其の443:映画「ヒミズ」の感想。

 寒い日が続いて嫌になりますね・・・。
 そんな中、予告通り大ヒットギャグ漫画「行け!稲中卓球部」の古谷実がシリアスに挑んだ問題作を実写映画化した「ヒミズ」を鑑賞。先日、東スポ映画祭で作品賞に選ばれた「冷たい熱帯魚」、ヒットはしたけど賛否両論の「恋の罪」の園子温監督初の“原作もの”。園自身、原作のファンで自ら作品をチョイスしての演出だったのだが・・・上映中につき、余りネタバレにならないよう書いていきますわ。


“3・11”以降の現代日本ー。中学生の住田佑一(=染谷将太)は大きな夢を持たず、ただ誰にも迷惑をかけずに生きたいと考えている。震災で家を失くした人たち(=渡辺哲、吹越満神楽坂恵ほか)と実家の貸ボート屋を手伝いながら平凡な日常を送っていた。そんなある日、同級生の茶沢景子(=二階堂ふみ)から熱烈なラブコールを受けるようになり、彼女は度々ボート屋に遊びに来るようになる。そんなある日、多額の借金を作り、蒸発していた住田の父(=光石研)が現れ金の無心をしたうえに住田を激しく殴りつける。そんな中、母親(=渡辺真起子)が男と駆け落ちし、彼はひとり切りでの生活を余儀なくされてしまう。そんな住田を茶沢は励ますが、ある夜、とうとう父の言動に耐え切れなくなった住田は彼を殺してしまう・・・!


 筆者は原作を読んでいたので、それを<前提>として論を進めるが・・・園は当初、原作をそのままにシナリオ化していったそうだが、そのさ中、東日本大震災が発生!急遽、大幅に脚本を書き換えて撮影に入ったという(→実際に被災地での映像も多々登場する)。原作の少々弱い部分を園なりに“補完”しているのはよく分かるのだが(例:住田の父を凶悪化することで“父殺し”の理由を明確化、原作には出てこない茶沢の両親を登場させることで彼女の住田へのラブコールの理由を強化)・・・もっとも大きな“改変”はオチを原作とまるっきり変えたこと(勿論、それは伏せますよ^^)!!

 “3・11以降”の日本となっているから、この直したオチでも<あり>だと思うんだけど・・・正直、その設定があまり効果的じゃないんだよな〜!特に冒頭から“3・11以降”にしているくせに原作通り父親殺したあとの住田の<余り人生>としての行動をまんま描くから・・・住田の言動が<自己矛盾>を起こしちゃってる(→勿論、原作は大震災以前、日本人が物質は満たされているけど、精神的に空虚な日々を送っていた21世紀冒頭に書かれている)。あのオチにするなら、ホント、オチ直前に大震災がきたことにしとかないと住田の心境の変化が・・・よ〜分からん。クランクインの日程は決まっていただろうから、余りに突発的に直したため、園も脚本をよく練れずに終わったような気がしないでもないが。

 筆者的には住田の友人をおっさん(=渡辺哲)に代えたり(涙)、これまでの自分の映画に出た俳優陣を再出演させたり(でんでんのヤクザは良かったけど、神楽坂恵はろくに台詞もないし、脱ぎもねーし・・・:苦笑)ちょっと監督の“悪のり”も少々気になった。あと茶沢の両親の設定!!確かに震災後のいまも殺人事件は起きてるし、子供虐待して捕まった奴もいるけどさ・・・なんであんなにおかしな設定にしたのか!?「狂人出さないと俺の作品じゃねぇ」・・・と考えたのかも知れないが・・・これも震災後の日本としては止めて欲しかった。

 染谷将太二階堂ふみの2人は、ビジュアルは原作と全然似てないけど(苦笑)大熱演(→原作の古谷も絶賛)!!園の厳しい指導で現場ではいっぱいいっぱいだったようだが(ガチではたきあいもやらされてるし)、先の「ヴェネチア国際映画祭」では最優秀新人俳優賞にあたる「マルチェロ・マストロヤンニ賞」をW受賞!この2人の将来は大いに期待できよう^^。ちなみに原作のような<エッチシーン>はありませんので、学生さんは期待しないように♪


 原作読んでない人には、そこそこ好評なようだし、原作の“精神”は残ってはいるけれど・・・園子温は脚色の筆を誤ったと筆者は見る。すでに次回作の準備にも入っているようだが・・・次こそは頼みますよ!!