其の362:大ヒット映画「アバター」を観たけれど。

 ジェームズ・キャメロン監督12年ぶりの新作「アバター」、観ましたよ!それもいま流行の3Dで。いまのところ全世界的な興行成績第1位は彼の「タイタニック」なのですが、それに次いで公開中ながら2位になった今作。キャメロンもほっと胸をなでおろしていると思いますが・・・肝心の中味が・・・(う〜ん)。


 西暦2154年。戦闘で下半身不随となった元海兵隊員ジェイク(「ターミネーター4」のサム・ワーシントン)は地球から約5光年離れた衛星パンドラへと送られた。パンドラの地中に埋蔵している鉱石(→超伝導性鉱石。地球の燃料危機解決につながるとされ高値で取引されている)採掘のため、資源開発会社が行っている特殊任務に参加することになったのだ。この星にはヒト型先住民ナヴィがおり、これまでも接触を試みたものの、ことごとく失敗!彼らの許可を得ての資源採掘などは夢のまた夢の状態だった。そこで考え出されたのが<アバター・プロジェクト>で、ナヴィと人類のDNAをかけあわせてつくったナヴィまんまのアバター(=分身)に精神をリンクさせることで操演し、彼らとのコンタクトを図ろうというもの。アバターを管理する科学者たち(「エイリアン2」のシガニー・ウィーバーほか)はパンドラの不思議な生態系に関心を寄せていたが、会社側の人間や雇われ軍人たちはナヴィのスパイとしてアバターを使うようジェイクに要請する・・・。
 ある日、アバターとリンクしたジェイクはジャングルに住む獰猛な生き物たちに襲われ、仲間たちとはぐれてしまう。そんな危機を救ってくれたのがナヴィの族長の娘ネイティリ(「ターミナル」のゾーイ・サルダナ)だった。彼女を介してナヴィの生活やパンドラの雄大な自然に触れるジェイク。次第にナヴィ寄りになってゆく彼に業を煮やした会社と軍人たちは、武力でナヴィを制圧すべく行動に出るー!!


 少年時代にSF小説を読み漁っていたというキャメロン(製作・脚本・監督・編集の4役兼任)が、1995年に書き上げた脚本を下にテクノロジーの進歩を待って4年がかりで製作した今作。全てCGで描かれたパンドラの大自然といい、ナヴィのクリーチャー(→モーション・キャプチャーによって俳優の演技を取り込んでCGキャラに置き換える。「ロード・オブ・ザ・リング」のゴラムを観てキャメロンは今作の製作に踏み切った)といい、ウォーカーマシン風のロボット(劇中では「AMPスーツ」という名称)の動きといい、巨額の費用をかけて現時点での最高技術を惜しみなく駆使したことはよ〜く分かったし、<衛星パンドラ>の設定考証にあらゆる分野の学者を集めて練りに練ったことも素晴らしい、とは思う(なんでも「ナヴィ語」は言語学者に依頼して2年の歳月をかけて創り上げたとか)。
 だが、何故かあまり全体的に<オリジナリティー>が感じられない。何故か?

 キャメロンとそのスタッフ&ファンの方々には大変申し訳ないが、単純にいえば<物語の骨子がありきたり>なのよ。「予告編」観た時からも感じていて前にも書いたけど、これ、主人公が敵(あるいは蛮族扱いの相手)と接するうちに、そちら側の心情も分かっちゃって、本来の自分の仲間たちとの間で揺れるというケビン・コスナー主演・監督作の「ダンス・ウィズ・ウルブズ」やトム・クルーズの「ラスト・サムライ」とまんま同じパターンの話なんだよね。加えて<自然との共生>とか宮崎駿的要素もあって、良くいえば「普遍的」、悪くいえば「ベタ」(笑)。

