其の532:<番外編>2つのマニアック邦画紹介本

 最近<番外編>を書いてないことに気づきました。まぁ、気づいた以上は・・・たまには書こうかな、と(笑)。


 いま筆者の手元には2種類の書籍がある。ひとつは「アナーキー日本映画史」シリーズ2冊(洋泉社刊)。そしてもうひとつが「カルトムービー 本当に面白い日本映画」シリーズ(メディアックス刊)の2冊だ。どちらもすでにさんざん評価、紹介されている日本映画は基本割愛し、いま観ても面白い知られざる日本映画を紹介する体裁をとっている・・・このブログとちょっとカブってるな(苦笑)。

 割と同時期に出た“似たような”日本映画紹介本2タイプを、訴えられないレベルで少々比較してみたいと思う。ホントに訴えられない軽いレベルでね(苦笑)!!


 
 まずは2012年に出版された「アナーキー日本映画史」シリーズ。筆者がムック本スタート時から愛読している「映画秘宝」ライターたちによる1959年から2011年までの作品を199本チョイス(注:「僕の好きな日本映画」という個人的コラムの作品は除外)。1960年代からの日本映画の動向までも説明してある価値ある一冊^^。勿論、選んでいるのが秘宝ライター陣なので、マニアックな作品がバンバン出てくるのは映画オタクとして嬉しい限り。但し、映画観始めたばかりの人が読むには・・・少々早いかな。もっとベタベタな日本映画名作紹介的な本を読んで、それらの諸作品を観たうえで、こちら側(→ディープサイド)に入ることをお薦めする☆

 一方、今年出版された「カルトムービー 本当に面白い日本映画」シリーズ。著者として脚本家の桂千穂先生の名前が(大林宣彦監督の「HOUSE ハウス」や角川アニメ「幻魔大戦」他のあの桂千穂)!!説明書きによれば、桂千穂先生は戦後の邦画の話題作の90パーセントを観ていて、その内容を覚えていたという(驚)。その先生を“監修”にすえ編集部が作成したムック本(「文章を最終チェックしたのは編集部なので、文責は編集部にある。」との記載あり)。後から出た分、読者としては「アナーキー日本映画史」シリーズの“二番煎じ感”は否めないものの(編集部の方、すみません)、戦後直後の1946年から作品紹介をスタート!2013年までの計299本の作品をセレクトしている(「アナーキー〜」より100本多い)。長〜い年数を扱っているので“ガイドブックとしてのお得感”はありますな^^

 ご存じの通り、日本映画は1958年をピークに下降線を辿っていくわけですが(近年は興収だけは好調のようだが)、さすがにどちらの本も60年代は紹介本数が多い。「カルト〜」なんて1960年は13本も選んでる!一方「アナーキー〜」の方は同年2本のみ(苦笑)。選択基準は近いものがあるものの、やはり人によってチョイスする作品が異なるのは興味深い。

 また、当然のことながら、似たようなタイプの書籍ゆえ“カブり”あり(注:カブると言ってもヅラのことではない)。「筆者調べ」ではカブり作品は計32本!ここで全部挙げてもいいんだけど・・・出版社から訴えられるの嫌だからあえて書きません(笑)!知りたい人は両シリーズ全4冊買って独自に調べておくんなまし。ただ当ブログで過去に取り上げた作品がカブりに多々入っていることは記しておこう(これを人は「自画自賛」と云ふ)^^。

 
 勿論、あくまで筆者の個人的な“不満”もありまして・・・「アナーキー〜」は1冊目の<1959〜1979>は紹介作品数や日本映画史紹介のコラムが充実しているものの、2冊目の<1980〜2011>になると、作品数が大分少なくなっている(→それは邦画がダメダメだった時期もあるので致し方ないことでもあるのだが)。1本も選ばれてない年もちょいちょいあるし。もう少し作品数があるともっと良かったと思う次第。「つまんない映画が多かったから選ばなかった」と言われればそれまでだけど・・・。

 そして「カルト〜」の方。某老舗映画雑誌のベスト10は意図して徹底的に外し(→よって、「アナーキー〜」同様、黒澤明小津安二郎溝口健二らの作品は皆無)、その代わりに今では忘れ去られつつある木村恵吾・鈴木英夫・小森白監督たちを積極的に紹介してるところはえらい!でも、何気に成瀬巳喜男が入ってたり、いまではさんざん山ほど本も出て評価されてる「ゴジラ」(’54)や「空の大怪獣ラドン」(’56)、「モスラ」(’61)の<円谷英二特撮作品>は今更選ばなくてもいいような気が・・・。少々、徹底感に問題が。もっと“知られざる名作、黙殺された傑作”にこだわって欲しかったな〜。
 加えて80年代以降も意欲的に作品をチョイスする姿勢は評価に値するが、筆者も観て「こりゃあかん!」と思った「どろろ」(’07)や「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」(’07)とかまで選ばれてる!その辺りは選んじゃあダメでしょう。この本読んで実際に作品観た人は・・・絶句しますぜ!

 あと、これは編集部の意向が大きくあったようだが・・・桂千穂先生が書かれた「にっかつロマンポルノ」が、ちと多いかな(それも大半がSM:苦笑)。筆者は残念ながらロマンポルノ世代ではない&あの昭和独特の淫靡な・・・ヌメヌメしたエロ描写がいまいち苦手で(SMも興味ないし)、ほとんど観ていないんで何とも言えないけど・・・。そっち系よりは独立プロ作品ながら出来のいい小品をもっと紹介してほしかったっす。



 はいっ、ということで「アナーキー日本映画史」、「カルトムービー 本当に面白い日本映画」の2シリーズ計4冊、自腹で買って読んだので井筒和幸監督同様、思ったことを書かせて頂きましたが、こういう映画オタク専門書はやっぱり読んでて楽しいね❤「アナーキー〜」、「カルト〜」どちらも長所短所はあるものの、総括すればどちらも<過去の凄い日本映画大全>に他ならない。ホントにその昔は内容的にも技術的にも世界最高峰の作品が沢山あったんだから!それらを後世に残し、広く日本人に伝えてゆくという意味でも今回紹介した2シリーズの書籍は映画ファンのみならず、大勢の人に読んで欲しい好著(特に安易に人気少女漫画の実写映画ばかり作っている現在の映画関係者にはマストで読んでほしい!)。できれば掲載作品は全てソフト化し、世界にも「クール・ジャパン戦略」のひとつとして売り出してほしいものだ。

 
 加えて両出版社とも現在、新たな映画ムック本を企画しているようで→→→メディアックスは<松本清張映画研究本>、洋泉社は<実相寺昭雄監督研究本>。いいね〜、これからも頑張ってほしいね!

 どこでもいいから「氷の微笑」ほかで知られる巨匠ポール・ヴァーホーヴェンの研究本出してくれないかしら??出たら即買う(笑)!!