其の408:ナイスな実写映画「0課の女」

 4月になったので予告通り<復活>・・・です。節電を考えて、パッパッと書かないと!

 先日、試写会で「ショーン・オブ・ザ・デッド」、「ホット・ファズ!」の俊英エドガー・ライト監督による同名コミックの映画化「スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団」を鑑賞したのだけれど・・・非常に残念な出来でした。期待してた分、ハズしたショックがデカかった(とほほ)。お話は主人公スコット・ピルグリム(♂)が一目ぼれしたおネーちゃんと結ばれるために、彼女の元カレ7人とバトルする様をゲームやアニメ、漫画テイストを加味して描いたもの。公開前なので詳細は書きませんが・・・端的にいえば<脚色>を誤ったと思う。ライトも原作者と相談しながら演出にあたったそうだが・・・似たような製作過程を辿って作られた「キック・アス!」のレベルには遥かに及ばなかったな。せっかくのハリウッド進出作でもあったのに・・・本当に残念、ただひたすら残念・・・。


 同じ<コミックの映画化>でも、1974年の東映作品「0課の女 赤い手錠(→「ゼロかのおんな あかいワッパ」と読む)」は、「スコット・ピルグリム〜」と違って超快作^^!世に言う(?)“東映ピンキーバイオレンス”のナイスな1作だ。

 
 警視庁のクールな女刑事・零(→杉本美樹)は、上層部によって握りつぶされた殺人事件の犯人を自ら捜し出して射殺。その為、裁判も行わず留置所に放り込まれてしまう・・・。
 丁度その頃、神奈川県横須賀市。刑務所から出所した仲原(→郷?治、超凶悪!)をリーダーとするワル仲間ら(→あの荒木一郎の姿も!)は、海岸でカップルを襲撃!結果、女を強姦、男を殺す。ところがその女が、次期総理大臣候補の国会議員・南雲(→貫録タップリの丹波哲郎大先生)の娘と分かり、仲原らは南雲に身代金を要求する。彼は娘を有力者の息子と結婚させようと考えていた為、警察に「生きたまま娘を連れ戻し、事件の全てを極秘にすること」を命令する。そこで日下警部(→室田日出男)は、零に娘を無事に救い出す密命を下す。身代金受け取りの囮捜査による危機を助けたことで、零は犯行グループへの潜入に成功したのだが・・・!?

 
 原作は「女囚さそり」、「82(ワニ)分署」ほかで知られる篠原とおる御大の同名漫画(→何故か御大の原作は実写化はされてもアニメ化にはならない。何故?)。<0課とは、警視庁におかれた秘密の捜査課で、法にとらわれず、特殊任務をおびて犯人を追う>ーという設定だが、勿論こんな課は実在しません(笑)。東映的には梶芽衣子から始まる「女囚さそり」がヒット&シリーズ化したもんで<ポストさそり>を目論んでチョイスされたもの。
 ヒロイン・零に扮するのは杉本美樹。同期の池玲子(巨乳)と共演した「女番長<スケバン>」シリーズや「恐怖女子高」シリーズほかでスレンダーなヌード&バトルを披露、東映ピンキーバイオレンスを牽引したお姉様♪篠原とおるの漫画はクールな顔立ちの女性が多いので、今作の杉本は顔からしてもハマり役だと言える。台詞は最初から最後まで「棒読み」だけど(笑)。
 まずヒロインの基本設定が凄い。殴られても、レイプされても表情ひとつ変えない孤高の女刑事ー当時の<シラケ世代>を反映させたのか、よく分からんけど、超クールで頭が切れ腕も立つ女性像は当時、かなり斬新だったのでは?ちなみに<サブタイトル>になっている「赤い手錠」。これは零の手錠は勿論、警察手帳まで真っ赤っ赤だから。・・・極秘潜入捜査官の持ち物にしては派手すぎるだろ!「ガンダム」のシャアか(笑)!余談だが、杉本が歌う主題歌は、梶の某作の主題歌に酷似している・・・のは気のせいか^^。
 監督は野田幸男。1958年、カンニング事件の起きた京大卒業後、東映東京撮影所に助監督として入社。かの石井輝男(「網走番外地」シリーズ)、佐伯清(「昭和残侠伝」シリーズ)らに師事、東映魂(?)を注入される。1968年、記録映画を演出後、「不良番長(→主演:梅宮辰夫!)」で劇映画監督デビュー。映画は大ヒットし「不良番長」はシリーズ化(途中、内藤誠監督も参加)、全16作まで作られる。その後、千葉真一主演の「やくざ刑事」シリーズを経て今作を担当。これまでに培ったノウハウと“東映魂(=エロとバイオレンス+ヒットした映画のエッセンスのいただき)”をスクリーンに炸裂させた。
 冒頭、若き日のパム・グリアよろしく、杉本はおっぱい出しつつ、変態殺人犯の股間に銃を撃ち込んで(これが本当の“愚息も昇天”)刑務所行き。そこでヒロインが女囚たちにボコられる絵にタイトルが出る凄い演出!この一連だけで、このあと何が起こるのか分からずスクリーンから目を離せなくなる(さすが70年代)^^。
 「主人公の正体がバレやしないか?」というサスペンスをベースにしつつも、出てくる女性は全員裸になるし、犯行グループと警察(ヒロインに丸投げしたと思いきや、室田らもしっかり捜査)の銃撃戦では三隅研次の時代劇映画並に血しぶきドピュー!今作には様々な作品からの影響が観られるが(ヒロインは「ダーティハリー」だし)、「血しぶきドピュー」は、おそらく当時流行ったマカロニウエスタンの影響だろう。<クライマックス>もどう見ても「西部劇」さながらの展開。舞台は、砂ぼこりが舞う荒野・・・ではなくて、今作では無人の市街地(何故?)に大量の紙ゴミが吹きすさぶ(笑)!!
 同じ東映鈴木則文監督作品同様、男性客を釣るための<お色気アクション映画>の体裁を取りながらも、人間の持つダークな部分に権力批判(→刑事たちも犯人グループ並に極悪非道だし、政治家も保身の為ならなんでもする輩)を加味して力技で押し切っている。野田の演出は勿論、原作から設定だけ借りて、オリジナル脚本を仕上げた神波史男松田寛夫の功績も大きい。この辺りが原作のまんまをやった「スコット・ピルグリム〜」との差だね!!またまた余談だが、今作の助監督は後に「Wの悲劇」や「早春物語」を演出する澤井信一郎(驚:この人に70年代東映魂は感じられないけど)!「人に歴史あり」・・・である。

 当然、これほどの出来だから<ヒットしてシリーズ化>・・・と思いきや、今作後、杉本は沈黙。突如「保母になる」といって引退した為、東映の思惑はあっけなく崩れ去った(後に復帰したものの、78年に結婚して完全に引退。残念なのは野田幸男も、今作以後はカンフー映画の流行にのった作品をいくつか撮らされて終わっちゃった)。後年、「0(ゼロ)ウーマン」のタイトルで別の監督や女優(人気絶頂期の飯島直子も!)でVシネとかで幾つか作られましたが、今作とは似て非なる別物!是非“初代”「0課の女」を堪能して頂きたい。



 <どうでもいい追記>米映画「世界侵略:ロサンゼルス決戦」の日本公開が4月から10月に延期された!!楽しみにしてたのに、楽しみにしてたのに、楽しみにしてたのに、楽しみにしてたのに、楽しみにしてたのに、楽しみにしてたのに・・・・・・(以下、20行ほど、この単語続く)