其の435:これもカルト「血を吸うカメラ」

 このブログを読んで「こいつの書いてる映画、全然わからん!」とお嘆きorお怒りの方には「仰天カルト・ムービー100」(洋泉社刊)という“映画初級者向け”マニア解説本が出ているので、是非そちらを読んで頂きたい。映画おたくが読むと、洋画オンリーであることと、文章が分かりやす過ぎて少々物足りないけど(笑)。でも、この本に何故か「血を吸うカメラ」(’60)が載ってない!!これも大メジャーな“カルト映画”なのだが(注:おたくにとっては^^)。タイトルだけ読むと大蔵貢社長時代のエログロ新東宝作品だと思われそうだが洋画ですので(笑)そのテのマニアの方はご注意あれ。


 映画監督志望のマーク(=カール・ベーム)は、撮影所でカメラマン助手をつとめるかたわら、ヌード写真撮影のアルバイトをして暮らす孤独な青年。彼は8ミリカメラを片手に女性を殺害し、その様子と断末魔の表情を克明に撮影。そのフィルムを映写して観ることに生きがいと快感を感じていた。ドラという娼婦を殺害し、フィルムを観ていたある夜、階下に住むヘレン(=アンナ・マッセイ)がマークに声をかけたことがきっかけで2人は知り合い、やがて互いに惹かれあうようになる。だが彼の殺人撮影癖は止まらない。新人女優を騙して深夜の撮影スタジオに連れ込み、撮影&殺害するマーク。これが発端で、警察は業界関係者に犯人がいるとの目星をつける。ヘレンへの愛と殺人への欲求で苦悩するマークだが・・・。


 上記あらすじで分かるように今作は<人食いカメラによるパニック映画>ではありません(笑)。いまでいうサイコ・スリラーの1本。原題は“PEEPING TOM”ー訳すと“出葉亀”とか“のぞき魔”の意味。邦題とのギャップが凄いね(苦笑)。でも、もっと凄いのは、今作の監督が名作「黒水仙」(’46)、「赤い靴」(’48)で知られるマイケル・パウエルであることだろう!

マイケル・パウエル(1905〜90)はイギリス・ケント州生まれ。1925年に映画界に入り、’31年、初監督。中でも’39年以降から’57年までエメリック・プレスバーガーとコンビを組んで芸術性の高い作品を作り続けたことで知られている(先述の2作品のほか、「天国への階段」「ホフマン物語」等多数)。そんなパウエルがピンで共同脚本・監督を兼任したのが、この「血を吸うカメラ」だ。レオ・マークス(原案・共同脚本)による持ち込み企画だったそうだが(元々は心理学者のフロイトを扱うものだった)方針を変更し、フロイトの心理学は作中のモチーフのひとつとなった。パウエルはイギリス時代のヒッチコックの助監督を務めたこともあるので、スリラーを作ることは多少なりとも“師匠”を意識したのではないか、と筆者は推測してる(違ってたらごめんね^^)。芸術作品ばっか作るのもあきたろうし(笑)。その師匠ヒッチコックがハリウッドで同時期に、同じく異常心理を扱った「サイコ」(’60)を作ったのは・・・歴史の偶然か、神の悪戯か?

 この「サイコ」と「血を〜」を比較すると、同じサイコ・スリラーであっても、ご存じのように「サイコ」は<被害者目線>の作品だが、「血を〜」は<殺人者目線>の倒叙形式。で、共通する<異常殺人鬼>は「サイコ」が母親によって、「血を〜」は父親によって倒錯者へと変貌する。また「サイコ」はモノクロで撮影されたが、「血を〜」を赤を基調にした毒々しい色彩のカラー作品。ここまで<対>をなすというのも・・・単なる偶然か、はたまた神の悪戯か(←大袈裟)?

 パウエル自身も先の色彩設計の他、人物へのズームアップとかカメラの“ファインダー越し”の殺人とか、自分がこれまで使ってない手法を次々と取り入れた他、主人公の少年時代の“子役”として、実の息子を起用するなど大いに現場を楽しんだようだ。まぁ、細かいこといえば<冒頭の殺人場面>はあんなところにカメラ隠したのに、撮影している部分の位置が遥かに高いとか、ずーっとフォーカスがあってるとか、決してリアルではないんだけどさ(笑)。

 <対>のお話に戻るけど、“師匠”ヒッチコックの「サイコ」は大ヒットしたうえ、批評家にも評価されたけど、「血を〜」の方は公開されるとボロクソにけなされ、それまでのイギリス映画界での地位は失墜!パウエルはその後、長きにわたり映画を撮れなくなっちゃった(可哀想)。どのジャンルにもあることだけど“早すぎた”んだろうね。正直、出来は皆がいうように「サイコ」程ではないけれど、主人公の特異性、ストーリー展開&底辺に流れるエロ(笑)で最後まであきずに観られる。21世紀にも十分通用する作品でしょう。

 「血を〜」が評価されたのは、公開から20年ほどの後、マーティン・スコセッシの尽力があってアメリカ・ニューヨークで再上映されたことがきっかけだが、そのパウエルの3人目の奥さんが、スコセッシ組の名編集マン:セルマ・スクーンメイカーだったというのは・・・これは単なる偶然じゃないんちゃう?こういったことも映画を知る上では楽しいだろうと思う。もっとも日常生活を営む上では全くいらないトリビアだが(苦笑)。


 
 <どうでもいい追記>激動の2011年も、残り早1か月!前から告知している<某シリーズ作の研究>は・・・遅々として進まず。2012年12月の人類滅亡の日までには数回に分けて執筆した上で、この世から消えたい(笑)^^