其の436:爆笑カンフーバトル「片腕ドラゴン」

 いよいよ激動の2011年も残り1か月弱・・・。
 この映画ブログには、実のところほとんど扱っていない映画ジャンルが多い。中でも「文芸もの」や「史劇」、「恋愛映画」とかはほぼ皆無(笑)!勿論、観てはいるんですけどね・・・ただデヴィッド・リーンの「アラビアのロレンス」や「ライアンの娘」、「十戒」のほか「ベン・ハー」に「風と共に去りぬ」・・・なんて辺りはメジャー過ぎて筆者がわざわざ書く必要もないと思っているので。そういう意味では「カンフー映画」もほとんど取り上げていない。すでに優れた研究本がいくつもあるし、特にブルース・リーに関しては敬愛する江戸木純先生の書籍を読んでほしいと思うので、あえて避けていた次第。でも“天皇巨星”ことジミー・ウォングの作品は・・・日本ではリーやジャッキー・チェンほど人気出ないね(苦笑)。そんな訳で、彼の代表作「片腕ドラゴン」(’72)をご紹介!リーやジャッキーのカンフーとは一味違うゾ(良くも悪くもつっこみ所満載)♪

 
 中国・清朝末期(おそらく)−。道場「正徳武館」に所属するティエンロン(=ジミー)は、街で悪事を働く道場「鉄鈎門」一派の行動が見過ごせずに対決、戦いに勝利した。この事態を受けて「鉄鈎門」の親分・ザオは弟子たちと共に殴り込みに向かうも「正徳武館」を主宰するハンに撃退されてしまった。怒り狂ったザオは、海外から武道の達人たちを雇い入れ「正徳武館」の面々を次々と惨殺、ティエンロンも右腕を斬り落とされてしまう!九死に一生を得た彼は、残る左腕を鋼の如く鍛えあげ、最凶武道家たちとの最終決戦に挑むー!!

 
 ジミー・ウォングは1943年、中国・江蘇省生まれ。高校・大学時代には水泳や水球の選手として活躍(→のちに試合中の乱闘事件により選手資格を剥奪)。その後、香港の映画会社ショウ・ブラザーズのオーディションに応募して合格、1964年、俳優デビュー。67年、主演作「片腕必殺剣」のヒットでスターダムにのし上がり、東南アジアでは“天皇巨星”と謳われるほどの人気を得る(→チョウ・ユンファが「男たちの挽歌」の大ヒットで“亜州影帝”と呼ばれるのと同じパターン)。70年には脚本・主演・初監督の「吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー」が大ヒット、カンフー映画の先駆的作品となった。今作をロスで観たブルース・リーが「(主人公は何故)足を使わないんだ!」と、その出来に憤慨、香港に戻って「ドラゴン危機一発」(’71)を撮るきっかけになった(?)というエピソードもあり^^。 同年、レイモンド・チョウ率いるゴールデン・ハーベストに移籍。72年、「片腕ドラゴン」を主演・脚本・監督した。ちなみにタランティーノの「キル・ビル」の元ネタのひとつ、「片腕カンフー対空とぶギロチン」(’76)は今作の続編!
 ところが暴力事件や香港黒社会との関係が噂され(→そのせいもあってかジミーにお呼ばれすると、ジャッキーはダッシュで駆けつけるといふ)活動の拠点を台湾へ!プロデューサーとしても活躍するようになり・・・現在に至る。

 
 <悪党が外国人用心棒を雇って、いいモンの仲間たちを皆殺しにし、主人公が特訓して復讐を果たす>というアウトラインは初監督作「吼えろ!ドラゴン〜」まんま(苦笑)。それに<主人公が隻腕>というハンディキャップを加えたのは、出世作「片腕必殺剣」をアレンジ&前年に勝新太郎(!)と競演した「新座頭市・破れ!唐人剣」の影響もあったのかもしれない(現在、「〜唐人剣」は“封印”されて未ソフト化。なんとかしてくれ)。前半は道場VS道場の<集団戦>、後半は主人公VS武道家の<個人戦>へと移行する本作。今作は“異種格闘技戦のルーツ”という説もあるが・・・ホンマかいな?!ジミーが戦う相手は日本人の空手家&柔道家琉球空手の達人、ムエタイの選手、チベット密教の僧侶、おまけにインドのヨガの達人とメガ盛り状態なのは事実だが。
 ストーリーと同じく主人公もベタベタな<正義の拳法使い>という設定なんだけど、対するメンバーがキャラ濃すぎ!!インド人(←どう見ても中国人がドーラン塗って黒くしただけ^^)は逆立ちしながら攻撃してくるし、チベット僧は<気功>で身体を膨らませる(「北斗の拳」のハートか:笑)。ラスボスとなる日本人の空手家なんて構えはカンフーで、何故か牙が生えてて、どうみてもドラキュラ(爆笑)!で、こいつの手刀は主人公の右腕を斬り落とし(唐突にスパカーンと切れるんで驚くぞ)、更には道場の柱をも切り裂く!!大山倍達は軽く越えたね(満点大笑い)。

 ジミーさんは運動神経がいいっていうだけで、リーやジャッキーみたいに昔からトレーニングしていた訳じゃないので、2人のような“超絶アクション”は正直ない。その為、敵役に<とんでもキャラ>を配置したと思うんだけど、主人公にもとんでも設定を加えることを忘れない。残った左手を炭火に入れて焼き(→従来の神経を焼き払う、と劇中説明あり)医師が持っていた“秘薬”に漬けることで、石をも砕く強靭な拳を手に入れる・・・。全編、漫画みたいなお話なんで、この辺りを「ありえね〜」と言いつつ面白がれないと今作を観るのはつらいかも。セットもチープだし(=背景、書割りバレバレ)、ラストで戦う荒地(てゆーか禿げ山の裾野)は、日本人的には「仮面ライダー」や「秘密戦隊ゴレンジャー」をいやでも彷彿させる。

 
 ・・・でもね、ジミーさんが大真面目に演ってる分、ジャッキーの初期コミカル・カンフー路線(「酔拳」、「蛇拳」、「笑拳」)とは違った“笑い”はあるし(←本人は絶対、笑いとる狙いはなかったと思うが)、“片腕戦士”という設定は、後年ツイ・ハークの傑作「ブレード/刀」(’95)に受け継がれ、“次々と武道家と戦う”アイデアブルース・リーの「死亡遊戯」(’78)や「キン肉マン」の超人オリンピック、「ドラゴンボール」の天下一武道会ほか一連の「少年ジャンプ」の基本パターンになったような気が・・・しないでもない(強引?!)。続編「片腕カンフー対空とぶギロチン」と併せてカンフーファン、ひいてはアクション映画ファンは死ぬ前に一度は話のタネとして観ておくのもいいだろう。マジで笑えるんで^^


 <追記>本当に今年は・・・映画館にいかなかったなぁ。年末に総括しようとは思うけど(溜息)。