其の390:真のヒロインアクション「チョコレート・ファイター」

 久々に日本以外のアジア映画を。日米問わずヒロインがアクションをこなす映画は頻繁に作られているけれど(いまも「バイオハザード」とかさ)、まぁその大半はカット割りの速さやCG処理によって成立していることは周知の通り。ところがアジア映画になると・・・いまでも生身でアクションしているわけですよ!タイ映画「チョコレート・ファイター」(’08)は若手新人女優のマジアクションが炸裂する快作!!彼女ー“ジージャー”ヤーニン・ウィサミタナンは志穂美悦子ミシェル・ヨーも軽く越えたわ^^。ヒロインの父親役で阿部寛も出演!吾妻ひでおの「チョコレート・デリンジャー」ではありまへん。


 
 日本ヤクザと現地マフィアが抗争するタイ。タイ・マフィアの女ジンは日本人ヤクザのマサシ(=阿部ちゃん!)と恋に落ち、子供を宿すものの彼にはその事実を知らせず、日本への帰国を勧めシングルマザーとなる。それから十数年後ー。足を洗ったジンは、日本語の「禅」からとったハーフの娘ゼン(=“ジージャー”)とひっそり暮らしていた。ゼンは自閉症として生まれてきたがアクション映画のビデオを見ただけでその技を習得できるという、並外れた身体能力を持っていた。そんなある日、母ジンが思い病に侵されていることが発覚。治療費を稼ぐためにゼンは幼馴染と共に、母がかつて金を貸していた悪徳商売人たちに取り立てを行うようになる。その行為をジンの昔のマフィア連中が聞きつけて・・・!

 本作最大の見どころは何よりも“ジージャー”ヤーニン・ウィサミタナン(→以下、長いんでジージャーのみ表記)の壮絶マジアクション!見た目、気持ち森下千里似(←あくまで筆者の主観)の華奢な彼女が、大の男顔負けの派手なアクションを行っていることが素晴らしい(=ちなみになんで「チョコレート・ファイター(原題:チョコレート)」かというと、ゼンが日頃マーブル・チョコレートを口にしていることから:笑)!なんとジージャーは今作に出演するため4年にも渡って様々な格闘技のトレーニングしてきたのだ(4年だよ、4年)!!そんな彼女が製氷工場にはじまり精肉店、日本料理屋、はたまた電車の路線沿いの雑居ビル・・・と様々なシチュエーションで大格闘!女装のオカマのマフィアまで出てきてあっさり殺されるのはタイ映画ならでは(笑)。

 監督はプロデューサーとしても活躍しているプラッチャヤー・ピンゲーオ(タイ人の名前は長いの〜)。以前ここで紹介した「マッハ!」(’03)、「トム・ヤム・クン!」(’05)でトニー・チャーをスターダムにのし上げた売れっ子映画人。「女性が主人公のムエタイ映画」を企画、プロデュース作品制作中にジージャーを紹介されたものの「映画のストーリーが浮かばなくて」(本人談)当初、1年の準備期間が4年かかってしまったという(爆笑)。そんなある日、思いついたのがヒロインが<サヴァン症>でカンフー映画を観ただけで格闘技を体得する天才的な記憶力の持ち主(→「レインマン」のダスティン・ホフマンと同じですな)という設定。勿論、実際のサヴァン症の人がこんなことが出来るわけがないのはいうまでもない^^。

 クライマックス前の<日本料理屋>での戦いは・・・どう観ても「キル・ビル」の青葉屋が元ネタ。部屋の間取りといい、日本刀持ったマフィアが大勢現れるのといい、ほとんどまんま(ピンゲーオは自他共に認める映画オタク:笑)。そこで現れるのが阿部寛!本人は「オファーが来たときはびっくりした」そうだが、実は彼の主演テレビドラマはタイでも放送されていて、現地ではメジャーな日本人俳優だそうだ。そんな彼が銃&日本刀でバッタバッタと敵を斬る!現地には日系の殺陣師がいたそうだが、どうみても「時代劇」の構えだったので(笑)阿部ちゃんがピンゲーオに提案して修正したんだと^^。

 今作のエンディングはジャッキー・チェン映画でおなじみの「NG集」になっているが・・・日々、キャストが生傷だらけで治療する痛々しい姿がフィルムに克明に焼き付けられているので必見。撮影中、ピンゲーオは「俳優の体力が落ちたら、いいアクションは撮れない」という持論から、同じアクションは1日2回までしか取り直さない徹底ぶり。「マッハ!」のトニー・チャーのように足に火がつくようなシーンはないが、それでもジージャーは日々負傷。スタントマンの中にはラストの雑居ビルでのバトルシーンで路上に落下(→マット敷いてない!!)、病院送りになった人も(この様子もエンディングに入ってマス)・・・。邦画のアクション映画はタイ映画に軽く負けたかも(苦笑)。


 観客が「これは凄い!あれは痛そう!」と感じる超絶生身スタントアクションは、スタッフ・キャストの並々ならぬ情熱と努力の賜物だと改めて実感した次第。安全面を考えることは勿論わかるし大切なことだけど、CGで派手に加工しただけのアクションでは真に観客を感動させることは出来ないのではないだろうか?いつか、日本にも「マッハ!」や「チョコレート〜」を超えるアクション映画が登場することを切に望む!!