其の387:難解SF作「インセプション」

 ・・・やっぱり予定を変えてしまった(笑)!ようやく話題のSFアクション大作「インセプション」を鑑賞^^。少々長すぎる気もしたし、ド頭からフラッシュ・フォワードっていうのも如何なものかと思ったが、結果、見応えがあって面白かった。ビジュアル的にも新しいことやってたしね。渡辺謙さんは今作を「脳内アトラクション」と表現していたが、「過去作のパターンを踏襲しつつ、うまく発展させた映画」・・・というのが筆者の正直な感想でもある。

 
 ドム・コブ(レオナルド・ディカプリオ)は、人の夢(→潜在意識)に入り込んでアイディアを盗み取る特殊能力を持つ凄腕産業スパイ。そんな彼に、強大な権力を持つ邦人実業家サイトー(渡辺謙)が仕事を依頼してくる。その内容というのが<ライバル会社の解体>を病床の社長に代わって息子のロバート(「バットマン ビギンズ」のスケアクロウことキリアン・マーフィー)にさせるようアイディアをインセプション(→「植えつけ」の意)させるという困難なもの。一度は断ったものの、妻殺害の容疑をかけられ子供に会えずにいるコブは、犯罪歴の抹消を条件に、これを<最後の仕事>として引き受ける。相棒のアーサー(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)に、夢の世界の「設計士」のアリアドネ(「JUNO/ジュノ」のエレン・ペイジ)、他人に化けターゲットを誘導する「偽装師」イームス(トム・ハーディー)、そして夢の世界を安定させる鎮静剤を作る「調合師」のユスフ(「アバター」にも出ていたディリープ・ラオ)にサイトーを加えた6人は、飛行機内でロバートを眠らせ夢の中に潜入する。ところがロバートは企業スパイに備えて<潜在意識の防護訓練>を受けていたため、手練れの兵士たちがメンバーを襲ってくる!時間内にインセプションを成功させるため、コブたちはより深い階層(→夢の中の夢)に潜入していくのだが・・・!?

 
 この「ハイテク夢泥棒」を考えたのが制作・監督・脚本を兼任したクリストファー・ノーラン。物語が逆行していく「メメント」や「アメコミの実写化」という枠を越えた新生バットマン第2弾「ダークナイト」の監督としても知られている御仁。そんなノーランが構想9年をかかて取り掛かったのが今作である。

 ロードショー中なので、ネタバレしないように書いていこうと思うが・・・奇抜な設定ながら<夢の中でのバトル>・・・これ、筆者は「マトリックス」シリーズからヒントを得ていると思った。しっかり夢の中で撃たれるとダメージ受ける描写もあるし(何故「マトリックス」の影響を誰も指摘しないのか不思議ではある)。もしかすると、それは物語の後半・・・ロバートの夢の中に入っていったものの第1階層は<雨のロス>で、第2階層が<ホテルの室内>。さらに第3階層<雪山の病院>まで出てきて、その3つの舞台がクロスして展開していく超絶編集技法に皆の目が奪われての結果かもしれない(筆者は幸い戸惑わずに済んだものの、後ろに座席にいたお兄さんなぞ「途中で訳分かんなくなった」とボヤいてた)。夢の中なのだから、レオや謙さんが空飛ぶのもありだと思ったけどーそれやっちゃったらまんま過ぎるか(笑)。
 犯罪者の主人公が「これが最後」といって、仕事受けるパターンはこれまでに何百本もあるし、<凄腕のエキスパートでチームを作って仕事する>のも「スパイ大作戦」ほか、これまで何百本観たことか!こうした<よくあるパターン>を踏襲しつつも<夢のビジュアル化>に新機軸を打ち出したのがノーランのノーランたる所以だ。

 「予告篇」にもあったようにパリの街がトランスフォームする場面(→これ書ける人、大友克洋ぐらいしか思いつかん!!)やホテルの廊下での無重力バトル(→ノーランが尊敬するキューブリックの「2001年宇宙の旅」をイメージしたそうな)は驚異的な凄さ!!いまや金と時間さえかければ創れない映像はない時代だが、ノーランは俳優にも役の気持ちをリアルに味わって演じさせるため、どのシーンでも必要最低限のCGしか使わず、巨大セットを多用。これらはすべて一見の価値あり!中でも「廊下の場面」ではわざわざ360度回転する超巨大セットを作ってまで撮影してる(で役者はワイヤー吊り)!
 加えてメインの撮影を行ったロスのほか東京、ロンドン、パリにモロッコ、カナダのカルガリーにまでロケを敢行!「イメージ通りの絵を撮るためなら労は惜しまず」ということか。えらいっ^^(但し「日本の城」のセットは・・・まだ<西洋人の考える日本のベタなイメージ>から抜けてないけど)!筆者だったら面倒くさいから全部グリーンバックで撮影して合成しそう(笑)。

 日本的には「渡辺謙がレオ様と共演!」ということで撮影中から大々的に宣伝されてきたわけだが(東京でロケもされたし)、実際に完成作を観たら、ほんのちょこっとしか出演してない・・・な〜んてことはこれほど山ほどあったけど、今作でノーランは謙さんをイメージしてサイトーを当て書きしていて、名前のクレジットもレオに続いて2番目(→ハリウッドは主役、脇役に関係なくギャラの高い順番でクレジットされるのだ)!!でも<仕事を依頼した上に自ら作戦に参加する実業家>って・・・。ノーラン的には「日本人=律儀」というイメージなのかもしれない(笑)。
 一方、レオは死んだ嫁はんがトラウマになっている設定なんだけど・・・それはついこの間「シャッターアイランド」で観たばっかだぞ!次回作では<嫁さんトラウマキャラ>でないことを祈る。エレン・ペイジは・・・相変わらずの童顔。で、ロバート役のキリアン・マーフィーは相変わらずうつろな目しているので、筆者はいつスケアクロウに変身するかと思った(笑)。この他、名優マイケル・ケイントム・ベレンジャーピート・ポスルスウェイトに懐かしのルーカス・ハースも出演しているので、どうぞお楽しみに!

 
 今作最大の問題はラストの解釈だろう。既に観ていた筆者の周りの人々は口々に疑問を呈していたが、筆者は「うる星やつら2」同様、夢が題材の作品だけに、ああいう終わり方をすると思ってた^^。先述したようにノーランがスタンリー・キューブリックを尊敬するだけに(→時間軸をシャッフルする技法は「現金に体を張れ」から来てる。これはタランティーノも然り)うまく謎を残す名人でもあったキューブリック手法を用いると推測してたわけ。筆者の解釈もあるが・・・そんなにこだわらないでいいんでないかい?「あれ、結局どうゆうこと?」と話出来る作品がハリウッドでは少ないだけに、この終わり方も筆者的にはあり、だ。


 ノーランの次回作は待望の「バットマン3」!こちらも期待大^^