其の413:血の近現代史「日本暗殺秘録」

 先日「ワケありな映画」(沢辺有司彩図社刊)なる書籍を購入。上映禁止にあったものや公開後にトラブルのあった作品が邦洋併せて46本書いてあるんだけど・・・映画のほか小説や漫画等の“封印作品”好きの筆者にとっては・・・メジャーなネタがほとんどで、さほど目新しい情報はなかった(苦笑:おまけに大半は今では観られるものが多いし)。誰もが知る名作をある程度観て「もっと映画に詳しくなりたい!」と思う映画初心者にとっては分かりやすいガイド本ではあるけれど。
 その本にも掲載されていて、ようやくソフト化された1本が昭和44(1969)年10月公開の東映作品「日本暗殺秘録」!!ビンラディンアメリカの特殊部隊によって殺害されたいま、今後無差別テロが世界各地で続発しそうだが、勿論、日本にもテロや暗殺事件は多々あったわけで、我が国の血の歴史を今作でふりかえって考えてみるのもいいだろう。てゆーか、この<暗殺バイオレンスアクション巨編>がソフト化されたことだけでも凄いこと!「姉さん、事件です!」(古っ)

 
 鈴木正の著書「暗殺秘録」をベースに幕末・明治・大正・昭和におこった9つの暗殺事件を再現したオムニバス映画。
 1:「桜田門外の変」・・・万延元年、水戸浪士ら(=若山富三郎他)に大老井伊直弼殺される。
 2:「紀尾井坂の変」・・・明治11年、大久保利通が石川県士族らによって刺殺される。
 3:「大隈重信暗殺事件」・・・明治22年、外務大臣大隈重信、爆弾を投弾され負傷。
 4:「星亨暗殺事件」・・・明治34年、伊庭想太郎が東京市会参事:星亨を殺害。
 5:「安田善次郎暗殺事件」・・・大正10年、安田財閥創始者安田善次郎(←なんとオノ・ヨーコの曽祖父)を朝日平吾(=菅原文太!)刺殺。
 6:「ギロチン社事件」・・・テロリスト集団「ギロチン社」の古田大次郎、摂政官暗殺の資金獲得のため、大正12年9月、銀行員殺害。逮捕され大正14年10月、死刑。
 7:「血盟団事件」・・・昭和7年「血盟団」メンバー:小沼正、前大蔵大臣:井上準之助を射殺。
 8:「相沢事件」・・・昭和10年、陸軍少佐:相沢三郎(=我らの高倉健さん!)、軍務局長:永田鉄山少将を斬殺。
 9:「二・二六事件」・・・昭和11年、青年将校らと民間人がクーデターを起こす!

 
 全編、殺しにつぐ殺しのオンパレード!中でも7の「血盟団事件」では犯人・小沼正(=千葉真一)の暗殺事件における裁判からスタートし、彼の生い立ちから血盟団に参加、暗殺行為に至るまでの過程を本編142分のうち、その大半をこの事件が締めている(後の「五・一五事件」、「二・二六事件」につながるため)。気になる事件がある方は、後は自分で調べてねん♪

 監督・共同脚本は中島貞夫(1934〜)。東大文学部卒業後、東映に入りマキノ雅弘今井正らに師事。64年に「くノ一忍法」で監督デビュー。以後、ヤクザ映画からエロまで多岐に渡るジャンルを撮りまくる(←本当は渡瀬恒彦主演のアクション映画「狂った野獣」(’76)あたりを紹介するのが普通だろうけどさ。)。前作「にっぽん69セックス猟奇地帯(東映ならではの凄すぎるタイトル)」が大ヒットしたので<エロの次はテロ>という発想で企画されたそうだ(爆笑:ダジャレか!)。

 中島と脚本家の笠原和夫(←「仁義なき戦い」も担当。故・岡田会長に合掌)は取材の過程(「愛国党」の赤尾敏先生の所にも)で「血盟団」の存在、さらには暗殺実行犯:小沼正が刑期を終えて東京にいることが分かる。そこで2人は小沼の元へ何日も通いつめてリサーチ。彼は撮影現場にも顔を出し、多々協力してくれたという(DVDの「特報」では小沼本人と千葉真一が談笑している映像がある)。当初は「大逆事件明治天皇暗殺計画)」も予定に入っていたそうだが、さすがにオミットされた。

 中島自身は当初は「セミドキュメントタッチ」を考えていたそうだが、大川博社長(当時)の鶴の一声で<東映オールスターキャストによる超大作>に変貌!ド頭の「桜田門外の変」の浪士に若山富三郎大隈重信に爆弾投げた後、自害するのが“キング・オブ・カルト石井輝男作品の良心”吉田輝雄。で菅原文太兄ィに、一番尺の長い「血盟団事件」の主人公:千葉真一(←テレビドラマ「キイハンター」を休んで出演。今作が本人的にも転機となった)に、千葉の師匠役が片岡千恵蔵御大。同志には田宮二郎(→契約問題でいろいろ揉めてフリーになってた)&村井国夫。淡い恋心を抱く職場の同僚には藤純子(現:富司純子)の姿も。健さんが一言「天誅!」と叫んだ後の「二・二六事件」では鶴田浩二、そして里見浩太朗(黄門さま、若っ!)の姿まで。いくら<東映>といっても、どマジな作品なんで由利徹とかは出てない(笑)。

 しかし、時はまだ学生運動がまだ行われていた1969年!いくら史実にのっとっているとはいえ、人気スターたちが大物政治家らを殺しに殺しまくる今作(だからソフト化されなかったのか??)。撮影開始直前、自民党の某大物政治家から電話で大川社長のところに中止要請があったそうな。結局は予定通り撮影に入った訳だが、そんなクレームもあったため、仕上げの段階で社長から中島に直接、鶴田浩二のラストの台詞をカットするよう、連絡がきたという。その為、映画は最後<ある一文>が出て終わるよう変更を余儀なくされたわけだが・・・この問いかけは、重い。お上に対する牙を抜かれた全ての日本国民が各自で考えるしかないだろう。筆者的には千葉の姿にアンジェイ・ワイダの大名作「灰とダイヤモンド」の主人公の姿が重なったし(テロに走るやるせない青春!)、ふと「造反有理」という言葉が脳裏に浮かんだりもしたのだが。。。

 「血盟団」以外は全編<映画のクライマックスの連続>のようだが、カメラの主観撮影のみで捉えたお話や、一部色調を変換しているエピソードあり・・・で、長尺ながら観ていて飽きさせない作りになっている(かつての人気スターたちがキラ星の如く登場するし)。いまの若い人には是非観てほしい1本!・・・どこまで若き日のスターがわかるかどうかは責任持てんけど(苦笑)。

 
 <追記>冗談かと思ってたら、マジでハリウッド実写版「AKIRA」が製作させるそうで(驚)。しかも金田役の候補にキアヌ・リーブスって・・・(唖然:いま撮影してる彼のハリウッド版忠臣蔵も充分ヤバい企画だが)!おまけに舞台も「NEO東京」から「NEOニューヨーク」に改変予定!これでは、まんま「ドラゴンボール」実写版の二の舞だぞ(←勿論、筆者が観ていないことは言うまでもない)!!ちょっとは学習しよーよ!!頼むから、マジでやめて(絶叫)!!!

 
 ・・・“ワケあり”といえば・・・東宝黒歴史作品「ノストラダムスの大予言」は、いつか国内でソフト化される日は来るのだろうか?やはり一部カットされた海外版で観るしかないのか?小学生の時、テレビ放送で観た記憶がおぼろげにあるのだが・・・改めて是非観たい!!!