其の358:親父たちの挽歌「エグザイル/絆」

 全盛期を知る筆者的には近年低調な感が否めない香港映画界ではありますが(例外は「インファナル・アフェア」シリーズぐらいか)、その中において奮闘している監督の一人がジョニー・トーでしょう。彼もいろいろ撮っているので全作観ている訳ではありませんが「エグザイル/絆」は良かった!もちろん日本のパフォーマーグループとは同名ながら何の関係もありません(笑:ベタベタな序文の締め)。

 
 中国返還が間近に迫ったマカオ。とある住宅街で4人の男はウーの帰宅を待っていた。タイとキャットは彼を守るため、そしてブレイズとファットはウーを殺すために・・・。5人は、かつて香港最大のマフィア組織のヒットマンだったのだが、ウーがボスを銃撃して以来(理由不明)、長らく逃亡を続けていたのだ。ウーが帰宅したことで激しい銃撃戦が繰り広げられるが、彼は「殺される前に妻子に金を残したい」と告げる。こうして、4人はウーのために殺しの仕事を請け負うのだが、そこには予期せぬ事態が待ち受けていた!果たして彼らの運命は!?


 ジョニー・トーはアシスタント時代を経て80年代後半に監督昇進。89年の「過ぎゆく時の中で(主演チョウ・ユンファ)」で注目されるようになるーというのは<一般論>で、日本の映画ファンが注目し始めたのは「ザ・ミッション/非情の掟」あるいは「PTU」の辺りからだ。アクション以外にも、ラブストーリーやロマンティック・コメディも撮ってるし、プロデュース作も多数。「エレクション」(’05)はカンヌ国際映画祭パルムドール候補になるなど、国際的にも高く評価されているんだけど(どうしたウォン・カーウァイ)・・・アンディ・ラウ反町隆史が共演したものの、まるで話題にならなかった「フルタイム・キラー」や、 同じくラウがムキムキ坊主で登場する「マッスルモンク」なんて怪作もあるが、この際忘れてあげよう(笑)。


 そんなジョニー・トーの<(現時点での)最高傑作>とも呼ばれる今作。彼の作品に詳しい人なら先述した「ザ・ミッション/非情の掟」の「後日談的作品」だとすぐに気付くだろう。出ているメンバーも「インファナル〜」で御馴染みアンソニー・ウォンを皮切りにいつものオヤジたちだし(笑)。「男たちの友情」というテーマはジョン・ウー的だし、「ひとりは仲間のために」的行動はサム・ペキンパーの「ワイルドバンチ」を彷彿させる(というか、その辺りを意識して加味してる)。銃撃戦も冒頭からジョン・ウーばりに凄いし^^。そういった点でトーは<香港映画の正当な後継者のひとり>だと筆者は思う。


 「ネタばれ」になるのでストーリーはほんの少ししか書かなかったのだけれど、雇われ仕事で向かったレストランでひと波乱あって・・・結果、彼らは組織から追われるようになるわけ。それだと<よくあるパターン>なんだけど、後半に入ると<別の事件>を起こして意外な立場の人物と友情を交わすようになったり(→ここでのメンバーの様子がまるで童心に返ったようで微笑ましい)、<冒頭のほんのチョイ役>かと思われたウーの奥さんが物語に絡んできたりと一筋縄ではいかない凝った展開!パターン嫌い・マンネリ嫌いの筆者としては非常に感心したんだけど、現場では最終的な脚本が出来ていなかったらしくトーは相当テンパったらしい(このアバウトさがいかにも香港映画:笑)。


 勿論、クライマックスは(大方の予想通り)大大大銃撃戦!!それも大人数の男たちが入り乱れて<超至近距離>で撃ち合うんだけど、アンソニー・ウォンによると「(現場では)リハーサルなし。しかも臨機応変に撃ち合わなければいけないうえに、自分の身体に仕掛けた弾着は自分でスイッチを押して爆破させなければならず危なかった」とコメントしている(またまた、このアバウトさがいかにも香港映画:笑)。その血飛沫がパーッと、まるで霧の如く広がるのよ^^。これは<銃撃戦マニア>は必見(→筆者のことっす)!


 ふと気付いたけど、2009年の内にフィルムノワール(→仏映画)を取り上げようと思っていたのに、香港ノワールを書いてしまった・・・!


 
 <追記>①:再スタートを切った007の新作「慰めの報酬」を観賞。これ前作と話が直結してるから(シリーズ初のパターンだって)、前を観ていないとつらいかも。ひたすら見せ場見せ場の連続は素晴らしいが、敵キャラがしょぼいのが残念だった。やっぱ「いかにも!」っていう悪人面の奴をキャスティングしないとあかん。
 ②:サンドラ・ブロック主演のサスペンス作「シャッフル」。言いたいことは分かるんだけど、何故ヒロインが急に時間がシャッフルされるようになったのか、理由が最後までわからず。もしやラベンダーの香りを嗅いだとか(「時かけ」か)?