其の672:本邦初の大人のアニメ「千夜一夜物語」

 仕事で超ハードな日々が続いています・・・。救いはようやく秋らしく(=涼しく)なってきた事かな・・・(虚)。

 筆者は実写は勿論、アニメ映画も大好きで寝る前に少々、アニメのソフトを観たりもする。観る率が高いのは「カリオストロの城」に「イデオン発動篇」、「逆襲のシャア」あたり(めっちゃ偏ってる:笑)。そんな嗜好もあるので、久々にアニメ作品をご紹介!故・手塚治虫総指揮による「千夜一夜物語」(’69)を取り上げます。「アニメラマ」なる造語(=アニメとドラマの結合、アニメのシネラマ化の意)がつけられた、これぞ"日本初の大人のためのアニメーション映画(エロあるから)"!!


 貧乏な水売りの青年アルディン(声:青島幸男)は砂漠を越えてバグダッドにやって来る。ある日のこと、女奴隷市場で売りに出された18歳の美女ミリアムに一目惚れした彼は、オークションに参加するも金がなくて惨敗!すると、街を竜巻が襲い、そのどさくさにまぎれて彼女を連れ出し、人気のない豪邸に逃げ込む。愛し合う2人・・・だが、そこは覗き趣味のある大金持ちの変人・シャリーマンの屋敷だった。あえなく監禁される2人。そこへ野心家の官吏バドリーと40人の盗賊が急襲!アルディンは捕らえられ、ミリアムと引き離されてしまうー!


 ・・・これ以上書くと未見の方の興味が半減すると思うので、粗筋はここまでですな^^!皆さんもご存じのイスラム世界の説話集「千夜一夜物語アラビアン・ナイト)」をベースにしながらも「女護ヶ島」や「バベルの塔」等、他からもネタを持ってきて手塚先生らしいイマジネーション溢れる冒険が繰り広げられる。しかも上映時間130分の大作^^!

 とにかくスタッフが凄いのよ・・・総指揮、構成脚本(共同)が手塚治虫、監督は後に「宇宙戦艦ヤマト」に参加する山本暎一。キャラクターデザインと美術に「アンパンマン」のやなせたかし(!)。作画スタッフに手塚先生&やなせ先生の他、筆者が敬愛する出崎統に「銀河鉄道の夜」やあだち充作品を監督する杉井ギサブロー、ノンクレジットながら「ルパン三世」の大塚康生も!音楽は冨田勲大先生、主題歌を歌うのは「ルパン」のチャーリー・コーセー!!アニメファンなら「おお!」と唸る超豪華メンバーである。あくまで・・・コアなアニメファンだけだけど(笑)。

 元々は日本ヘラルド(洋画系配給会社)から手塚先生が社長を務める虫プロに企画が持ち込まれ(今作が虫プロ初の劇場作品)、ゲーテの「ファウスト」やボッカチオの「デカメロン」が検討された結果、最終的に「千夜一夜物語」に決定。山本監督らがまとめた脚本を手塚先生が絵コンテで膨らませたところ・・・膨らませすぎて(笑:時間にして4時間分もあった)、山本監督があっちゃこっちゃ整理しながらストーリーを構築、2時間強にまとめたそうな^^。

 <アニメ>ではありますが・・・実写では難しい様々な映像技法を駆使しているのが今作最大の特徴でしょう。マルチ画面のほか、単色でモノクロームにしたシーンや鉛筆画(性表現で実写では出来ない演出を可能に)、中でも移動しながら背景とモブ(群衆)シーンが一体化した場面には・・・筆者も目を瞠った。これ、相当手間がかかることなのよ!また「バグダッド」のロングショット(遠景)や「バベルの塔」の全景等にはミニチュアを作って合成。砂漠や海のシーンにも実写が使用され、「竜巻」は洗濯機の渦巻きを撮影したものを使用したという(円谷プロみたい)。・・・商業作品なのに、実験映画、前衛映画でもあるというのも凄い(驚)!

 声優陣には先述の青島先生のほか、芥川比呂志岸田今日子小池朝雄加藤治子ほか"俳優"さん達が大挙出演(←これ、近年、声優ではなくて俳優さんを起用するキャスティング方法を先取りしてるよね)。更には<友情出演>として「一言ずつ」文化人、著名人も参加。主だった人を挙げると作家の遠藤周作吉行淳之介北杜夫、「日本沈没」の小松左京筒井康隆大先生。更には大宅壮一大橋巨泉前田武彦立川談志師匠、野末陳平まで!ぶっちゃけ、どれが誰の声だかほとんど分からなかったけど(苦笑)、映像面だけでなく、音響面でも凄い作品だと言えるでしょう。

 手塚先生の多忙(漫画連載、何本も持ってた)に複雑な制作工程の結果、初公開時には一部の映像が完成せず、結果そのまま上映(・・・今だと大問題になったかも)。公開の途中から完成版のフィルムに差し替えられた経緯あり。後年も手塚先生が作品に絡んだ結果、完成がギリギリになった作品はあるから、その先駆とも言えそうだ。苦労の結果、映画は大ヒット・・・したけれど虫プロ的には時間なくて外部プロにも発注したもんだから赤字だったらしい。生前、手塚先生がテレビで「漫画は恋人、アニメは金のかかる愛人」とコメントしていたのを観た記憶があるんだけど・・・その言葉通りの作品ですなぁ!但し、日本映画史に記録される作品である事は間違いないので、その偉業を筆者は讃えます^^!


 その内、このアニメラマ第2弾「クレオパトラ」も更新・・・予定。あくまで筆者の気が変わらなかったら、だけど。