其の286:「ダークナイト」は超重量級クライムアクション

 寸暇を惜しんで公開されて間もない「ダークナイト」を観に行きました。原題通りの邦題ですが・・・これ「バットマン」の最新作よ(笑)!前作「バットマン ビギンズ」(’05)で、ティム・バートンジョエル・シュマッカーが手掛けたシリーズをリセットして始まった<リアル・バットマン>第2弾!「バットマン」の映画は「スパイダーマン」シリーズと違って、アメリカのウルトラヒットに反して日本では大して客入らないんだけど、先日「ビギンズ」がTV放送された&「お盆休み」という事もあってか非常に混んでいて驚いた(中には老夫婦の姿も:苦笑)。ところが、この「ダークナイト」は・・・アメコミヒーローものの範疇を遥かに越えた超重量級犯罪映画になっていました。


 前作のラストで提示された通り、怪人ジョーカー(「ブロークバック・マウンテン」のヒース・レジャー)やマフィアが跋扈するゴッサム・シティー。大企業の会長にして「バットマン」であるブルース・ウェイン(前作に続いてクリスチャン・ベール)とゴードン警部補(最近悪役が減ったゲイリー・オールドマン)はマフィア撲滅の為、マネー・ロンダリングを行っていた銀行を摘発。彼らの資金を絶つ事に成功する。
 そんなある日、街に地方検事ハービー・デント(「ブラック・ダリア」のアーロン・エッカート)が着任。犯罪撲滅を誓い奮闘する正義漢の彼は、ブルースが以前交際していたレイチェル(トム・クルーズの妻、ケイティ・ホームズからマギー・ギレンホールに交代)の現在の恋人でもあった。彼を認めたウェインは今後を彼に託し「バットマン廃業」を考えるようになる。
 丁度その頃、ジョーカーからのメッセージが全市民宛てにテレビ放送される。「バットマンが自らマスクを外して正体を明かすまで、毎日市民を殺す」・・・!こうしてバットマン、ジョーカー、デントにレイチェルをも巻き込んで事態は二転三転してゆくー!!ちなみに名優マイケル・ケインや最近ついてないモーガン・フリーマンも出てるよ^^


 これまでの「バットマン映画」の<見所>といえば戦いながらも苦悩するブルース・ウェインの姿(笑)のほか、相手役となるユニークな敵(=時には主人公より扱いが上)に毎回一新される「スーツ」のデザイン(今回も変わってます)に「ゴッサム・シティー」のデザイン、そして「バットモービル」等のメカ(今回は「モービル」のほか、バイク風乗り物「バットポッド」が登場^^)であった。今作もそんな基本路線は「お約束」として押えてあるが、なにより目を引くのが映画史上最凶となった「怪人ジョーカー」だろう。


 バットマンに登場する<怪人たち>といえば、なんらかのハプニングで精神的にダメージを受けたり、外見にハンディを負い怪人となるパターンが多かった(その昔、ジョーカーを演じたジャック・ニコルソンも原作を踏襲してそのパターン)。ところが今回のジョーカーは全く違う!一度も素顔を晒さないし、変身の理由も言い分がコロコロ変わるので(親父のせいとか、元妻のせいだとか)よく分からない。
 更に金にも何にも興味なし。ただ人々を苦しめたり、社会を破壊する事だけが楽しみという<完全無欠の無法者>!その上、彼本人は相手に対し<人間心理の痛いところ>を突きまくる。「お前が死ぬか、相手が死ぬか?」ー常に究極の2択!!バットマンは勿論、デントもレイチェルもゴードンも彼に翻弄され続ける。その為によって各人に起こる悲劇・・・。それが観客ひとりひとりの心に重くのしかかる。
 今年の1月に若くして急逝したヒース・レジャー、最後にして最高、渾身の演技である。慎んで彼の冥福を祈る(「ブロークバック〜」のアン・リー監督も「思い出す度につらい」と言ってた)。


 製作・原案・共同脚本・監督を手掛けたのは「ビギンズ」のクリストファー・ノーラン。監督2作目の「メメント」(’00)で一躍メジャーとなり、「ビギンズ」がアメリカで大ヒット。秀作「プレステージ」(’06)を挟んで作り上げた今作(冒頭、「ビギンズ」での敵、スケアクロウも出る)は作劇術がより進化した気がする。リアル路線が更に進み、もう半ばアメコミ映画ではない。妙な衣装をきた悪人が登場する「クライム・アクション」だ。そのおかげでシカゴで長期ロケした「ゴッサム・シティー」も観ていて大して気にならなくなった(前作の時は「バットモービル」のデザイン同様、すげー気になったけど)。
 

 ノーランは原作コミックを相当読み込んだようで、諸シリーズのあらゆるテイストを盛り込んで構成した脚本はお見事というほかない(=その分、上映時間が2時間32分の大作となったが、見せ場をハイテンポでつないでいくので厭きさせない)。
 そもそもアメリカン・コミックは日本と違って作者がたとえ死んでも人気がある限りは、別の作家が引き継いで延々続くんだけど(う〜ん、資本主義!)、70年代に書かれたコミックの設定や後に「シン・シティ」でヒットを飛ばすフランク・ミラーが書いたシリアス路線「ダークナイト・リターンズ」や「キリング・ジョーク」、更に「ロング・ハロウィン」等から設定を引っ張ってきている。現在アメリカでウルトラヒット中なのは、なによりこの構成が巧くいったからだろう(違ってたらゴメンね)。


 旧「バットマン」シリーズや原作を知っている人はハナから分かる話なのであえて書きますが物語の後半、デントは「怪人トゥー・フェイス」に変貌(理由は原作とは異なる)。以前、トミー・リー・ジョーンズが演じたトゥー・フェイスとはビジュアルも全く異なるので、ここも要注目(期末テストには出ません)!
 で最後の最後には・・・誰もが予想せぬ展開となった上で「ジ・エンド」!!どんな名作でも「ネタばれ禁止」がこのブログのモットーなので詳細は書きませんが・・・こんな形で終わるヒーローものがこれまでにあっただろうか??勿論、「ロッキー」のようなカタルシスなんてあるわきゃない(苦笑)。
 強いて例えるならば富野由悠季が本名の喜幸時代に監督したテレビアニメ「海のトリトン」あるいは「無敵超人ザンボット3」のクライマックスのテイスト(=分かる人には分かるよね、Sくん^^)に近い。タイトルの意味(邦訳「暗黒の騎士」)は最後にしてよ〜く分かります。にしても、こんな終わり方されたら続きが気になってしょーがない。早いとこ「続編」頼むぜ、ノーラン!!


 ・・・というわけでヘビーでハードな作品観賞が(偶然)続いている筆者なのでした(苦笑)。