのゲームに参加しているのは家庭問題を抱える中年男マルチェロ(=マストロヤンニがまんまの役名)。その彼が「ターゲット」として選ばれた!対する「ハンター」はアメリカ人女性キャロリン(お色気ムンムンのウルスラ・アンドレス)。彼女はハントの様子をTV中継するため(=番組スポンサーによる高額なギャラあり)ローマにやってくる。マルチェロとキャロリンの頭脳戦(?)がこうして開始された・・・!


 いきなり街中で拳銃持ったハンターの男と、逃げるターゲットの女のドンパチから始まる今作。どうみても「鬼ごっこ」にしか見えんが(笑)なんとプロデューサーはイタリアの大物プロデューサー、カルロ・ポンティソフィア・ローレンの旦那)!マルチェロが出演したのは、おそらく彼に拝み倒されたからだろう(笑)。
 対するウルスラ・アンドレスは初代ボンド・ガール(そりゃお色気ムンムンだわさ)!ジャン・ポール・ベルモンドと浮名を流し、亭主に離婚された経験の持ち主(笑)。この他に出ている有名作といえば三船敏郎も出ている「レッド・サン」ぐらいかしら?彼女はブラジャーに隠している銃でターゲットを殺す(石森章太郎の「009ノ1」状態)。おそらくポンティに金を積まれて出たと見た(笑)。

 
 このほかスタッフは超豪華陣!原作はロバート・シェクリイ(「フリージャック」の原作も彼の著作)。脚本にはフェリーニ作品(ちなみに主人公が住んでいるのは「フェリーニ通り」:笑)やミケランジェロ・アントニオーニの脚本家連中が参加している(トニーノ・グエッラ、エンニオ・フライアーノ、ジョルジオ・サルヴィオーニ)。で、監督が「殺人捜査」のエリオ・ペトリ。監督が一番マイナーかも知れん(苦笑)。「流されて・・・」のピエロ・ピッチオーニのノー天気な音楽も物語のテーマの陰鬱さを緩和するのに役立っている(笑:ホントか)


 当時の近未来ものにはありがちだった街の風景はまんまだけど、モダンな家具などある室内セットにちょっとヘンな衣装が登場(今観ると違和感ありあり)。未来人の退廃ぶりの象徴として「マゾッホ・クラブ」とか出てくる(苦笑)。「殺人は人気があるから」とハンターにスポンサー協力を持ちかける企業とか、少々社会に対する批判や皮肉も見え隠れ。だが、物語は殺人ゲーム(=アクション)が次第にマルチェロウルスラの「恋のさやあて」になるのでー2人は互いに相手を出し抜こうとするーサスペンスに変化していく(「華麗なる賭け」と同様の趣向)。そのあたりが見ものだろう(二転三転するどんでん返しもあり)。


 大スター、マルチェロ・マストロヤンニを語る上では完全に黙殺される作品ではあろうが(「甘い生活」や「81/2」はあっても近日、公開されるドキュメンタリー映画マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶」では確実に無視されている筈:笑)彼が出演した貴重な<カルトSFアクション>として、ファン以外の方にも気軽に観賞して欲しいと思う。