其の442:寒い冬のお薦め「八甲田山」

 2週間のご無沙汰です^^。
 寒〜い冬が続いていますが・・・そんな今日この頃、凄い映画を思い出したよ!その名も「八甲田山」(’77)!!明治時代に起きた事件を描いた新田次郎の小説「八甲田山死の彷徨」の映画化です。高倉健北大路欣也加山雄三森田健作三国連太郎丹波哲郎ほかオールスターキャストにして作品のスケールも考えると(音楽は芥川龍之介の実子、芥川也寸志大先生)もうこんな映画は日本じゃ絶対に作れないと思われる超大作だ。上映時間は3時間近くあるものの、ダレることなく一気に観られるゾ♪


 
 明治35(1902)年、ロシアの満州南下に伴い日露戦争は“開戦不可避”と予測した陸軍は、厳冬期の満州平野での装備品の研究および行軍調査・予行演習を目的として青森県八甲田山での<雪中行軍>の実施を計画する。そこで青森歩兵第五連隊(=率いるは北大路欣也演じる神田大尉)と弘前歩兵第三十一連隊(=リーダーは徳島大尉こと高倉健さん)がその任につくこととなった。徳島大尉の<三十一連隊>は「どうせなら八甲田ですれ違う行軍計画にしよう」という連隊長同士の約束を考慮し、民間人を道案内につける&職業軍人中心の少数精鋭で編成を組む。
 一方、神田大尉の<第五連隊>は、上官の指示により<中隊規模>の編成となり、加えて雪中行軍調査のための随員で指揮権のない大隊本部・山田少佐(=スーさんこと三国連太郎)らが同行することとなる。青森を出発後、八甲田山に登頂し始めたものの、道案内をつけずに方位磁石に頼る&雪山に慣れない人間が多く装備も軽装、大型ソリなど近代機械をも携行したことから進軍に影響が出始め、おまけに山田少佐の口出しによって指揮系統が混乱したまま行軍。結果、夜間まで目的地へはたどり着けず、進路を見失う。過酷な環境と疲労のために部隊員は次々と倒れていく・・・。果たして両大隊の運命は!?


砂の器」で知られる野村芳太郎監督(松竹)が新田の原作を黒澤組の脚本家・橋本忍東宝)に紹介したのが本作の始まり。それを“東映”で活躍していた大スター・高倉健や北大路主演で“東宝”で製作したのが面白い^^(監督は東宝森谷司郎)。弘前と青森の両連隊に競争意識があった、青森サイドが編成などが後手に回った、大隊の人数・・・等は、史実とは異なるそうだが(たまたま両連隊の日程が重なった)、この<対比>が映画を圧倒的に面白くしている。

 撮影では、実際に真冬の現地:八甲田山でロケを敢行!今作は“日本映画史上類を見ない過酷なロケ”として知られ、また日本映画で初めて人工的に雪崩を起こして撮影した作品ともいわれる。今作最大の見所は、勿論その壮絶な八甲田の状況!!雪の量、吹雪のすさまじさ・・・そんな中、バタバタと兵隊たちが発狂、凍死していく地獄絵図が繰り広げられていく。CGがない時代だから全てが本物。演じる方も大変だけど(まっぱで死ぬとかもあるし)、これの撮影準備(→機材やスタッフ、キャストの運搬、食事・宿の手配えとせとら)も相当大変だったに違いない(カメラには雪が付かないよう、レンズ横から温風を流す機械を取り付ける工夫も)。余談だが、立ちションした兵士がそれきっかけで凍死するシーンは、小学生時代に観た筆者のトラウマになっている(苦笑)。

 製作も兼任した橋本忍によれば、劇中インサートされる四季の風景撮りも含めて撮影期間、実に3年!数名の俳優がその過酷さに耐えられず脱走したという逸話もある(あの豪雪の中では仕方ないかも・・・)。“吹雪待ち”は度々で、中でも健さん扮する部隊は<少人数>なので、行軍の“引き”の絵を撮るため“遠距離へのカメラの移動待ち”も多く(=最長4時間、健さんたちは決められた“立ち位置”にいなければならなかった)、健さんは足が軽度の凍傷にかかった程。今作の撮影を担当したのは、大声で有名な木村大作(笑)!後に彼が初監督を務める「劒岳 点の記(つるぎだけ てんのき)」は、今作の経験があってこそ撮影できた・・・と筆者は推察する(この「劒岳〜」も実話にして原作が同じ新田次郎であることは決して偶然ではなかろう)。

 野郎たちが極限状態で繰り広げる男くさい群像劇にして、組織の在り方も問いかける重厚な作品(=遭難したのは無謀な命令を出しまくった三国のせい)ではあるが、合間に登場する道案内の可愛い女の子は若き日の秋吉久美子(驚)!彼女の出演シーンは観客を一瞬ほっこりさせてくれて良し^^。ちなみに健さんの奥さん役が加賀まり子、犬の声演る前の北大路の妻役は栗原小巻である(撮影当時、この2人つきあっとったらしいが、結局、北大路は別の人と後に結婚)。

 キャスト、そしてスタッフの頑張りの結果、北大路が劇中発するセリフ「天は我々を見放した」は当時の流行語に。日本映画として最終的な配給収入25億円は当時の新記録となった(この年の邦画興行成績1位が「八甲田山」、2位が「人間の証明」、3位が野村芳太郎監督の「八つ墓村」。「たたりじゃ〜!」も流行ったなぁ)。アメリカでは1位が「スター・ウォーズ」(→日本公開は翌年)、2位が「未知との遭遇」。1977年も“世界映画史”を語る上では外せない年でんな^^!


 全てが本物の迫力に満ちた「八甲田山」は、今観ても全く色褪せていない。実際に起こった事件を知らない若い人も多いと思うので、是非観てほしい一作。これ観たら、関東の雪なんぞどうってことなくなるよん(でも筆者は寒いの嫌いだけど)♪



 <どうでもいい追記>愛読誌「映画秘宝」で昨年のベストが発表され、1位は「ピラニア3D」!!いや〜、映画の醍醐味と洒落のわかる人々の投票でいいなぁ〜^^。大人の独身男性は勿論、妻子持ちの男子はこっそりひとりで観て欲しいね!マジで面白いから。