其の340:「ウォーリー」は老若男女必見作!

 前回からの<アニメつながり>ということで今回紹介するのは「WALL・E/ウォーリー」である^^。正直、日本男子としては従来のセル画によるアニメの方が絶対的に好みではあるのだが、ピクサーの3D作品は「トイ・ストーリー」を始め、ポイントポイントで観ている(どこまでCGのレベルが上がったか、という技術的興味も含めて)。そういった意味で「ウォーリー」の技術は・・・凄かった!!もう実写と遜色なし(詳しくは後ほど)!子供たちは勿論、老人にまで観てほしい映画だ。この作品は客を選ばない!!


 巨大ビル群がひしめく29世紀のアメリカ。人工知能を搭載したゴミ処理用ロボット「ウォーリー」が黙々と作業を続けている。ところが周囲で動くものは彼(?)と親友のゴキブリだけ。よく見てみるとビルだと思われたものは、ウォーリーが長年かけて積み上げた巨大なゴミの山・・・そう、人類は環境の悪化と産業廃棄物を処理しきれなくなったことを理由に地球を見捨てて数百年も前に宇宙に逃げ出していたのだ!!
 そんなある日、ウォーリーの前に巨大な宇宙船が出現。中から白色のロボット「イヴ」が姿を現し、廃墟の中をくまなく探索し始める。興味本位から、やがてイヴに恋心を抱くようになるウォーリー^^。ひょんなことから彼女(?)と行動を共にするようになったウォーリーは、イヴに先日発見した<ある物>を見せる。それこそイヴが捜し求めていたものだった。捜索対象物を体内に格納したイヴの前に再び現れる宇宙船。ウォーリーは彼女と離れることが嫌がり、無理矢理宇宙船にしがみついた。こうして初めて宇宙に出たウォーリー。やがて宇宙船は巨大な母艦の中へ吸い込まれていく。そこには宇宙へ逃亡している人類たちが安穏と暮らしていた・・・!

 
 可愛いロボットキャラでマイルドに表現していますがテーマは明らかに「文明批判」、「人類批判」(笑)!それを声高に説教がましくなく娯楽作に仕上げるのはやはり「腐っても鯛」のハリウッド。繁栄の象徴である摩天楼が実は「ゴミの山」だった・・・という展開には驚いた。これまで日本の漫画やアニメでもさんざんそのテの話は描かれてきたが(「漂流教室」とかさ)日本人が書くと何故かいつも重厚(苦笑)。ライトに「物質文明のなれの果て」を描いていることに感心したが、これもヤンキー気質のなせる業かも^^。これ見せられたら地球の未来のことなど何も考えてないノー天気な大人たちもちっとは考えるように・・・ならんか(苦笑)。

 技術的な面でいえば「トイ・ストーリー」や「バグズ・ライフ(→これどう観ても「七人の侍」なんだけど、よく「荒野の用心棒」の時みたいに訴訟騒ぎにならんかったね)」ではまだまだCGで表現できる<物の質感>に問題があったんだけど(=CGはやっぱり表面がツヤツヤしちゃう)、今作ではそれを解消するために煙やゴミ、汚れの表現を試行錯誤して追及。その結果、新たなソフトを開発しリアルな造形を表現することに成功した(ハリウッドの金と時間の掛け方はなんだかんだ言っても凄い)。またウォーリーやイヴの巨大模型を製作して実写のカメラワークや照明を研究したそうだ。その結果、光と影も違和感がまるでないし、手前と奥にキャラがいて、手前のキャラがフレームアウトするときなど、フォーカスが外れるところまでリアルに再現されてて驚いた(=コンピューターの製作画像でレンズを通していないのだから、本当は奥ピンもくそもないのだが)。一般ピープルにはどうでもいいところだろうが・・・気付いてやらんとスタッフに悪いぜ^^

 また本編中にはSF映画のオマージュやパロディが満載!冒頭の高層ゴミビル群のカメラワークは、どうみても「ブレードランナー」。勿論スピナーは飛ばない(笑)。母艦のワープ時は「スター・ウォーズ」だし、ロボットの主観映像は「ターミネーター」や「プレデター」。後半のコンピューターの人類への反乱は、音楽も内容もまんま「2001年宇宙の旅」だ(でマザー・コンピューターの声は「エイリアン」シリーズのシガニー・ウィーバー。吹き替えで観たらあかんで)♪加えてイヴの目的が「E.T.」と同じとか、ウォーリーのデザインが「ショート・サーキット」に似てるという指摘もあるが(=ヘッドは双眼鏡からの発案)・・・もしそうだとしたらシド・ミードにスタッフは一応仁義を切ったのだろうか(気になる)?

 中でも究極のオマージュ(パロディ?)が冒頭の約30分間。ウォーリーは多少の言葉は話せるのだが、イヴが現れるまでは現実音メインで、ほぼ台詞なし(ちなみにウォーリーが時折見る映画は「ハロー・ドーリー!」)。勿論、これはウォーリーの孤独感を際立たせるための演出なのだが、観客を飽きさせずに見せきる点がグー(BYエド・はるみ)!これは監督アンドリュー・スタントンが「サイレント映画への敬意」ということで、自身が大好きだと語るチャップリンの「街の灯」等を参考にしたそうだ。21世紀になっても、やはり喜劇王チャップリンは偉大ですな^^

 「それいっちゃお終い」というツッコミ部分も多々あることはある。ウォーリーはザク同様、量産型なのに何故数百年も一体だけ壊れずに稼動しているのか(合間合間に自分で修理していたようだが、それにしても基盤は何百年も持たないでしょう)?とかイヴはウォーリーより数百年後に開発された最新式なので反重力を利用して行動するが、母艦にはそんな科学者はいないし、その母艦自体(=この時代は太陽電池らしい)も数百年どうやって数万人分の食料を供給しているのか?まず船の外壁につかまったウォーリーは大気圏抜ける段階で燃え尽きてるとか・・・えとせとら、えとせとら・・・細かいことまで考えたら夜も眠れなくなる(笑)。「ターミネーター4」の世界観同様、あんまりつきつめてはいけません^^

 地球の環境が急速に悪化しているのは事実だし、人類が我が物顔で地上に君臨していることも事実。ラストも甘いっちゃ甘いんだけど「このまま怠惰な生活をしていたら地球も人類もダメになる」というテーマは非常に重要である。火山が噴火したり、巨大津波が発生して人類を心身ともに恐怖のどん底に陥れるパニック映画もいいんだけど、分かりやすくユーモアあふれる娯楽作として見せるこのアプローチはお子様に最適。情操教育の一環として早い時期に見せて<エコ心>を養わせるのもいいと思う。地球の未来は子供たちにかかっているのだから(余談ながら「トイ・ストーリー2」は「おもちゃを粗末に扱うことはやめましょう」という意味でも、これまた子供に見せたいね^^)

 
 <残念な追記>先日、手塚治虫の子供に見せられない数少ない作品としても知られる「MWームウー」の実写映画を観たんだけど・・・えらいマイルドな内容にされてたなぁ(苦笑)。手塚先生は主人公を「MWの影響で一片の良心すらなくした人間」として設定。殺人、誘拐、レイプなどの凶悪犯罪のほか同性愛まで<何でもあり>で描いたのだが、予想通りそこまでは映像化されなかった(残念)。そうじゃないと映像化する意味もないと思うのだが。ついでに書くと公開日にあわせて放送された「エピソード0」なるスペシャルドラマは、もろに「ソウ」シリーズの影響を受けた原作にはないオリジナルだった(苦笑)。