其の298:東野圭吾讃「容疑者Xの献身」

 今回は食育がテーマの「ブタがいた教室」・・・ではなくて(笑)ミステリー作「容疑者Xの献身」で御座います。一般的にはフジテレビの人気ドラマの映画化、ミステリーマニア&読書家的には東野圭吾の「探偵ガリレオ」シリーズにして直木賞受賞作の映画化です(個人的には彼にならノーベル文学賞を与えてもよいと思う)。高視聴率ドラマの映画化ということで、公開以来ヒット街道驀進中ですが・・・TVしか知らない人が観にいくと超シリアスで驚くこと請け合い!これが本来の東野テイストなのだ(注:筆者は東野の大ファンである)。TVのようにいきなり数式書いて決めのポーズをとったりしないのでご注意あれ。


 都内でささやかな弁当屋を営む花岡靖子(松雪泰子)と美里母娘は、アパートに押しかけてきた元夫(=最低最悪のダメ人間)を口論の末、勢いあまって絞殺してしまう。その物音を聞き、親子の事情を察したのは隣室に住むひとりの男・・・。
 数日後、大学で「変人ガリレオ」と呼ばれている湯川学准教授(もち福山雅治)の元に、いつものように刑事の草薙(北村一輝)と内海薫(柴咲コウ)が殺人事件の相談で訪れる。事件には全く興味を示さない湯川だったが、容疑者親子の隣に住んでいるのが大学の同期・石神(堤真一)だと知る。湯川をして「真の天才数学者」といわしめる頭脳の持ち主・石神。湯川は大学卒業以来、初めて石神を訪ねるが・・・。


 数々の雑誌で紹介されているので「蛇足」を承知で書くとー「探偵ガリレオ」は天才・湯川の下に草薙刑事(注:内海はドラマによるアレンジ。後にそれを受けて東野が考案)が持ち込むオカルト的事件をその明晰な頭脳と物理学を駆使して解き明かしていく短編連作シリーズ。2冊の短編集(「探偵ガリレオ」、「予知夢」)を基にコミカルなテイストで映像化したのが昨秋放送されたTVドラマ「ガリレオ」である(全10話)。その初の長編作が今作の原作「容疑者Xの献身(「容疑者X」改題)」。丁度、映画の公開日初日にも「エピソード0」としてスペシャルドラマが放送されましたね(また最近、映画の公開に呼応するかのように新たな短編集と2作目となる長編作が書籍化された)。大学で電気工学を学んだ作者らしい「科学版ホームズ」と呼ぶべき作品である。「短編メインで長編ちょこちょこ」これも本家ホームズと同じ。


 今作は推理小説では「倒叙もの」と呼ばれるパターンで、これはあらかじめ読者に犯人が提示され、それを探偵が推理しながら真実に迫っていくというもの(例:「刑事コロンボ」とそれを真似した「古畑任三郎」)。原作は石神が占める比重が大きいんだけど、映画は主役(ガリレオ)目線にしたため、少々石神の影が薄くなったが・・・致し方ないか。湯川(=ネーミングの由来はノーベル賞学者・湯川英樹だろう)も割りとパッパと真相に行き着いちゃうし(=映像的にもヒントが分かりやすく映し出されるので、すぐにピンとくる)。映画の「逃亡者」じゃないけど<天才対天才、頭脳VS頭脳>がもう少し明確に出ていたら映画的にはもっと良かったとは思うが十分楽しめた。単なる謎説きで終わらず、<愛の物語>になっているのがいいんだよな〜^^


 元々フジテレビは「TVドラマ+映画」という1パッケージで企画したので、キャストは当然継続しての出演(=レギュラーだった監察医役の真矢みき渡辺いっけい、「品川庄司」の品川が余り出てこないのは残念)。ドラマにはなかったシリアスな一面も出ていて良かった(一度ぐらいは湯川の自宅が見たかったな)。
 映画用のリンクとして「エピソード0」にもちょこっと出てた石神に扮したのは売れっ子の堤真一だが・・・湯川と対照的に容姿も生活も非常にしょぼくれた感じが出ていて上出来(髪をすいて、白髪を加えたそうな)。それがラストに効いてくるんだよね〜(ネタバレするから書かないけど)。そんな堤真一だが、10数年ぶりの映画出演&初主役で緊張する福山雅治に撮影の合間ひたすら冗談ばかり話しかけていたという。福山曰く「俺を潰そうとしているのかと思った」(爆笑!)


 スタッフもドラマ全10話のうち5話(共同脚本含む)を手掛けた福田靖が脚色。原作にはない「雪山登山のシーン」は作品のスケールアップ&登場人物の内面を語る上でもナイスなアイデア
 監督もドラマを手掛けた演出家のひとり、西谷弘。織田裕二柴咲コウ出演の映画「県庁の星」もこの人。韓流映画の大傑作「殺人の追憶」を念頭において演出したらしいが(苦笑:どこの部分?クレーンを多用したことか?)映画的正攻法のアプローチが功を奏している。ケレンでやったら「模倣犯」みたいに大失敗していただろう。また原作の記述に極力忠実な姿勢を貫いたのもグー!日本橋浜町や「男女7人夏物語」で御馴染み清洲橋が出てくるのがー筆者はその昔この界隈で働いていたのでー嬉しかったなぁ!「浜町公園」なつかし〜^^


 東野作品の映画化は大半観てるんだけど(視聴率は低かったもののドラマ「白夜行」は、原作とは別の視点で描きながらも面白かった。いま放送してる「流星の絆」は・・・ちとコミカルすぎるけど)成功したのは今のところ広末涼子主演の「秘密」と今作ぐらいじゃないかしら?先生自身も「この企画に賛同したのは間違いではなかったと確信した」とお気に入りのご様子だし。ヒットしたし、長編第2作目も出たのだから、まだまだ続きを作ってほしいね!何十億と金がかかるわけでもないし。


 最後に一言:湯川も石神も天才なら、それを創造した東野圭吾もまた<天才>である。