其の401:現代人に送る映画「キック・アス」

 2011年も始まりました!「マヤの予言」では人類滅亡まで、あと2年弱(笑)。近況としては・・・新年早々、多忙です(涙)。
 そんな中、なんとか観ることが出来たのがアメコミの映画化「キック・アス」!!アメコミといえば「スーパーマン」をはじめとする<ヒーローもの>が有名&本流ですが、近年では日本には及ばないものの、多彩なジャンルの作品が発表されていて(→詳しく知りたい人は、そのテの評論家の著書でも読んでくだはい)、今作はそんなヒーローもののパロディ(よくいえばオマージュ)、ないしは変革ものだと考えて頂ければ。でも、暴力描写は超ハード!!そのせいか笑えるところも多々あるのに、劇場はシ〜ンと静まり、笑っていたのは筆者だけ(苦笑)。それでも製作にはブラッド・ピットが名を連ね、かのオスカー俳優:ニコラス・ケイジも出演!!新年1発目にこんな面白い映画が観られて、今年はいいスタートだなぁ(笑)♪


 デイヴ(=「幻影師アイゼンハイム」、「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」のアーロン・ジョンソン)は、コミックのスーパーヒーローに憧れるボンクラ童貞学生。ある日、彼は本物のヒーローになろうと思い、ウェットスーツをネットで購入!自ら<キック・アス>と名乗って勝手に街のパトロールを開始する。ところが顔見知りのヤンキーコンビが車を盗もうとするのを止めようとしたところ、ナイフで刺されたうえ車にまで轢かれてしまい、あっさり病院送りに(笑)。退院後、活動を再開したデイヴは体を張ってギャングの内輪もめを止めていたところを見物人に撮影され、それがユー・チューブにアップされたことで人気を呼び、一躍“時の人”となる。
 丁度その頃、ガールフレンドが麻薬の売人に悩まされていることを知ったデイブはキック・アスの姿で男の居るアパートに。だが、説得もむなしく逆に彼の仲間たちに取り囲まれてしまう!すると、そこにいきなり現れ敵をバッタバッタと倒したのが、自称<ヒット・ガール(=「(500)日のサマー」のクロエ・グレース・モレッツ)>と、その父で自称<ビッグ・ダディ(=ニコラス・ケイジ)>の2人のなりきりヒーローだった!この出会いによってデイヴはギャング組織との闘争に無理矢理巻き込まれてゆく・・・!!

 
 原作はアンジェリーナ・ジョリーで実写映画化もされた「ウォンテッド」のマーク・ミラーとジョン・ロミータ・Jr(作画)による同名コミック。ところが今作は、よくある原作漫画の映画化ではなく、ミラーのアイデアを元に(→ミラーは、若い頃の一時期はマジで「ヒーローになろう」と考えたことがあって、原作について「ほとんど自伝」とコメント)コミック執筆と映画化が同時並行で進められたもの(→その企画にのったのがブラピのプロダクション)。「キック・アス」は日本でも翻訳されているので、昨年、筆者も本屋で拾い読みしたけど・・・原作もかなりのバイオレントだった(笑)。日本人的には、この<ヒーローに憧れて実践する主人公>というアイデアは、すでに桂正和の「ウイングマン(懐)」や映画の「ゼブラーマン」もあるので、さほど目新しいものではないんだけどさ^^。

 企画にのったのは以前、ガイ・リッチー作品のプロデューサーを務め、自身も「007」ことダニエル・クレイグ主演作「レイヤー・ケーキ」で監督デビューも果たしたマシュー・ヴォーン(今作では製作、監督、脚本も兼任)。ところがシナリオ執筆も終了し、いざ撮影に入ろうとしたところ、彼に想定外の問題が発生!なんとハリウッドの大手スタジオサイドが「11歳の少女が武装して人を殺しまくるのはけしからん」ということで、ヒット・ガールの削除を求めてきたのだ。結果、マシューは<自己資金>で製作することを余儀なくされるのであった(それでも規模を縮小せずイギリスやカナダ、ニューヨークでもロケしたというのだから凄い)。完成品をスタジオに見せて、もうやく配給のめどが立ったということだから・・・製作中は相当冷や冷やしてたと思う。よく胃潰瘍とかにならんかったね!?

 見所は沢山あるけれど(→「マトリックス」のパロディやジョン・ウーばりの2丁拳銃アクションは最高!刀を使っての人体スパスパシーンも勿論あるよv)やっぱり「キック・アス」のコスチュームが最高!こんなに見た目ダサいヒーロー、初めて観た(笑)。で、「ウイングマン」や「ゼブラーマン」と違って、最後までスーパーパワーを獲得することなくボコられ続けるのもリアルでグー!一方、ビッグ・ダディとヒット・ガールの衣装は誰がどう観てもバットマンとロビンのパロディ(→そもそもミラーの最初のアイデアが「バットマン」のパロディ)^^。それにしてもヒット・ガールを演じたクロエ・グレース・モレッツは<父親から復讐のために暗殺術をトレーニングされた少女>という「修羅雪姫」に匹敵するような凄い設定の役を引き受けたものだが・・・本人は勿論(→彼女は「ウォンテッド」のジョリーの大ファン)、家族も内容を気に入り、特に父親はすぐさま格闘技を習うよう本人に説得したそうだ(どんな家族や:笑)。そのクロエの父親は撮影現場に入ると、先述した監督の心配など露とも知らず、おたくで有名なニコラス・ケイジとアメコミ談義で盛り上がっていたという(爆笑)。

 そんな素晴らしい環境の中(笑)完成した作品は大ヒット(→後半の展開はコミックと映画では異なるので、是非コミックも読んでみて)!続編の製作も正式に決定したそうだ。高名な映画評論家ロジャー・エバートは倫理的に気に入らなかったようだが、青年が悪を駆逐するスーパーヒーローを夢見て何が悪いんだい?今作の最大のテーマは「平凡な日常生活でも、勇気をもって自分がアクションを起こすことで、それまでの自分を変えることが出来る」ということだと思うのだが。

 
 日本でも長引く不況に将来の不安、凶悪事件に児童虐待と、おぞましい日常と閉塞感でいっぱいだが、ここ数日、日本のヒーローのひとり「タイガーマスク(→知らない人は梶原一騎先生の原作漫画を読むこと!)」の主人公・伊達直人を名乗って恵まれない子供たちに寄付をする人たちが日本中にいるじゃない。筆者はそのニュースを聞いて「まだまだ日本人も捨てたもんじゃないな〜」と安堵したよ。目に見える形で巨悪を罰するヒーローにはなれなくても(→実際にやったら逮捕されるし)、そういう見えない形で善行を行う人たちも立派なスーパーヒーローだと筆者は思う。「キック・アス」はそんな現代を生きる人たちこそ、観るべき映画だろう。