其の494:巨匠の新作2本寸評

 いつものように多忙で間が空きました。ふとカレンダーを見ると・・・今週末からゴールデンウィーク(←これ映画界からきた和製英語)!早っ(焦)!!


 そんななか「AKIRA」で知られる世界的アニメ監督・大友克洋の作品を含む4話構成のオムニバス「SHORT PEACE」(7月公開)を試写で観ました。実に9年ぶりとなる大友の新作は「火要鎮(ひのようじん)」という江戸時代に材を取ったもので・・・確かどっかで<展示上映>されてたと思うんだけど・・・いや〜、さすが日本製アニメ!どの作品もめっちゃクオリティ高いわ。この出来なら当分、アニメ技術に関しては他所の国に負けないネ^^
 ホント1本1本出来はいいんだけど・・・4本併せてもトータル60分ちょいの尺だから、それぞれもっと長い時間観たくなる(ある意味贅沢、ある意味勿体ない)!・・・で、映画館では1800円とられるだろうから・・・コストパフォーマンス的にはちょっと悪いかな?!ただ最先端のアニメ技術に興味のある人なら十分元は取れるだろう。7月の公開に乞うご期待(でも同時期公開のジブリ作品の方に客は行くんだろな〜)!


 さて頻繁に試写会に顔を出した筆者が、しばらくぶりに“映画館”で観たのがスピルバーグの新作「リンカーン」。日本のバラエティー番組でもなければ、ヴァンパイア・ハンターもやってないマジなリンカーンの方(笑)。絶賛上映中につき、さくっと書きマス。

 
 南北戦争4年目となる1865年1月。第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンダニエル・デイ・ルイス)は「奴隷制廃止」を実現する「合衆国憲法修正第十三条」を成立させるため奔走(→上院では既に可決していたものの、下院では自身の共和党内の票を取りまとめても未だ可決に20票足りない状況だった)。リンカーンとその閣僚たちによる反対派への必死の切り崩し工作を行った日々を丹念に描くー。


 ジャンル的には「伝記もの」になるんだろうけど・・・「政治ドラマ」、「法廷もの」あるいは「会話劇」と言っても差支えなかろう。何故ならば、ほとんど室内で会話してるシーンばっかだから(笑:“南北戦争”だからって、大戦闘シーンやマカロニウエスタン的ドンパチは期待しちゃダメ)。リンカーンの晩年のほんの一時期にのみ焦点を当てて構成された一作。以前紹介した「ヒッチコック」同様、リンカーンの過去の経歴とか、何故奴隷制に反対するようになったのか・・・とかは台詞でちょっと語るだけなので(スピちゃんは「みんな知ってるだろうから省略!」というスタンス)全くリンカーンの生涯を知らない人は<自主的予習>が必須。製作に12年を費やしたことだけはある骨太の力作です。

 <見所>は何といっても名優ダニエル・デイ・ルイスの演技!ビジュアル的にも有名なリンカーンの写真に→→→激似!!さすがにリンちゃんの映像はないので、仕草や口調は不明だが、穏やかに相手に諭すように話しかけることで(ユーモアも含め)相手を魅きつけてゆく・・・観ている内に「本人もきっとこうだったんだろうなぁ」と不思議に納得させられましたわ。まさに「奴隷制廃止いつやるの?今でしょ!」っていう感じ(笑)。また仕事以外でもヒステリー持ちの妻、長男との関係に苦悩する<家庭に恵まれなった男>の悲哀をも巧みに演じきった。当初は演じる役が役なだけにオファーを断ったそうだが、今作で見事、史上最多となる3度目のアカデミー主演男優賞を受賞。さすがデイ・ルイス^^

 スピルバーグはここ20ウン年、<エンターテイメント作品>と<シリアス作品>を創り分けているけれど、本来のエンタメ路線が近年はイマイチながら、今回のシリアス作品も好調!下手にハリウッドお得意の“感動作”にしなかったのも筆者的には高評価。テンポもよく2時間30分の長尺を全く飽きさせない。名手ヤヌス・カミンスキーの映像も、戦争当時の陰鬱なムードを良く表現していて「いいね!」。残念なのはジョン・ウィリアムズの音楽が・・・今回も・・・いまいち印象に残らないスコアだったなぁ(残念)!演出や俳優の演技、映像が良かっただけに、その点が惜しまれた。次作に期待するか!



 またちょっと遅い追悼だが・・・三國連太郎さんも亡くなりました。若い人は“スーさん”のいい人イメージなんだろうけど・・・個人的には彼と緒形拳が人殺しの役とか演ると、本当に怖かった!!
 またひとり日本を代表する名優・怪優が失われた・・・。心よりご冥福をお祈り致します。