其の434:園子温最新作「恋の罪」

 「愛のむきだし」、「冷たい熱帯魚」の園子温監督最新作「恋の罪」。1997年に起こった「東電OL殺人事件」にインスパイアされたオリジナル・ストーリーなのだが・・・今作も相変わらずパワフルな内容だった!平日の午前中、劇場で多くのシニア世代の方々とまじって観たのだが・・・内容知ってて来たのかね??まぁ、いずれにしても朝から観る映画じゃないんだけどさ(苦笑)。<18禁>なんで、これ読んでも青少年は観ちゃダメ!!
  

 1990年代末、渋谷・円山町ー。廃屋と化したアパートで頭部のない女性の身体にマネキンが接合された変死体が発見された。この猟奇殺人事件を担当することになった女刑事・和子(=「踊る大捜査線」の水野美紀。同じ水野でも真紀じゃないよ)は、夫・子供がいるにもかかわらず愛人がいる。捜査は、まず被害者を確定する為「捜索願」の出されている女性たちをあたることから始まった。
 ここで少し時間は遡って・・・作家の夫を持つ献身的な主婦・いずみ(=元グラドル・神楽坂恵)は、家事以外にすることがない上、セックスレス。寂しさと虚しさからスーパーで働くことにする。すると、モデルプロダクションを名乗る女社長が彼女に声をかける。後日、スタジオに呼ばれた彼女を待っていたのはアダルトビデオの撮影だった・・・。これがきっかけでいずみは職場でも明るくなり、夫に内緒で自ら男を誘っては寝るようにもなる。そんなある日、ナンパされたいずみは相手とトラブルになる。そこを助けてくれたのは街頭に立つ娼婦の美津子(=冨樫真)だった。この美津子、実は良家の子女で、昼間は大学で日本文学を教えるエリート助教授!昼と夜であまりにも違う二重生活・・・美津子に魅かれたいずみは行動を共にするようになるのだが・・・捜査を続けるうち、和子はいずみと美津子の恐るべき真実を知る!!

 
 上映中なので、あまり詳しく書かないようにしますが・・・「恋の罪」という一見、ロマンティックなタイトルがついているけど、筆者なら「性欲の嵐」とつけるね!とても「恋」なんて甘っちょろいもんじゃない(笑)。あらすじでも分かるように、東電OL殺人事件の“実録もの”ではないのでご注意あれ。園監督的には前作「冷たい熱帯魚」で女性をモノのように扱ったので、それを“反省”して、女性目線で「女性映画」を撮ったとコメント。水野美紀を“ストーリーテラー”として神楽坂恵冨樫真、2人の堕落&愛憎が濃密に描かれてゆく。

 水野美紀は従来通りの「女刑事」役だが、冒頭から全裸ヌードを披露するわ(←ほんのちょいなんで過剰な期待は禁物よん♪)、ドSの愛人に言葉責めされるわ(笑)、性的に少々屈折した現代女性を好演。神楽坂恵は全裸演技も含めて大熱演だけど・・・演技は相変わらず下手だな(苦笑)。ただ、近年珍しい<脱ぐ巨乳女優>として、これからも頑張ってほしい(年内に園監督と結婚するそうだが・・・そうしたら脱がなくなるのかしら?)。

 でも今作でなにより凄いのは冨樫真の怪演!!昼のエリート助教授(注:いまは准教授だけど、当時の表記に合わせてマス)と夜の立ちんぼ(江戸時代でいえば夜鷹さん)姿は、メイクや衣装は勿論、演技もまるで違う!!いずみに「愛が無ければセックスしたら金をとれー!!」とか「わたしのとこまで堕ちてこいー!!」等、挑発しまくるメフィストフェレス。で、男の上に乗っかって大声で笑いながら高速で腰を振る(笑)!園作品の系列でいえば「冷たい熱帯魚」の強欲変態夫婦と同一線上のモンスターキャラだが、彼女のパワフルさ&キョーレツさに筆者は圧倒されましたよ。筆者が日本アカデミー賞の会員だったら、助演女優賞に彼女を推すわ^^!!

