其の409:実はコメディ?「影武者」

 あまりにも大きな余震が続くので、ドニー・イェンの新作映画2本の試写会を断念した。どちらも面白そうだったが・・・きっと、筆者はドニーさんと縁がないんだな(苦笑)。普通に考えれば、福島原発の危険度がチェルノブイリと同等の「レベル7」になったし、映画なんて観てる場合じゃないんだろうけど。


 某愛読スポーツ紙を読んでいたら本日・4月12日は「武田信玄死亡(1573)」とある。そこで、ふと思い出したのが先日、20年以上ぶりに見直した黒澤映画「影武者」(’80)!カンヌ国際映画祭グランプリ受賞&大ヒットしたし、後期黒澤映画の代表作の1本ではあるが・・・正直、昔観た時は大して面白いと思わなかった。尺も3時間ぐらいあるし(苦笑:実際、当時も批評は賛否両論だった)。でも、見直したらこれ“コメディ”だよね?結構、笑えたし^^。黒澤明については山ほど研究書が出ているんで、筆者が書く必要は全くないんだけど「影武者」については見聞きしたり、気づいたこともあるんで、あえて筆をとる(もっと細かなエピソードが知りたい人は、そのテの本で調べてね♪)。

 
 天正元年(1573)。戦国武将・武田信玄(=仲代達矢)の弟・信廉(=山粼努)が、兄の前に連れてきたひとりの男ー。彼は信玄と瓜二つ(=仲代・2役)だった!無頼の盗人で、磔刑になるところを信廉があまりの酷似ぶりに拾いあげたのだ。信玄と信廉は、彼を密かに養うことにする・・・。徳川家康の砦・野田城を攻めていたある夜、信玄が鉄砲で撃たれてしまった。そして「われ死すとも、三年は喪を秘し、領国の備えを固め、ゆめゆめ動くな」と遺言して志半ばで亡くなる。そこで信廉は遺言に従い、瓜二つの男を信玄の“影武者”とするのだが・・・その秘密を知る人間はごく一部だけ。敵はおろか味方も欺きつつ、男は信玄の代役を無事果たすことが出来るのかー!?

 お話の序盤は上記のような感じ。こう書いていくと、当時宣伝された<戦国スペクタクル絵巻>というニュアンスより“サスペンス”の色合いが強い。そんな中で“笑い(下ネタ含む)”もあり(仲代の目力とオーバーアクションは最高)。赤川次郎風にいえば<ユーモア・ミステリー>という範疇に入るのかも(→現在では“悲喜劇”と書かれるようになっている)。おそらく公開当時は、巨費を投じて行われる派手な合戦シーン(それもチャンバラ系)を期待した大勢の観客(そして評論家)が肩すかしを食ったため、酷評につながったのだろうと推察する。影武者が亡き信玄の仕草をマスターする場面もないし、リアリティーが欠如しているのも事実。

 特に今作は当初、信玄&影武者(劇中では“影法師”)の2役に勝新太郎がキャスティングされたものの、黒澤と衝突して降板し、バッドなニュースが大々的に報道された良くも悪くも“話題作”だった。企画段階で黒澤は信玄→勝新、影武者→若山富三郎という実の兄弟を考えていたそうだが、トミーは体調不良を理由に早々に断った。黒澤と勝の性格を考えたら、いずれ絶対にぶつかるから、そうなると自分が仲介役にならなきゃいけなくなる・・・と予測してのことだった。トミーの<想定>は全くもって正しかった(笑:東京電力は猛省して、今後、彼を見習うこと)。誰しもがいうことだが・・・勝新が自我を抑えて出演してれば、勝自身の代表作のひとつにもなったのに・・・つくづく残念である(→DVDの「特報」では、役に扮した勝新の姿が観られます^^)。

 また今作では「出演者募集」が行われ(黒澤は以前「トラ・トラ・トラ!」の際にも素人俳優を起用)織田信長役で隆大介、油井昌由樹が徳川家康役でデビュー。隆さんは映画版の「踊る大捜査線」シリーズで、湾岸署に乗り込んでくる“本店”の刑事のひとりとして現在も活躍中。一方、油井さんは黒澤映画の常連になるものの、水野先生の「シベリア超特急」シリーズにも出演・・・(笑:いいんか?)。勿論、<経験者>として大滝秀治室田日出男、先日俳優引退を発表した根津甚八、「なんだかな〜」でおなじみの阿藤海(現:快)のほか、桃井かおり倍賞美津子まで出演。中でも注目すべきは武田勝頼を演じた萩原健一。先日、某所で行われたトークショーで撮影当時を振り返って「ある時、いきなり(黒澤に)信玄やれって言われて。完全に勝頼で役作りしてたから、(言われた時は)まいったよな〜(苦笑)」と発言されていました。実際にはやらずに終わったわけだけど、この裏話は何故か研究書や文献には書かれていないので、ここに記録しておこう^^!

 「スター・ウォーズ/エピソード1 ファントム・メナス」公開時、クライマックスのジャー・ジャー・ビンクスらの行軍場面が「影武者」に似てるーと一部で指摘されたがー見比べたらホントにそっくり!考えてみればジョージ・ルーカスは今作の海外版の製作者(&フランシス・フォード・コッポラも)なんだよね。ロケ現場にも顔出してるし(当時、この様子はTVで放送されたり、のちにドキュメンタリー映画も製作された)。参考に「影武者」見直したら、ついまんまやっちゃったんだろうね、きっと(好意的解釈)^^。

 黒澤逝去後に行われた回顧展で、有名な今作の彩色絵コンテを見たことがあるんだけど・・・極彩色で丁寧に書き込まれていて感心した(さすが元画家志望)。熱望した「乱」の企画が進まず、それの合間に考えた今作のイメージを書斎で延々描いていたという。実際の映画も映像美として凄いんだけど、影武者がみる<夢のシーン(スタジオでのセット撮影)>・・・カットによって、セットのホリゾントの上部がぬけて見えた(それも2度:苦笑)。これ、どう見ても照明置く部分が映りこんでるよねぇ??筆者の他に気付いた人はいないのかしら?

 クライマックスは対信長との「長篠の合戦」!日本史に詳しい方なら、この後の武田家の運命は言わずもがな。前段で笑わせて、最後はホロリ(泣かないけど)−これこそ<コメディの作り方の王道>。「そっくりな男が有名人と入れ替わる」という基本設定自体、ハリウッドとかでよくあるパターンだしね。巨額な製作費と完全主義をもって作られた壮大な戦国ユーモア・ミステリー・・・そう思って「影武者」を見直すとマジで面白いから是非^^!



 続く余震に原発の危機・・・いつ、終息を迎えることが出来るのか?この映画ブログもいつまで書いていられるのか?う〜ん、心配・・・マジで心配・・・。

 今さらだけど、アカデミー作品賞が「英国王のスピーチ」って・・・下馬評通りでつまらん結果だった。実話に難病・・・アカデミー会員のお好きな傾向がまたまたもろに出たな(未見だが・・・オーソドックスながら、いい映画だろうとは思うけど)。