其の216:奇跡のパワフル戦争コメディー「独立愚連隊」

 最近、「ウエスタン萌え」の筆者が今回紹介するのは「独立愚連隊」(’59)!故岡本喜八監督の出世作としても知られている。当時は一部で「あんなおちゃらけた軍人はいなかった!」と顰蹙を買ったそうだが(笑)敗戦国日本が作るいつもの陰鬱、重厚な「反戦映画」と異なり、ハジけたキャラクターが多数登場する快作^^かつ西部劇仕立てのアクションあり、ユーモアあり、ミステリーにもなっているというある意味贅沢な映画!怪しい中国人役で鶴田浩二、キ○○イの大隊長役を三船敏郎が怪演してます(笑:でも出番はちょい)。世評の高い「肉弾」(’68)はまたいつかね^^


 太平洋戦争末期の「北支戦線」。馬に乗って広大な中国を一人旅する従軍記者の荒木(佐藤允好演)は、日本軍が占拠した街で山岳地帯の警備にあたる各隊のできそこないばかりを集めた部隊ー通称「独立愚連隊」の存在を知る。一度は振ったかつてのフィアンセ(雪村いづみ)と再会したこともあり「愚連隊」のいる地域へ逃げ出す荒木。彼はそこで1年ほど前に大久保という軍曹が戦闘中、情婦と心中した事件を知る。果たしてことの真相は・・・(実は荒木の隠れた正体も明らかになる)?


 岡本喜八は巨匠ジョン・フォードの「駅馬車」を観て映画の道を志ざし、昭和18年に東宝へ入社したものの戦争が始まると徴兵され、陸軍予備士官学校生徒として終戦を迎える(その間、空襲によって友人を失っている)。彼が「戦中派」と呼ばれるゆえんである。この戦争体験とハリウッド映画への憧れが彼の作品の根底にある。実際、監督に昇進できたのも今作と「ああ爆弾」(’64)の脚本が認められたからだそうだ(さすがに「台詞回し」は少々時代を感じるが)。やはり業界人たるもの台本ぐらいは自分で書けないとあかん^^


 今作で見事な点は、まず佐藤充(少々強持て)演じるキャラクター造形にあるだろう。颯爽と馬に乗り、頭が切れてユーモアもあり、しかも早撃ち(クライマックスでは2丁拳銃で撃ちまくる)!どうみても軍人じゃなくって西部劇のヒーロー(笑)。岡本喜八の西部劇趣味がもろに出ている(95年の「EAST MEETS WEST」では本当に西部劇を撮影)。もっとも佐藤自身は乗馬の特訓や爆発シーンで大変な目にあったそうだが(笑)。
 この他、「水戸黄門」の「風車の弥七」こと中谷一郎が「愚連隊」のメンバーのひとりに扮するほか、ミッキー・カーティスやジェリー藤尾(酔って歌う兵隊役)、さらには黒澤明の「隠し砦の三悪人」でデビューした上原美佐も出演。それぞれ個性的な演技を披露してます。


 予算的には「中程度」(岡本談)だったそうでオープンロケは御殿場や多摩川界隈という「都内近郊」で行われたのだがー当時は現在ほど家屋がないとしてもーとてもそうはみえない!大バジェットの「史上最大の作戦」のように丸ごと戦争シーンをやれない分、イメージ的に広がりが出るよう苦労したそうだ。中国的な街のセットもどこか西部の街っぽく、岡本が中国大陸での戦闘を「西部劇のパロディ」として捉えていたのがよくわかる(主人公と悪玉の対決シーンは完全に「西部劇」)。おまけにラストの中国軍との戦闘シーンはペキンパーの「ワイルドバンチ」を想起させる大バトルが展開(燃)!!
 
 岡本監督が黒澤同様、事前にバッチリ絵コンテを書いて撮影していたのは有名な話。そのためカット数がいくら多くても(=彼のカット割りは非常に細かい)大幅に撮影スケジュールを超えることはなかったそうだ。綿密なコンテによる「完璧な構図」と「早いカット割り」が小気味良く(佐藤と中谷のカットバックはちょっと早過ぎるけど)、観ていて全く飽きがこないのは「さすが」の一言である。それがまた作品に「スケール感」をも生んでいるのだ^^


 この作品がヒットしたため60年には「独立愚連隊西へ」を発表、シリーズ化される(だがストーリーや登場人物につながりなし)。第3作の「どぶ鼠作戦」(’62)以降は他の監督たちにも引き継がれた。今作がいかに「画期的な戦争映画」だったかがよく分かるだろう。勿論、今観ても「モダン」だ。映像業界の方は是非、市川監督の作品同様「編集」のお手本にしてね!