其の427:出崎監督を偲んで「エースをねらえ!」

 出崎統(でざき・おさむ)さんが本年4月17日に亡くなられた(→本当は「さき」の字は違うんだけど、何故かここでは誤変換されることと、長い事「出崎」表記であったため、ここではあえて「出崎」とする)。言わずとしれた日本を代表するアニメ監督、演出家、脚本家、漫画家・・・である。筆者は子供の時から出崎作品のファンだった。
 「あしたのジョー」に「ベルサイユのばら」、「ガンバの冒険」、「宝島」、「コブラ」に「ゴルゴ13」に「ブラックジャック」・・・(「さきまくら」ないし「斉九洋」名義でファースト「ルパン三世」の絵コンテも担当している)。どれもが美しく、相反する言葉だが迫力があって、流麗で可憐でシャープで・・・あ〜、いくら誉めても足らない!!わずか20代で「あしたのジョー」のチーフ・ディレクターになった出崎を「ガンダム」の富野由悠季(旧:喜幸)は「その才能に嫉妬した」、「銀河鉄道999」や「幻魔大戦」のりんたろうも「演出技法を真似してみたけど、彼ほど上手くできなかった」と述懐するほどの才人だ。そんな天才・出崎の作品数あれど「エースをねらえ!劇場版」も納得の一作!これ公開が30年以上前・・・勿論、リアルタイムでも観たし、テレビ放送でも観たのだがー久々に再見して、さすがの出崎演出に感動してしまった次第。


 岡ひろみ(声:高坂真琴)は横浜にある県立西高テニス部に所属する1年生。西高は“ジュニア・テニスの名門校”として知られ、ひろみは部の先輩であり、その華麗なプレイから<お蝶夫人>と呼ばれる竜崎麗香(声:池田昌子)に憧れ入部したクチだった。そんなある日、テニス部に新しいコーチとして宗方仁(声:野沢那智)がやってくる。宗方は就任するやいなや地区大会の代表選手の一人に新入部員のひろみを指名する!動揺する部員たち・・・。こうして、ひろみに対する宗方の猛特訓が開始された。その様子を竜崎は怒りを感じながらも冷ややかに、また男子部のエース・藤堂貴之(声:森功至)は、ひろみに淡い恋心を抱いたまなざしで見つめていた。はたして宗方の真意は!?そして、ひろみの運命はー!?


 超メジャー作だけど「エース〜」を知らない若人たちのために、誰もが知ってる話をつらつら書いてしまった(苦笑)。要は愛と青春と苦悩を描いたスポ根テニスアニメっす。山本鈴美香の同名漫画、2度のテレビアニメ化を経ての<劇場版>である。出崎が監督した最初のシリーズの“総集編”と思われがちだが、製作に1年、4億円(当時)の製作費をかけて(→「予告篇」にあり)作られた<劇場用オリジナル>なのだ!2度のテレビアニメは、ど頭から何故か原作の途中までしか映像化されなかったが、今作も終わりは同じところまでとなっている(→余談だが、後年、原作の中盤以降を映像化したオリジナルアニメの監督も出崎が担当した)。

 今作のなにより凄いのは・・・テレビでは26話かけたストーリーを、ぬ、ぬわんと僅か88分に凝縮!!それなのに全てが過不足なく描かれているのは驚異的!!原作&アニメを知ってる人から観れば「音羽京子がひろみをいじめてない!」とか「宝力冴子が出ない!」「お蝶夫人に恋する尾崎のエピソードがない!」とかあるかもしれんが、展開がスピーディー&演出が華麗にしてパワフルなので、観ている間は微塵にもそんな些細なことは感じない(ちなみに脚本は、のちに作家に転身した藤川桂介)。出崎作品の特徴といえば以前にも書いたが「止め絵」に「透過光」、「マルチ画面」に「繰り返し」エトセトラ、エトセトラ・・・と多々あるが、この作品でも適材適所に使用され、絶大な効果を生みだしていることは言うまでもない^^!!

 勿論、今作の作画を担うのは、出崎とゴールデンコンビと謳われた杉野昭夫!2人の絶頂期における1本だけに、その作画水準の高いこと。実は・・・原作漫画の絵はかなり雑なんだけど(山本先生、すみません)ここまで緻密な作画になったのは、どう考えても絵師・杉野の功績だろう^^。特にクライマックスの<ひろみVSお蝶夫人>の試合は・・・ド迫力!!とても30年以上前の作品には思えない(これまた驚き)!美術の小林七郎によると、出崎の絵コンテは指示用の書類ではなく、あくまで「たたき台」であるとし、中でも今作では、絵コンテのイメージを徹底するため、全カットごとに原画マンによるレイアウトを元に作画・美術・撮影の主要スタッフを集めて打ち合わせを行うという“前代未聞の作業”を行ったそうだ。

 粗筋でも書いたように、声優陣も超豪華キャスト!!ヒロイン・ひろみ役の高坂真琴は資料によると「オバケのQ太郎」とか「勇者ライディーン」、「ムテキング」も演ってたようだが・・・いまいち記憶にないなぁ(苦笑:高坂さん、すんまそん)。<お蝶夫人>役の池田昌子は勿論、「銀河鉄道999」のメーテルだよ〜ん(→ちなみに筆者はご本人からサイン貰ったことがある:我が家の宝デス)♪宗方仁にはアラン・ドロンの吹き替えで有名な故・野沢那智(合掌)。
 その他、藤堂役は「ガッチャマン」や「ガンダム」のガルマ役で知られる森功至。粗筋では切ったけど、ひろみの親友・愛川マキ&ペットのごえもん役は「忍者ハットリくん」の菅谷政子、<お蝶夫人>の父親役は「ルパン三世」の銭形警部こと納谷悟朗が担当。後年、高坂と野沢が対談した際、今作を野沢は「自信をもって人に観てみなよと言えるアニメーション」、高坂は「人生の宝物」だと絶賛している。

 出崎本人はパンフレットに「これがアニメだよ、とすべての人に語りかけることの出来るそんな作品は・・・あの「白雪姫」は・・・我々には作れない・・・。」「未熟さ故の多くの反省とミスが残った」等と書いているが、いやいやそんなことはありません!大傑作だと思う。但し、<創作者>というのは、完成したものの出来に100%満足することはない人のことだと思う。筆者も毎回、大満足していたら「もうやれることは全てやった」と考えて、業界辞めて他の仕事やってるって。満足できず悔しいから続けている・・・というワケ。なので出崎の心情は痛いほどよく分かる。出崎の手法を用いて番組のVTRを作ろうと何度思ったことか!!
 ・・・にしても、これだけの作品をモノにしても、まだ満足できずにいた<天才・出崎統>・・・日本アニメ界は本当に惜しい人材を失った。心よりご冥福をお祈り致します。


 ち・な・み・に、当時の同時上映はサスペンスコメディー「ピーマン80」。タイトルだけでも、時代を感じるな〜(笑)。主演は「ずうとるび」の新井康弘と谷隼人、加えてアン・ルイスに<女子大生役>でピンク・レディーも出演(懐)!ソフト化されていない幻の珍作だが、筆者の記憶では結構面白かったゾ!出来ることなら、こちらももう1回観たい。