<其の744>人間の性の最終領域!?『「エロ事師たち」より 人類学入門』

 2021(令和3)年のGWも・・・終了(早っ)。仕事&ステイホームで終わっちゃった!果たして第3次緊急事態宣言はいつまで延長されるんでしょうねぇ・・・?またまた色んな映画の公開予定日が変更されそうだわ(涙)。

 

 以前にも書いた事を改めて・・・。いきなりですが「小説」や「漫画」、「舞台」そして「映画」という媒体は、あえて妙な書き方をすれば<読者あるいは観客が他人様のお話を読む(or)観て愉しむもの>である。勿論、基本的には作ったお話をオープンにして売っているものなので、それをみても怒られないんだけどね^^。今村昌平監督が自身のプロダクションを立ち上げて(キャスティングや予算他で揉めて日活から独立)演出した『「エロ事師たち」より 人類学入門』(’66)は、全編観客に覗き見行為を意識させる演出がとられている、これまでと同様、生と性を追求するイマヘイ重喜劇。ちなみに読み方は「エロごとし」(死語)。

 

 大阪ー。スブやん(=小沢昭一)は仲間と共にブルー・フィルムの撮影・上映の他、アイコラ写真、盗聴したエロテープの販売に売春斡旋等々エロ系の仕事全般を生業としているエロ事師(注:21世紀現在でいうところの「セックス産業」の従事者)。下宿していた「松田理髪店」の未亡人・春(=坂本スミ子)と懇ろになった為、内縁の夫として彼女と2人の子供・予備校生でマザコン気味の幸一(=近藤正臣)と中学3年生の恵子(=佐川啓子)と暮らしていた。だが幸一はスブやんを疎ましく思い、思春期の恵子は時々色目を使ってくる・・・。そんなある年の暮れ、春が心臓病で入院する事に。これを境に家族に仕事に様々な問題がスブやんにふりかかってくる・・・!!

 

 原作小説「エロ事師たち」はあの野坂昭如のデビュー作!書くまでもないが、彼は後にジブリ作品としてアニメ映画化された「火垂るの墓」を書いた御方。大島渚監督を殴っただけの人ではない(笑)。今作は小沢昭一主演作が日活社内で企画された時、今村が小沢とは大学の同窓にして、自身の作品の常連俳優でもある事から野坂の原作を推薦。当初は脚本だけ担当する予定だったが、日活と小沢本人に頼まれて演出もする事になったという。

 すでに「にっぽん昆虫記」(’63)や「赤い殺意」(’64)で女性側からのエロを描いてきたイマヘイながら、今作では男性側からのエロを描くという事で今回も徹底リサーチを敢行。ブルー・フィルムの関係者まで取材したそうで・・・この当時、インターネットもないし、裏稼業の方々の連絡先なぞ調べるのにめっちゃハードル高そうで、話を聞くのは相当大変だったと思う。筆者が助監督で、これを投げられたら・・・途方に暮れる(苦笑)。  

 さて「今村組」といえば<ロケ先で合宿しながら撮影>というスタンスをとるので有名だった。いちいち東京なんぞに戻らない(笑)。後の「神々の深き欲望」(’68)では、ロケの過酷さに嵐寛寿郎が脱走を試みたエピソードは有名なトリビア^^。今作では舞台となる大阪方面でロケ&合宿。昭和40年代初頭の大阪の街の様子が垣間見れる。「映画も覗きだ!」と言わんばかりに、俳優の会話のシーンを室内ではなく、家の外や窓の間とかから撮影した場面が多数あり。時折合間にシュールな映像が入ってくるが、一応これは登場人物の心象風景。決して独立したから「(同じ日活の)鈴木清順みたいに変な画撮っても、会社から怒られないで済むぞ」という理由で撮った訳ではないだろう(笑)。昔の映画なので、いまの映画並のエロさを期待してはダメよ♪

 余談だが、今作への参加の影響も多分にあると思われるのが(違ってたらゴメンね)助監督のひとりとしてクレジットされている田中登。この方は日活が「ロマンポルノ」始めた時に監督に昇進。同じ大阪を舞台に社会の底辺で生きる人々を描いた「㊙色情めす市場」(’74)を演出する。その映画を観た深作欣二監督が、その要素を「仁義の墓場」(’75)に取り入れて・・・。セルジオ・レオーネ黒澤明の「用心棒」観て「荒野の用心棒」を演出して「マカロニウエスタン」ブームが起きたように、いや~映画はホントにつながっていくものなのねぇ^^!

 話を俳優さんの方にシフトします。小沢昭一は大真面目にエロ仕事に取り組む主人公を好演!いくら裏仕事といっても、あれ程のプライドと熱意を持って仕事に取り組めたら素晴らしいわ(ある意味、尊敬)。実は主人公にも様々なトラウマがあって、単なる助平ではない興味深い人物となっているのがミソ(その辺りはネタバレするので書けません。あしからず)。出身は東京なのに、完全に関西人になりきっている演技は要注目。中でも主人公が金持ち爺さんの依頼を受けて、ミヤコ蝶々(役関係なしの本当の関西人)扮する斡旋業のおばさんに処女の娘を紹介して貰う下り・・・実際は子供産んでる娘を生娘にでっち上げる一連の会話は爆笑もの^^。

 内縁の妻役の故・坂本スミ子も役関係なしの関西出身。彼女は後年、今村の「楢山節考」(’83)に出演した際、老婆を演じる為に自らの歯を抜いた事で話題となった。近藤正臣のマザコン&金に汚い予備校生役も・・・「人に歴史あり^^」。まだ、この時点では足でピアノは弾いてない(爆笑)。

 

 映画の最後は・・・原作から大幅に変更していて、ネタバレ防止で書けないけどフェリーニの某作を思い出した(筆者が想起したフェリーニ作品は今作のだいぶ後に作られたもの)。人類が性を突き詰めていくと・・・最終的には“ここ”に行き着くのですかねぇ??もし、そうだとしたら・・・まだ筆者の思考はこの領域には辿りついていない(苦笑)。気になる方は是非映画を観てね❤