其の643:「ダンケルク」(’17)&「洲崎パラダイス 赤信号」

 台風が過ぎまして関東は快晴となりました。でも、あちこちで豪雨の爪痕が・・・。日本は治水対策を根本からやり直さないといけない時代だと思う今日この頃。 


 先日、映画「ダンケルク」を観ました。「ダンケルク」とは、フランスの港町の名前(←書くまでもなく壇蜜団鬼六とかの“ダンつながり”は一切関係ない)。第二次世界大戦初期(1940年5月26日から6月4日)、イギリス・フランスほか連合軍兵がドイツ軍の猛攻を受け、ダンケルク海岸からイギリスへ大規模撤退を行った<ダイナモ作戦>のお話。「ダークナイト」のクリストファー・ノーラン監督が初めて史実にチャレンジ、陸・海・空の3視点が切り替わりつつ、それぞれの様子が描かれる構成となっとります。
 リアリズムを重視した作風ながら、ノーラン曰く「戦争映画ではなくサスペンス映画」なので、スピルバーグの「プライベート・ライアン」やリドリー・スコットの「ブラックホークダウン」的ドンパチ&バイオレンス描写はナシ。けれど、自分がその場に投げ込まれたような臨場感がそこにはある!!現場主義のノーランの“こだわり”で一部は実際のダンケルクでロケするわ、当時の船とかも使いつつ、モブ(群衆)シーンで極力CGを使わぬよう段ボールで作った兵士を置いたり(驚)、戦闘機のラジコン飛ばしたりと・・・スタッフの準備は超大変だったと思うけど、その辺りの工夫と苦労は十分映像に反映されてて良かった。俳優さん達も合成用グリーンバックでの撮影より、実際に目の前にあった方が役に入り込めると思うので、演技的にも良かっただろう。
 大ヒット上映中につき、これ以上の説明は控えるけど、大作ながら尺も観やすい長さだし(106分)なかなか面白い映画でしたよ^^。個人的にはドンパチとバイオレンスもあったら、もっと良かったけど(笑)。あと、上で書いたような日付とかは映画では説明がないので、少々事前に調べておいた方が鑑賞の良き手助けになると思う。皆が第2次大戦でイメージする「ノルマンディー上陸作戦」とかは、この4年後のお話なんで!

 
 さて「ダンケルク」という“洋画の大作”と併せて、“邦画の小品”もご紹介しようと思う。ポルノやる前の日活映画「洲崎パラダイス 赤信号」(’56)です(昔は映画は基本2本立てだったから、大作ばかりじゃなかったのよ❤)。監督はこのブログでも以前「幕末太陽傳」(’57)や「グラマ島の誘惑」(’59)、「しとやかな獣」(’62)で取り上げた川島雄三。このブログ前から読んでいる方はとっくにお分かりのように筆者は日本人監督だと川島さんのほか、市川崑中平康岡本喜八とか好きな監督いっぱいいるの(笑)。でも、マジで“面白い映画”なので、しつこくても取り上げる(笑)♪


 「売春防止法」施行直前の東京・・・。江東区勝鬨橋で「これからどうするのか」と思案しているのは大人しい義治(=三橋達也)と勝気な性格の蔦枝(=新珠三千代)のカップル。口論となってバスにとび乗った蔦枝と追いかけてバスに乗る義治。洲崎弁天町にある<洲崎パラダイス>の入口で下車した2人は、アーケード脇にある飲み屋へ。女将(=轟夕起子)に頼みこんで蔦枝は住み込みで働くようになり、義治は、女将の紹介で近くのそば屋で住み込みの出前持ちとして雇われる。やがて蔦枝は、羽振りの良い客のひとりと仲良くなり、義治に告げることなく店を出て行くのだが・・・。


 舞台となる「洲崎弁天町」は現在の江東区東陽町界隈。その昔は遊郭、後に特飲街。いまでは映画に出てきた川は埋め立てられ、町名も変わり、アーケードもその跡地に石碑を残すのみ。余談だが、つい先日、東陽町方面に用事で行ったついでに石碑を見に行って写真撮った^^。飲み屋があったであろう場所は不動産屋になってたわ。この映画は当時の様子を記録した側面もある(現地でどこまでロケしたのかは不明だが、川島が短期間で撮ったとコメント&アーケードを再現するのは予算もかかるし・・・ある程度は現地ロケと推察)。原作小説は芝木好子の「洲崎パラダイス」。映画タイトルに「赤信号」をプラスしたのは、「売春防止法」制定(’56年5月)を受けての事だろうと思われる。実際、この映画公開1年半後、洲崎パラダイスは終焉を迎えている。

 粗筋でも書いたように、映画で主に描かれるのが“男女の機微”。2人は恋人同士という以外、あまり過去においての説明がない。男は地元で仕事をクビになって無職、女は以前洲崎で働いた過去がある・・・という事以外、よ〜分からん。女性の方が生命力があり、男の方がウジウジしているというのは・・・80年代ラブコメの先取りかも(多分違う^^)。実はメインのカップル以外にも轟夕起子演じる女将さんにもある背景があって・・・その辺りは映画を観てのお愉しみで。川島も後年、自身の代表作が「幕末太陽傳」と世間に言われる事を認識しつつ「自分としては本来、こういう作品の方が好き」と語っている。

 でもこの映画は・・・ある程度、年食ってから観ないとダメ!!小学生の時に観ても絶対ダメだと思う(笑)。大人の男女の心理が深〜くわかるようになると面白みが増す。今作は「恋愛映画」でもあり「人生映画」。男女の機微を描いた作品に成瀬巳喜男監督の名作「浮雲」(’55)があるけど、筆者的には今作の方が面白かった。今作が公開されたのは「浮雲」の翌年・・・。川島的には、「浮雲」をちょっと意識した題材ではなかったのかしら??いまではその邪推を確かめる術もないけれど。


 
 <どうでもいい追記>アニメ映画「はいからさんが通る」2部作。予告が公開されたけど、全然、大和和紀先生の絵と違う・・・。先生的にはOKのようだけど・・・個人的には超ガッカリ!あくまで先生の絵でやってほしかったよなぁ・・・(涙)。