 あとナヴィのクリーチャーね。初期デザインを見ると、もろ<今時エイリアン>ってゆー感じで、「これじゃ観客の共感を得られない」という理由で現在のデザインで落ち着いたそうだが(→皮膚を「青色」にしたのはキャメロン曰く「僕の大好きな色」)、「宇宙戦艦ヤマト」のガミラス星人じゃないんだから(苦笑:パンドラの大気は人類にとって有毒、という設定は偶然だろうがこれも「ヤマト」と一緒)。あんなに周りがジャングルだと、保護色で身体の色が<緑色>になった、という設定の方が説得力がある気もするけどね(それだと「シュレック」か:笑)。
 めちゃめちゃ設定考えたにしてはナヴィの生活がよく分からない。狩猟民族というだけで、なにを主食にしてるか分からないし(→水を飲むシーンはあれど食事してる場面なし)、ジェイクとネイティリの「契りを交わした」場面もただキスして抱き合うだけ!性器はどうなってんのかね?ネイティリに乳房のふくらみはあるが、もしかしたら、あの髪の毛の先の触手でか?
 「肉体はこっちにいるけど、精神をリンクしてアバターを操演」という設定も、一部マスコミ(特に映画雑誌系)は誉めているけど<精神のリンク>は「エヴァ」でやってるやん。「本来の肉体が離れていても動ける」のも「マトリックス」で既に観てる(→「マトリックス」と異なるのは、アバターが怪我しても本人は大丈夫な点)。これで「新しい!」とか「画期的!」とマジで誉めてたら、その映画ライターはかなりの勉強不足だろう(仕方なく「提灯記事」書かされたと推察するが)。

 勿論、クライマックスは大方の予想通り<人類VSナヴィ>!主に空中戦&地上戦が展開されるわけなんだが、もうナヴィの扱いはかつてのイン●ィアンと一緒だよ!羽飾りつけて、肌に黒とか白のペイントするし。雄たけびあげて出撃するのもイン●ィアンと一緒(せっかく新しい宇宙人考えたんなら、ここまで人類っぽいリアクションさせなくてもよかっただろうに)。それに加えて「ベトナム戦争映画」の影響も多々観られ、キャメロンが「西部劇」に「ベトナムもの」やりたかった(あるいは、それらの影響から逃れられなかった)のもよ〜く分かった。「ターミネーター」シリーズや「エイリアン2」ほかでアクションシーンのパワフルな演出に定評のあるキャメロンだけにもったいなかった(ロボットバトルは凄かったけど)。こんな点も「いつか見た光景」の焼き直しということで筆者的には減点!

 最後は売りの<3D>!キャメロンは「3D以外の映画にもう興味なし」とコメントしているけど(→事実、この12年の間に彼は3Dのドキュメンタリーとかも手掛けてる)大して立体的に観えなかった(苦笑)。せっかく浮き上がる箇所作ってるのに、カット割りが早いから効果を感じた瞬間にそれが消えてしまう!その昔の3Dブーム(えらく短期間だったが)やディズニーランドの「キャプテンEO(監督フランシス・フォード・コッポラ、主演マイケル・ジャクソン!)」体験した筆者にとっては全然大したことなかった。まだこれなら昨年公開された清水崇監督作「戦慄迷宮」の方が良かったよ。2時間半以上、うざい眼鏡かけて字幕と共に観たのに・・・ホントに残念。

 
 以前予告した通り<期待せずに観た>おかげで大きな失望感から逃れることは出来ましたが「アビス」に続くイマイチな出来になったと思う。ちなみに筆者はキャメロンの映画はデビュー作の「殺人魚フライング・キラー」以外は全てリアルタイムで観ているファンなんだよ!タランティーノの「イングロリアス・バスターズ」に続くダメ出しをしたけれど、次回作に期待しよう(噂では漫画「銃夢」の実写化)。
 にしても今作のこの出来で、ロミジュリの焼き直し「タイタニック」に続く大ヒットというのは・・・筆者にはとても理解でけん!必ずしも「ヒット作=いい映画、面白い映画」ではない、ということを改めて認識したわ。