コロナ渦において先日、またひとつ年をとりました。死へのカウントダウンがまた一歩進んだ・・・って、ネガティブ過ぎ(苦笑)。
社会派サスペンス「Z」他で知られるギリシャ出身のコスタ=ガヴラスが監督したハリウッド映画「ミュージックボックス」(’89)が日本でようやくDVDとブルーレイが発売されました^^。これは朗報なのだけど、我が国のメーカーさんは出すべきソフトを出すのが遅い・・・。まぁ、今に始まった事じゃないけどね(苦笑)。気を取り直して今作を紹介しつつ、脚本を書いたジョー・エスターハス(ハンガリー系アメリカ人)についても私見を書いていきたいと思います。勿論、ネタバレなし❤
幼い時にハンガリーから家族でアメリカに渡ってきたアン(ジェシカ・ラング)は、子供を授かってから離婚はしたものの、敏腕弁護士として順調にキャリアを築いてきた。そんなある日、ハンガリー政府が彼女の父親マイク(アーミン・ミューラー=スタール)に第2次大戦当時、ユダヤ人虐殺の<戦争犯罪人>として、身柄の拘束を要求してくる。父を信じているアンは彼の依頼を受けて弁護を引き受ける。マイクは人違いだとして、無罪を主張するものの、アンの事前聞き取りの際、移民する時に自分の身分を「警察官」ではなく「農民」だと偽った事を告白する。
裁判が始まった。検察官のジャック(フレデリック・フォレスト)は、マイクのハンガリー時代の身分証明書のコピー写真や彼がユダヤ人虐殺を率先して行っていたミシュカという男と同一人物だと語る証人をアンに突きつけてくる。彼女は疑心暗鬼になりながらも愛する父を救うため奮闘していく中で・・・!?
<法廷サスペンス>というジャンルに入る今作はその主題に<戦争犯罪>を取り扱っているのが興味深い。ユダヤ人虐殺を主導したナチの高官が世界各地に逃亡して、後年どこどこで逮捕された・・・なんてニュースは筆者も一昔前には時々耳にしたし。21世紀にもなった現在、さすがに「ヒトラー生存説」を信じている人はもういないだろうけど(笑)。ちなみにタイトルの「ミュージックボックス」とはオルゴールの事♩
脚本書いたジョー・エスターハスは、ナチ高官逮捕の幾つかの実話をリサーチしてシナリオを執筆。自身がハンガリー出身だから余計に想うところがあったのだろう、劇中、ハンガリー・ブダペストでの海外ロケシーンもあり^^。コスタ=ガヴラス監督は正攻法で演出。ジェシカ・ラング(もうギラーミンの「キングコング」に出ていた事を言うのはやめよう^^)や「シャイン」のアーミン・ミューラー=スタールの熱演も見所よ。今作のタイトルがオチにどう絡んでくるのか・・・真相は各自でご確認ください(このブログのいつものパターン)❤
さて、今回は脚本家のジョー・エスターハスについて少々書いてみたいと思う。彼はシルベスター・スタローン主演の「フィスト」(’78)や音楽とダンスで大ヒットした「フラッシュダンス」(’83)を手掛けた後、最初の法廷サスペンス「白と黒のナイフ」(’85)を執筆。コスタ=ガヴラスと最初に組んだ「配信の日々」(’88)と「ミュージックボックス」を経て、ポール・ヴァ―ホーヴェン監督がバイオレンス&エロ満載でパワフルに演出した「氷の微笑」(’92)でまたまた大ヒットを飛ばし、エスターハスは一躍「最も脚本料の高い脚本家」となった御方。
「白と黒のナイフ」は妻殺しの容疑をかけられた男が、凄腕の女性弁護士を雇って無罪を主張するものの、不利な証拠や証言を次々と出てきて男は追い詰められていく。そんな中、女性弁護士は男と懇ろになりつつ、無罪の証拠探しに奔走するーという話。
「配信の日々」はユダヤ人の男性が殺され、FBIが犯行を疑われる白人至上主義団体に女性捜査官を潜入捜査で送り込む。そこで彼女は一見平凡な男と出会い、愛するようになっていくが、その男こそ団体のリーダーにして事件の主犯で、それを認めがたい女捜査官は苦悩していく・・・。
そして「氷の微笑」は殺人容疑がかけられた魅惑的な女流作家を男性刑事が捜査。そのさ中、彼女と一線を越えてしまい疑惑を抱きながらも真相を探し求める。
今作「ミュージックボックス」を「白と黒のナイフ」と比較すると、<戦争犯罪>と<妻殺し>の事件設定は異なるものの、主人公の男女を父と娘に変更するとほぼまんまの図式。「氷の微笑」は「白と黒のナイフ」の男性容疑者と女性弁護士を女性容疑者と男性刑事に変えてアクションとエロをプラスしたもの。“愛する人に対して疑心暗鬼になる主人公”は「白と黒のナイフ」、「配信の日々」、「ミュージックボックス」に「氷の微笑」にも共通する要素!!・・・という事でエスターハスの脚本は良く言えば「みな似てる」、悪く言えば「ほとんどプロット使いまわし」(苦笑)。でもね、これは仕方ないことですよ!同じ人間からそんなに豊富な新しいアイデアが出る訳はないのですから^^。逆にいえば同じプロットながら手を変え、品を変えて作品書いてきたーそれがちゃんと売れて作品化されているー彼の勝利^^。
ところがエスターハスが再度ヴァ―ホーヴェンと組んだ非サスペンス映画「ショーガール」(’95)が酷評&大コケ!ヴァ―ホーヴェンは「ラジー賞(最悪映画を表彰するイベント)」に出席した(笑)。キャリアに傷がついたエスターハスが開き直って書いた「アラン・スミシー・フィルム」(’98)は「ショーガール」を越える酷評の嵐となり・・・彼は故郷ハンガリーに帰ってしまった(彼と仕事したコスタ=ガヴラスもヴァ―ホーヴェンもハリウッドを後にしたのは恐ろしい程の単なる偶然だろう)。
筆者未見だが2006年にはハンガリー映画「君の涙 ドナウに流れ ハンガリー1956」なる作品を担当したようだ。「ミュージックボックス」の劇中「(虐殺された人々の流血で)青きドナウ川は赤く染まった」という趣旨の台詞が出てくるけどー時代設定は異なるものの、今作をちょっと想起する内容なのではないだろうか。ヴァ―ホーヴェンもオランダで次の新作が公開待機中だし、エスターハスもハンガリーでも是非頑張ってほしい!・・・って、年下の奴が書く文章じゃないか(笑)。
<どうでもよくはない追記>コスタ=ガヴラス書いたついでに・・・メーカーさん、彼の代表作「Z」のDVD再発売を是非お願いします!!あと出﨑統監督の「エースをねらえ!2」と「エースをねらえ!ファイナルステージ」のDVD再発売も是非!!