其の412:早すぎたハリウッドの黒作品「マイラ」

 シネフィルの読者なら前回の“前ふり”でお察しの通り・・・筆者が約20年間、観たくて観たくて仕方がなかった&本当に書きたかったのが・・・マイケル・サーンの長編第2作「マイラ ーむかし、マイラは男だったー」(’70・米)!!勿論「マイルーラ」の略ではありません(懐)。サーンの生涯を狂わせた(?)怪作にして、製作した20世紀FOX、ひいてはハリウッドの黒作品となった今作が奇跡のDVD化^^!ばんざーい、ばんざーい!!こういう作品を“記録”することも今ブログの重要な使命だ。

 
 あちらの趣味がある映画オタクのマイロン・ブレッキンリッジ(=レックス・リード)は<性転換手術>を受けて念願の女性となった。マイラ(=ラクエル・ウェルチ)と名乗った彼は、ハリウッドであやしげな演劇学校を経営する伯父のバック(=ジョン・ヒューストン)の所へ行き、自分は亡きマイロンの妻で、夫の遺産の譲渡を要求したもののはバックは応じない。遺産をもらうまで<教師>としての職を得たマイラは、学校の有力なパトロンで、かつ学校に通う若者を食いまくる有閑マダム:レティシア(=メイ・ウェスト)の助力を得ようと考える。そんなある日、マイラは生徒のひとりであるラスティ(=ロジャー・C・カーメル)を堕落させてやりたいという欲望にかられるものの、同時に彼の恋人メアリー・アン(=ファラ・フォーセット)に恋心が芽生え、<外見は女性だが、中味は男性>の自分に戸惑う。その頃、バックはマイラの遺産相続を阻止すべく弁護士に調査を依頼する・・・。

 
 ・・・上記に書いた粗筋だけ読んでも、いかにブラックな設定であることかはよく分かるだろう。自らゲイを公言し、40年代後半から同性愛(主に当時でいえばモーホー)や性倒錯を題材にした作品を発表、数々の問題発言で物議を醸した作家ゴア・ヴィダルの大ベストセラー小説(ぬわんと一説によると売上2500万部!!ホントかよ)が今作の原作。このヴィダル先生、のちに先日亡くなったボブ・グッチョーネ製作の底抜けポルノ大作「カリギュラ」(’79)の脚本も書いてる(笑)。映画化の話が持ち上がった時、賛否両論あったそうだが(当然だろう)、「ジョアンナ」が評価されてハリウッドから声をかけられたサーンは「セックス倒錯を、皮肉に面白く描ける監督はアメリカにいないから、わざわざ僕が呼ばれたんだろう」とコメントしたそうだ。でも何故、天下の20世紀FOXが、わざわざこんな“アブない作品”に手を出したのか?

 20世紀FOXは当時、1963年に公開した「クレオパトラ(主演は先日亡くなったエリザベス・テイラー)」が超巨額な製作費&大コケして破綻寸前!息もたえだえな状況だった。そのため<低予算でヒットする作品>がほしかった訳。巨乳を売りしてヒット作を連発していたラス・メイヤー(←元祖「イエロー・キャブ」)に声をかけて「ワイルド・パーティー」を作らせていたのも「マイラ」と同じこの時期。賛否両論あった原作なれど、それでも大ベストセラーだし、会社的にはプライドもなにもかなぐり捨てて延命を図っていたわけだ^^。

 <キワモノ臭>がプンプンだけど、出演者は何気に豪華!“60年代のセックス・シンボル”ラクエル・ウェルチ(よく、この役うけたな。ギャラか?)を筆頭に、本当にゲイで映画評論を行っていたレックス・リード(役柄まんま)、監督業&俳優もこなしたジョン・ヒューストンイーストウッドの映画のモデルにもなった程、わがままで有名)。メイ・ウェストは30年代、艶笑コメディで一世を風靡したセクシー女優。今作で27年ぶりにスクリーンにカムバック、劇中でも1曲披露している(当時77歳)。1980年に亡くなるまで「セックスしなかった日は一度もない」と豪語した性豪・・・この人も役柄まんまやんけ(苦笑)。中でも注目すべきは「チャーリーズ・エンジェル」でブレイクする前のファラ・フォーセットに、<レティシアの若いツバメ>のひとり(ちょい役)に扮しているのが、若き日のトム・セレック(髭なし)!!「ジョアンナ」のドナルド・サザーランド(←「24」の“ジャック・バウアー”の実の親父)といい、サーンのキャスティングセンスは変わらず光っている。

 前作「ジョアンナ」で“セミ・ミュージカル風”演出を行っていたサーンだが、今作ではそれを推し進めるのに加えて<シュールな演出>を試みた。<外見は女だけど、中味は男(でもゲイ)>の二面性を表現するため、時折マイラとマイロンが同じ画面に登場する(勿論、第三者にはマイロンは見えない)。おまけに(さすがに映像ではハッキリ写してないけど)マイラがマイロンにフ●ラする場面(→考えてみればオ●ニー)もあって・・・現在なら意図がよく分かるのだが(いまでは他にもこういうのあるし)1970年当時の観客は、かなり混乱しただろう。ラストも意味深だし。

 もっとも今作で<大問題>となったのは“セミ・ミュージカル風(サーンは歌手でもあったから、このテイストが好きだったんだろうね)”を推し進めるために行った<実験>・・・20世紀FOXの過去の名作・・・「テンプルちゃん」もとい、シャーリー・テンプル(古)の「アルプスの少女ハイジ」からマレーネ・ディートリッヒの「妖花」、はたまたマリリン・モンローの映画までジャンルを問わず主人公(←映画オタク)の内面描写&場面展開時に入れ込んだことだ。絶妙なタイミングで編集されていること&よくこれだけ大量の素材を捜してきたもんだと筆者は感心したけど(笑)。

 この<サンプリング>という手法、現在なら、ちゃんと使用許可を取って正式な手続きを踏めば問題ないとは思うが(脚本も担当したサーンが編集段階で思いついたアイデアかもしれないが)、いまから40年前のこと・・・良識派(=良く言えば真面目、悪く言えば頭の固いシャレの分からない人)から見れば「ハリウッドを愚弄した」行為にしかみえなかったのだろう、結果、評価はさんざんで映画も不入り(←あくまで「客の入り」と「映画の出来」は別の次元の話)。こうしてイギリス人の彼はハリウッドを追放されてしまった。

 10年、いや20年早かったマイケル・サーン・・・<真の天才>は、どんなジャンルにおいても一部を除いてそうやすやすと理解されないものだし、困ったときには呼んでおいて、何か困ると人のせいにして追い出すーなんてことは古今東西どこででも、よくある話ではあるけれど。それにしても・・・残念!

 
 その後、サーンは俳優業(→アガサ・クリスティー原作のポアロもの「死海殺人事件」ほか)や映画評論で糊口をしのぎながら、映画「The Punk/ザ・パンク(=パンク青年を主人公にした青春もの・・・らしい。筆者未見)」で監督業に復帰したのは何と1993年!現在の動向は不明だがー理解あるスタジオの下で、かつての天才ぶりを存分に発揮してほしいと祈るばかりだ。



 <どうでもいい追記>アメリカがかのビンラディンを殺害したそうだが・・・DNA鑑定したとはいうものの(どこで、比較する以前のDNAを入手したんだ?)実は<影武者>だったなんて、オチはないだろーな!?