其の373:奇妙な味わいの一篇「泳ぐひと」

 マーティン・スコセッシレオナルド・ディカプリオのコンビ4作目となるミステリー映画「シャッターアイランド」を観たのですが・・・開始3、40分でオチが読めてしまった。しかも、近年流行りの●●オチ(怒)!「スコセッシ、お前もか!」の気分(トホホ)。これで許されるなら、筆者は同じパターンで脚本100本書く自信があるよ。「シックスセンス」の●●オチ、「フォーガットン」ほかの×××オチに続いて、このオチも禁止せよ!原作もそうなっているんだろうけど・・・このままじゃミステリー映画というジャンルが終わるよ、マジで!


 ・・・と怒りのコメントを書きつつ、今回ご紹介するのは米映画「泳ぐひと」(’68)。これも広義で考えると「シャッター〜」と近いオチかもしれないけど、最後まで微妙なニュアンスで終わる「シャッター〜」と異なり、こちらは苦〜い奇妙な味わいを残す知る人ぞ知る問題作。俗にいうアメリカン・ニューシネマの1本^^。

 
 ある夏の風光明媚な別荘地帯にて。初老ながら若々しい肉体の持ち主ネッド・メリル(=バート・ランカスター)が突如海パン一丁で友人宅に現れる。久方ぶりの再会に喜ぶ友人たち。その時、ふとネッドの脳裏に<プールを持つ友人宅を順々に周ってひと泳ぎしつつ帰宅する>アイデアが浮かぶ。こうして彼は友人宅に寄りつつプールで泳いでいくのだが、全ての人が彼を歓迎するわけではなかった・・・。

 話の前段を要約すると上の通りになるのだけれど、そもそもネッドが「どこで服脱いで海パンはいてきたのか?(笑)」、「友人たちと接触を持たなかった間になにがあったのか?」等、頭から「?」の連続(本人も多くを語らないし、妻と娘は元気にしているというだけ)。この<正体不明の男はどんな人物で、一体なにがあったのか>を観客は「ネッドと友人たちとの会話」の中から少しずつ分かっていくようになる筋立て。ある種の「不条理劇」と呼んでも差し支えなかろう。音楽もどアタマからブルーな感じだし(笑)。

 監督は「リサの瞳のなかに」、「ドク・ホリディ」のフランク・ペリー。ジョン・チーバーの短編小説(雑誌「ニューヨーカー」に掲載)を監督の妻エレノアが脚色した。ロケはペリーの出身地コネチカット州で行われている。写実的な部分とイメージ的に撮影、編集された部分が一体となっていて感心させられた(さすがニューシネマ^^)。・・・これ、面白いのが出典によって<監督>としてペリーとシドニー・ポラック、2人の名前が挙げられていたりすること。でも本篇にポラックのクレジットはない。何故か?
 映画の後半、主人公がかつて不倫していた舞台女優シャーリー(=演じるのは「サイレンサー」シリーズの一篇に出ているジャニス・ルール)の邸宅に寄り、彼女とよりを戻すべく説得する場面があるのだけれど、最初は別の女優がシャーリーを演じていた。ところが製作者がシャーリー役をジャニス・ルールで撮り直すよう要求して、ペリー夫妻が拒否!そこでポラックとカメラマン、マイケル・ネビアが新たに雇われ(→ネビアもノンクレジット)撮影し直した為。そのおかげで66年に撮了してたのに、公開まで2年もかかった・・・。プロデューサーがまともな人じゃないと監督は大変というお話(苦笑)。

 公開当時は「ベトナム戦争」や「黒人解放運動」ほかアメリカ国内はもとより世界中が騒然としていた中(日本も学生運動が盛んだったし)、安穏と生活している上中流階級が描かれているため「アメリカの有閑階級の倦怠と堕落を辛辣に風刺している(主人公含む。ランカスターのマッチョさはこれぞ“従来の強い正義のアメリカ”の象徴!)」ということで高く評価されたようだが(→そのせいかアカデミー賞ではノミネートすらなし)これ、いま観ると<バブル後の日本人>にも見てとれる気がした(やべぇ、ちょいネタバレか?!)

 あくまで筆者の推論だが・・・極力、ボカして書こうとは思うけど・・・このネッド・メリルなる人物は<都合の悪いこと>をあえて脳内で封印しているかのような気がしてならない。生まれ育ちがおぼっちゃんだけに尚更、現実が受け入れられないというか・・・最初はナイスガイで登場するものの、友人たちの言葉で少しずつ我に返り、次第に生気が失われみすぼらしく変貌していくし(俳優ランカスターの素晴らしさは、このブログで過去に幾度か言及しているので、今回は割愛!彼が今作の出来を大いに高めていることは言うに及ばず)。下世話な表現で例えれば「昔は銀座でシャンパン、毎日飲んでたのにな〜」と思い出してる元バブル親父というか(笑)。観た人なら、分かって頂けると思うのだが(どう)??

 
 それにしても<1968年>って、SF映画の金字塔「2001年宇宙の旅(尊敬するキューブリック♪)」が公開された年でもあるし・・・刑事映画を変えた<1971年>同様、映画ファンは必ずメモリーすべき年号だな^^!


 <どうでもいい追記>故石森章太郎先生が作画した「家畜人ヤプー」が復刻したので、つい衝動買い!小学校時代に立ち読みしたとき「これは子供が読んではいけないもの」と感じたので冒頭しか読んでいなかったのだが(→後年、江川達也が書いたバージョンはリアル過ぎるのでスルー)約30年ぶりに最後まで読んでみたらーやっぱりアブない漫画だった(笑)。さすが日本文学史上、最大の奇書(沼正三先生に合掌)。ウブな人が読むと大変なことになるので要注意!ウン年前、これの映画化企画の話が上がったようだが・・・絶対無理!!てゆーか、やめましょう!