其の404:「冷たい熱帯魚」はエグイ!

 ・・・現在、風邪やインフルエンザが流行っているようで・・・ハードスケジュールの中、筆者も先週、熱出して1日倒れてしまった(幸い普通の風邪だった)。皆さんも空気が乾燥しているので風邪やインフルエンザに気をつけてくださいね!

 話変わってー。サディズムの語源となったマルキ・ド・サドの一連の著作(「悪徳の栄え」ほか)は徹底的に人間の暗黒面を暴き出したところが評価されているが(自身の趣味を延々擁護している気もしないではない^^)「愛のむきだし」の園子温監督作「冷たい熱帯魚」も人間の暗黒面を容赦なく描いた衝撃作!地球に生息している全ての生命体の中で、一番残酷で恐ろしい存在が“人間”だからね〜。今作は描写がエグ過ぎて<18禁>なのだが・・・年配夫婦や腐女子たちがブルーな顔して劇場を後にした姿が忘れられない(内容知らんできたんか:笑)。


 2009年1月、静岡県富士見市ー。小さな熱帯魚屋を経営する社本信行(→今作が初主演の吹越満)は、3年前に妻を病気で亡くし、ひとり娘の美津子と後妻・妙子(→「童貞放浪記」の神楽坂恵)の3人暮らし。だが、娘は妙子を“母”と認めておらず、その精神的苦痛から妙子も無気力同然な毎日。食事中でも会話はまるでない家族だった。そんな中、ひょんなことがきっかけで3人は巨大な熱帯魚店を経営する村田(→名脇役のでんでん)と、その妻・愛子(→「六月の蛇」の黒沢あすか)と出会う。村田の半ば強引な提案で美津子は翌日から村田の経営する店で住み込みで働きはじめた。
 ほどなく村田に呼び出された社本は、彼のオフィスで顧問弁護士・筒井(→「ソナチネ」の渡辺哲)と村田に新規ビジネスの投資を持ちかけられる。その投資者のひとり・吉田(→これまた名脇役諏訪太朗大先生)はさんざん迷ったものの社本の存在もあって、契約書に押印。だがその直後、吉田は愛子の飲ませた栄養ドリンクによって毒殺されてしまう!!死体を前に豹変した村田と愛子は社本を恫喝する。そう・・・2人はこれまで何十人もの人間を殺してきた稀代の殺人夫婦だったのだ!!


 今作は冒頭にクレジットされるように「埼玉県愛犬家連続殺人事件」や「北九州一家監禁拷問殺人事件」ほか実際に起こった幾つかの<猟奇事件(→興味がある方はそのテの書籍で調べておくんなまし。延々活字を読むのが面倒な人は、グロテスクな絵で描かれた、コンビニ売りの「実録漫画」でどうぞ:笑)>と、園監督の実体験(→その昔、詐欺師に大金を騙し取られたそうだ)を元に脚色されたもの(=脚本は園監督と映画ライター・高橋ヨシキの共作)。園監督自身は企画のオファーを受けた当初は、<実録犯罪>に大して興味はなかったそうだが、ホンを書き進めていくうちに“やる気”が出たという(劇中、村田が店員たちに言う「今日できることは今日やる!」といった台詞は愛犬家殺人の主犯が実際に使っていた言葉を引用している)。こうして完成した作品は全編、鮮血に染められた(笑)。

 なんといっても見所は、でんでん&黒沢あすかの強烈キャラ!でんでんさんは、これまで大量の出演作品(基本は脇役、ちょい役)においては“基本いい人キャラ”だったのに、温厚さと凶暴さを併せ持つマシンガン・トークの詐欺師にして大量殺人鬼というモンスターを怪演!ハンニバル・レクターは・・・軽く越えたね(ご本人的には「復讐するは我にあり」の故・緒形拳が演じた殺人鬼を観て影響されていたので嬉しいオファーだった、とのこと)。「欲と保身のためなら人を殺すのも厭わない人間」・・・猟奇事件の主犯って、大抵こんな奴ばかりなのだが、考えるだけで末恐ろしい人間!
 一方、黒沢あすかも外ずらはいいけど、豹変するとメチャ怖い<両刀使いの毒殺魔>という物凄い役(笑)。夫婦で下ネタ言いあって、笑いながら慣れた手つきで遺体を解体していく様子は・・・もう、ほとんどブラック・コメディだ。ちなみに黒沢も神楽坂恵も基本、胸チラするエロい洋服を着ているのだが(→2人共、脱ぎあり)これについては園子温曰く「(「氷の微笑」他で知られる)ポール・ヴァーホーヴェン師匠から学んだ鉄則」とのこと(大爆笑)!

 吹越満演じる社本(2大モンスターによって事件に巻き込まれる彼は我々、観客の立場に限りなく近い)は<人体解体>までは手伝わないもののーこの幾度か出てくる場面は西村喜廣による特殊造形(→遺体や生首、切り取ったち●ぽ等)と豚肉約200キロ分に血糊をかけての撮影。園は「愛のむきだし」でも美術さんたちと交じって血糊を塗りたくっていたが、今作でもこだわって現場が何度も“血糊待ち”したそうな(笑)。クライマックスではそんな血沢山の中で、●●と××(ネタばれ防止)がすんごいことになる!これは台本にはなく、監督が現場で加えたシーンだそうだが・・・近年の園子温石井隆同様、<血の映像美>に魅せられているのかもしれない(そういえば昨年公開された「ヌードの夜」続編でも人体解剖あったし)。

 でもね・・・クライマックスがちょっと・・・作劇上の予定調和と言おうか・・・サム・ペキンパーの「わらの犬」っぽいんだよね(→読む人が読めば分かる文章)。その為、オチも想像ついちゃった(苦笑)。この点がマイナスポイントとして筆者的には「愛のむきだし」の完成度より劣ると思うんだけど、テレビドラマの映画化とかに慣れた人たちにとっては十分、衝撃的な作品に仕上がっていると思う。その鑑賞直後の感触は一連の「アメリカン・ニューシネマ」に限りなく近い(筆者はニューシネマ、大好き^^)。

 
 園監督は早くも年内、実録犯罪を元にした第2弾(主演:水野美紀)が公開待機中!これも早く観たい!!また・・・エグいんだろうな(苦笑)。