其の430:バーグマンの方じゃない「追想」

 日本人による洋画の<邦題>には原題より素晴らしいものが多々あるけれど(「望郷」や「風と共に去りぬ」とか)、その反面、他の作品とカブってたり、めちゃめちゃ紛らわしいものも多いので(それがメーカー側の狙いではあるのだが)よ〜くソフトのパッケージを見ないとあきまへん。
 今回紹介する「追想」は・・・イングリッド・バーグマンの1956年度作品ではなくて75年のフランス映画の方です!いまではタランティーノによる戦争映画「イングロリアス・バスターズ」の元ネタの1つ(それもラストのシークエンス)としても知られるようになった。「ニュー・シネマ・パラダイス」のフィリップ・ノワレロミー・シュナイダービスコンティの「ルートヴィヒ/神々の黄昏」)が出演する“復讐もの”。勿論、「イングロリアス〜」より遥かに面白いことは言うまでもない。


 第2次大戦下のフランス・モントーバン。医師のジュリアン(=ノワレ)は、レジスタンス活動で負傷した同胞の治療にあたったことからナチに目をつけられるようになる。身の危険を感じた彼は妻クララ(=ロミー)と娘フロランスの2人を故郷の村にある古城へと疎開させた。連合軍がノルマンディーに上陸した頃、ようやく仕事がひと段落したので村を訪れるジュリアン。だが、村には誰ひとりいない。異変を感じ、教会をのぞいてみると、そこには皆殺しにされた村の人々の死体の山が築かれていた。だが妻と娘の姿はない。一縷の望みをかけて、自分の城へと向かうジュリアン。すると城はSS(ナチの武装親衛隊)に接収されており、庭先には射殺された娘、そして火炎放射器で焼かれ黒炭と化したクララの無残な姿が・・・!ジュリアンは絶望と怒りの涙を流しながら古城へと潜入。ナチへの復讐を開始するー!!

 
 監督はロベール・アンリコ(1931〜2001:言わずもがなのフランス人)。アラン・ドロン、リノ・ヴェンチュラ、ジョアンナ・シムカス出演「冒険者たち」(’67)や「若草の萌えるころ」(’68)、ブリジッド・バルドーの「ラムの大通り」(’71)等で日本でも人気のある御仁。<1931年生まれ>ということは当然、少年時代の母国フランスはナチス占領下であり、本人も「戦争体験が私を形作った」とコメントしてる。ノルマンディー上陸作戦直後、パニくったSSによって実際に行われた「オラドゥール・シュル・グラヌ村虐殺事件」を基に、アンリコ自ら原案・共同脚本・監督を担当。舞台をオラドゥールから自身が戦時中過ごした南仏の街モントーバンに変更。加えて架空の復讐者・ジュリアンを創作した。

 今作の原題は「古い銃」の意味。城に潜入した主人公が、かつて父親からもらった古い銃を引っ張り出して、ランボー同様、1人だけの軍隊による<ゲリラ戦(→城には秘密の扉や通路が沢山あり、それを熟知している彼はそれを駆使してひとりひとり血祭りにあげてゆく)>を展開していくことに起因しているんだけど、映画はいざ復讐が始まると、これにクロスして「クララとの出会い」や「プロポーズ」、「新婚生活の様子」が合間合間に入ってくる構成(その流れの中で観客は、実はジュリアンには以前、妻がいたものの他に男を作って夫と娘を捨てて逃げ、クララが後妻であることも分かる)。だから邦題が「追想」・・・なわけ。ちなみにフロランスの射殺&クララの火炎放射器による惨殺映像は、<追想>ではなく、あくまで<主人公の想像>!実際に観たわけじゃない光景(ロミーの乳出しあり)が、何故か再現されているが、そこは大人としてつっこまないように(→リアルに言えば、至近距離で火炎放射器浴びせられると、その勢いで人体に大穴があくんで、まんまの形では残らないそうだが)^^。当時は未だベトナム戦争も続いていたから、アンリコに影響を与えた部分も多分にあるだろう。

 俳優陣は、いかにも人が好さそうで温厚なフィリップ・ノワレがとにかくいい。時々、主人公が復讐という行為について戸惑いもみせるものの(→インテリ且つ職業は人を助ける医師!)妻や娘との幸せな時を思い出しては、萎えそうになる心を奮い立たせて立ち向かう。同じ復讐ものでも、観ている観客たちよりは絶対に強く、また男くさ〜いチャールズ・ブロンソンメル・ギブソン(←特に傑作「マッドマックス」の1作目)の復讐ものとは一味違う。また、キャリアの全盛期&めちゃ美しいときのロミー・シュナイダーが・・・こんな悲惨な役を受けたことも驚きといえば驚き!出番は大半が<追想シーン>なんだけど、本当に結婚して幸せそうなので・・・これなら誰しも法律は関係なしに復讐する気になるわ!

 公開されるとフランス本国では大ヒット!76年のセザール賞3冠に輝いた(最優秀作品賞、最優秀主演男優賞、最優秀音楽賞)。そりゃフランス人が憎きナチに復讐する話だからねぇ・・・「イングロリアス〜」が欧米でタランティーノ作品最大のヒットをあげたのと同じ図式だわ。日本でいえば超兵器でアメリカに勝つ架空戦記もの、みたいなものかも(違うかしら?)。勿論、日本でも公開されたけど、アンリコ特有のノスタルジックな作風でなかったためか・・・残念ながら、あまり話題にならなかったそうだ(筆者はまだ小学校低学年だったんで良く覚えとらん)。
 
 でも、こうしてまた改めてフランスの方の「追想」が見直されるきっかけになったのだから(→オチは例によって伏せるので、自分の目で確認してね)出来はイマイチだったけどタランティーノが「イングロリアス〜」を作った価値はあったかも?