其の415:レジスタンスの悲劇「影の軍隊」

 残念ながらカンヌ国際映画祭で日本映画の受賞はありませんでしたが(テレンス・マリック監督、おめでと^^)・・・“カンヌ”があるのは“フランス”。“フランス”といえば“フィルム・ノワール”ということで(強引な前ふり)ジャン=ピエール・メルヴィル監督の「影の軍隊」(’69)をご紹介。といっても今作にギャングは出てこないんだけどネ(苦笑)。廃盤だったDVDも再発売されてよかったよかった(同名タイトルの別作品があるようだけど、関係ないのでご注意あれ)!!


 1942年10月、ナチス占領下のフランス。土木技師にして対独レジスタンスの活動家フィリップ・ジェルビエ(=リノ・ヴァンチュラ)は、ドイツ軍に逮捕され、収容所に送られる。後日、ゲシュタポ本部へ連行された際、一瞬のすきをついて脱出に成功した彼は、マルセイユへ逃亡。仲間たちと合流し、自分を密告した同志を<処刑>する。そんなある日、ジェルビエの盟友フェリックス(=ポール・クローシェ)は、友人のジャン・フランソワ(=ジャン=ピエール・カッセル)と再会、レジスタンス活動に勧誘する。こうしてジャンは、パリの女闘士マチルド(=シモーヌ・シニョレ)に通信機を届ける等、組織の一員として働きはじめる。ところが活動の一環でイギリスへ渡ったジェルビエのところへフェリックス逮捕の一報が!彼を助けるためジェルビエは救出作戦を開始するのだが・・・!?

 
 以前、メルヴィルを紹介した際、彼の作品の特徴のほか、簡単ながら彼の“プロフィール”を紹介したので、今回は割愛!記憶力の高い当ブログの読者諸氏ならばメルヴィル(→彼はユダヤ人だ)が<対独レジスタンス活動>に参加していた人であったことは覚えていらっしゃることでしょう。そんなメルヴィルが大戦中(!)に発表されたレジスタンスの活動を描いたジョゼフ・ケッセル(→カトリーヌ・ドヌーブ主演「昼顔」の原作も書いてる)の小説を映画化しようと考えることは容易に推測できよう。

 例えばジョン・ウーの映画で必ず<鳩>が出るように(笑)、メルヴィル作品では映画の冒頭、作品内容に沿った<引用スーパー>が出てくるのがお約束!今作では「嫌な時代の記憶ばかりだ。しかし思い返せば、それが私の懐かしい青春なのだ」の文章が。これは作家ジョルジュ・クールトリーヌの言葉の引用。脚本もメルヴィル自ら書いてるので、冒頭のスーパーは他人のものながら、彼自身の<本音>が出ていると思う(注:廃盤前のDVDでは日本語字幕が「この映画の登場人物は実在し、史実にもとづいている」と出ていたのが、今回直されてるよ^^)。不思議なことに<映像>というものは・・・テレビでも一緒なんだけど、例えカメラマンが撮影してたとしても、ディレクターがノリにノッてると・・・それが出てくるものなのよ。裏を返せば、“仕事”として上から無理やり強要されて撮らされた映像には、そういうノリは出てこない訳(苦笑:視聴者には大変申し訳ないが、でも本当)。今作を観ていると、タッチは他のメルヴィル作品同様、淡々としているんだけど彼がノリにノッてーしかも主人公のジェルビエ(→モデルは実在した活動家ジャン・ムーラン)に己を投影してノリまくっているので、映画を観ている者をぐいぐいと劇中に引き込んでゆく。

 <レジスタンス>というと、テロとかゲリラ活動するイメージが強いけれど、今作では史実通り、初期に行われた情報収集や同盟国(イギリス)の戦闘機が戦闘で墜落した際、そのパイロットを助けて秘密裡に故国に還してあげるーといったことが主な任務として描かれる。今作では戦闘機は言うに及ばず潜水艦まで出てくるから(ド派手な戦闘シーンはないけど、何気に大作なのよん)、そのテのマニアの方は要注目^^!当然、敵のナチも大勢出てきますが(→中でもメルヴィルは冒頭のナチの凱旋門前行進シーンに、巨額の製作費を当てたそうな)結構真面目(?)に占領している。他の娯楽作品だと、大抵ナチはパリでエロいことやってるけど(爆笑)今作では女の裸は出てこないのであしからず。

 主人公のジェルビエには「死刑台のエレベーター(注:邦画リメイクは忘れるように)」、「冒険者たち」、「ラムの大通り」のリノ・ヴァンチュラ(1919〜1987:彼が手塚治虫キャラのひとり“ランプ”に似ていると思うのは・・・筆者だけか?)。彼は多くのフィルム・ノワールに出演&66年のメルヴィル作品「ギャング」でも主演、今作でも変わらず重厚な演技を披露。けれでも・・・メルヴィルは自分にも他人にも厳しい人だったので、今作の撮影終盤には口も利かない仲になった、という。主人公に自分を投影していたと思われるメルヴィルの演技指導がきっと必要以上に厳しく、うるさかったんだろうね。

 そして女闘士を貫録たっぷりに演じたのがシモーヌ・シニョレ(1921〜1985)!!彼女の代表作といえばカンヌとアカデミーで共に主演女優賞を獲得した「年上の女」(’58)や「嘆きのテレーズ」(’52)、「ピンク・パンサー」ではないクルーゾーの傑作サスペンス「悪魔のような女」(’55)辺りになるんだろうけど、今作ではもう完全にオバちゃん!でも、当時50前にしては足は細かった・・・ってフォローしても遅いか(苦笑)。

 
 先述したように原作は大戦中に書かれていたので(ナチの終焉など未だ知る由もなし)、登場メンバーの<その後>は書かれていないのだが、メルヴィルは最後、彼らの行く末をそれぞれ字幕スーパーで紹介した(→ジョージ・ルーカスの「アメリカン・グラフィティ」のあのパターンよ)。勿論、ここでは<ネタばれ>になるので書きませんが・・・今作を試写室で観た原作者のジョゼフ・ケッセルは、ラストを観てむせび泣いたと伝えられている。
 内容が内容だけに、当時のフランス国内ではヒットに結びつかなかったそうだが、人類の悪しき歴史のひとつとして、そしてジャン=ピエール・メルヴィル入魂の一作として「影の軍隊」は映画史に永遠に記憶されるだろう。