 遺体のある廃屋アパートのセットやカフカの名作「城」、「ベニスに死す」で有名なマーラー交響曲第五番、田村隆一の詩「帰途」を劇中使用するなど園監督らしさが満載の超ヘビー級問題作だが・・・筆者的には不満も少々。<変死体>は、園監督は江戸川乱歩をイメージしたらしいが、こういうの一時期テレビの刑事ものでもあったし、乱歩よりは「多重人格探偵サイコ」の方を筆者は思い浮かべた。水野美紀の捜査シーンでは常に雨降ってるんだけど「心が渇いている」ことに対する心象風景の狙いは分かるが・・・これじゃブラピの「セブン」のまるパクリ。<堕ちてゆく女>というのも、先述の<雨>も映画ファンが連想するのは一連の石井隆作品ー。実は以前観た光景、内容が多いんだよね、この映画。さすがにメインの女性3人、全て脱がすのは富野由悠季の初期作品の真似じゃないとは思うが(笑:最初の「ガンダム」では、セイラさんもミライさんもフラゥ・ボウもみんな脱いでる)。

 あと人物造形が(特にいずみ)ベタ過ぎるでしょう。1990年代末に、いくら亭主関白の夫とはいえ、奥さんが毎日決まった時間と場所にサンダルをセッティングしたり、紅茶入れたりとかもうしてないだろう。40〜50年代の話ならいざ知らず。また大人しい貞淑な妻がセックスしたら、女の歓びに目覚めて明るい性格になって率先してヤリまくるって・・・処女失ったんじゃないんだから極端すぎるって(爆笑)!いずみが無知で世間知らずということは見ていても分かるけど、結婚以前の彼女がどうだったのかまるで説明がないので、ただ意味なく自分探ししている欲求不満ちゃんにしか思えなかった(→これは水野美紀のキャラも同様。説明がないから、なにがきっかけで不倫してんのか分からない。以前の描写があるのは唯一冨樫真だけ)。映画は基本、嘘なんだけど「これは現実ですよ〜」って創るもの。肝となるキャラが説明不足では観ていて感情移入できないよな。あのオチで(ネタばれになるから書かないけど)“女性の解放”とか“女性賛歌”といわれても・・・(悩:結果、あんなになって女性は嬉しいのか?)。人間も所詮、“動物”だから、それを描く媒体として性行動を描くのは必要だとしても「セックスだけできれば万事OK」みたいな発想は、思考を停止したバカとしか思えないのよ。そんな人間ばかりになったら、文明は一向に進歩しないだろう。「3.11」を経験したいまとなっては高橋ジョージじゃないけど「なんでもないようなことが 幸せだったと思う♪」と思うし。いまいる環境をよりよくすべく必死に上を目指して前に進む・・・という女性像にしてほしかったな〜。その他、何故遺体をマネキンと接合したのかとか、全体的に説明不足の多い今作。自ら脚本を書いた園監督には、今後注意して頂きたい。

 
 細かいこと言えばきりがないけど(捜査本部が妙にしょぼいとか、刑事が水野と部下の2人だけとか:笑)石井隆同様、人間の暗黒面を容赦なく暴き立てる園子温の作風は、日本にとっては大変貴重なもの(→「恋の罪」のタイトルは、人間のダークサイドを見つめて実践したマルキ・ド・サドの同名著作からきてる)。今回は筆者も園ファンのひとりとして大分厳しい意見を書かせて頂いた。決して悪い出来ではないのだが、期待が高過ぎたせいもあるかもしれない・・・。来春公開の新作「ヒミズ」に期待すっか!

 
 <どうでもいい追記>過労がたたって(?)先日、急性胃腸炎を起こしてしまった。幸い1日で復活したけど・・・筆者はHに耽るより健康でありたいとそう思った。健康でないと映画も観にいけないしね^^