<其の726>知的エンターテインメント作品「TENET テネット」短評

 クリストファー・ノーラン監督最新作「TENET テネット」(’20)を映画館で観てきました。前作「ダンケルク」から3年って・・・月日が流れるのは早い!!映像が<逆回転>していくので話題の本作。日本では公開されたばかりなので、ネタばれしないよう短めに書いていこうと思います🎵このタイトルは回文になっていて「左から読んでもTENET、右から読んでもTENET」・・・って、日本で例えれば「山本山」状態(違うだろっ:苦笑)。

 

 ウクライナキエフのオペラハウスー。ここで謎の集団によるテロ事件が発生!鎮圧の為の特殊部隊にCIA工作員の男(=デンゼル・ワシントンのご子息:ジョン・デイビッド・ワシントン)も扮装して突入した。彼の目的はプルトニウムを奪取したスパイを救出する事。だがスパイの所有するケースにはプルトニウムではなく、見たことのない謎の部品が入っていた。スパイの救出に成功したものの、男はロシア人達に捕らわれてしまう。拷問の隙をついて彼は自決用の毒薬を飲みこんだー。

 男が目を覚ますと、フェイと名乗る人物から一連の事件は自分たちの組織に加えるかどうかのテストだと告げられる。そして人類の未来を大きく左右する“あるミッション”を命じられる。こうして男は時間の<順行>と<逆行>を経験する、未知への戦いに身を投じてゆくー!!

 

 作品の性質上・・・あらすじは上記までが限界かな!?ノーランさんは「007」シリーズのファンとのことで、スパイアクションにSFを足した新しいスパイ映画を作りたかったそうだ。よって、主人公の敵が誰で、なんで時間が逆行したりするのかーその辺りの謎が知りたい人は、是非映画館で確認してね❤

 個人的な感想で言えば・・・<映像>とはスローにしたり、ストップモーションにしたり、過去のシーンをフラッシュバックしたり、はたまた時系列をシャッフルする等、現実とは異なり時間の流れを操る事が出来るもの。タランティーノジョン・ウー、出﨑統監督らの諸作品を思い出して頂ければ分かりやすいでしょう。クリストファー・ノーランは監督2作目の「メメント」(’00)で、既に「10分しか記憶を持続できない男」が時間を<逆行>して謎を解くミステリー作品を演出しており(筆者的には途中でオチが見えたけどネ)、今作はそのバージョンアップ版という想いで観ていた。

 映像業界の人なら何度も撮影素材を送ったり、戻したりしながら編集作業をするので<逆回転映像>は全然珍しくはないんだけど、ドラマの中に組み込んで、ここまで大々的に見せたのは世界初ではないかと思う(違ってたらメンゴ)。撮影時、単に順行撮って、素材を逆再生させてるだけではなく、場面によっては逆行の芝居もしてもらった筈で(その為にIMAXカメラを改造してる)・・・これはスタッフ、キャストも大変だったろうなぁ!途中でなにやってるか混乱しそう(苦笑)。ちなみにCMや予告観てると、映画の大部分が逆行してる印象受けますけど、違いますから!前半にちょこ、ちょこ出てき初めて・・・あとはポイント、ポイントで逆行する感じなので・・・全体でいえば想像ほど逆回転の尺、長くないですぜ!2時間半の映画で半分以上、逆行したら・・・もう訳わからなくなる(笑)。まぁ、それも観たい気はするけど(笑)。

 そんな新機軸に加えて「インセプション」(’10)程ではないけど、スパイアクションにしてはやけに重層的な設定・・・。ノーランさんは考える事が完全に理系タイプだよね。複雑な事を考えるのが好きなんだろうと思う(笑)。逆行の設定も後で考えると、ちょい辻褄合わないところも思い出すし、逆行した際に食事や排泄はどうなるのかも描かれていないので分からないけど(笑)。よく分からん部分は「考えないで。感じて。」と劇中に説明されるが・・・ノーラン自身もそれを承知の上でツッこまないで欲しいという防御策なのか、はたまたブルース・リーを思い出しての引用なのかどうかも不明(苦笑)。

 また<実写主義>のノーランさんらしく、物語の中盤に出てくる飛行機の爆破シーンは・・・あれ本物なんだって!いまなら普通、CG使うんだけど、彼の場合は実写。こんなクライマックスとも思えるシーンがまだ物語の途中で、クライマックスは大人数が登場する大バトルシーンが登場!大金かけて実験的内容の作品を創るところがノーランの尊敬すべき凄いところ。出来は別として「ミッドウェイ」とか、こういうスケールの大きい映画はやはり映画館で観ないとねぇ^^。

 

 筆者は現時点でのノーラン最高傑作は「ダークナイト」(’08)だと思うけど、今作は「メメント」、「インセプション」に続く“ノーランにしか考えられない発想映画”の1本。知的な娯楽作品だ。シンプルに「すげー!」とか「面白い!」等の声を発する事はないけど、観客の脳をあれこれと刺激してくれる。これ1本でも完結してるけど、いつか続編も作られそうなニオイ。その時は・・・続編も観るけどね^^。

 

 「メメント」の構成はフランス映画「アレックス」でパクられたけど、今作の手法もじきにパクられるんだろうなぁ。意外に一番早いのは日本のCM業界かバラエティの1コーナーだったりして^^。