其の375:センス・オブ・ワンダー!「第9地区」

話題の社会派SF「第9地区」を観ました!いや〜、面白かった!!尋常じゃない超ハードスケジュールの中、無理矢理観に行った甲斐があったわ(帰りは雨に降られたけど)。「アバター」にがっくりきた映画上級者には、遥かにこちらが御薦め!筆者が燃えるパワードスーツも出るし^^。「アバター」で満足した人は(発売されたDVDの売れ行きは凄いらしいが)・・・どちらでもいいです(笑)。


 南アフリカヨハネスブルグ上空に突如現れた超巨大宇宙船。人類がコンタクトを計るとーそこには船の故障で弱り果て、長い航海で衰弱しきっている大勢のエイリアンたちの姿があった。そこで南アフリカ政府はエイリアンを保護するためUFOの真下に位置する「第9地区」に仮設住宅を作り、彼らを住まわせることとした。
 それから28年後ー。「第9地区」はスラムと化し、人類とのいざこざが絶えなくなっていた。そこで政府からエイリアンたちの管理を委託されたMNU社はヨハネスブルグから遠く離れた「第10地区」にエイリアンの強制移住を決定。「エイリアン課」所属のヴィカス(シャルト・コプリー)は現場責任者としてエイリアンたちに立ち退きの通達をし始めたものの、クリストファーと名乗るエイリアンの小屋で謎の黒い液体を浴びてしまう。すると彼の身体に異変が現れ・・・!?


 プロデューサーに名を連ねるピーター・ジャクソン(「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ)以外、無名のキャストと監督、低予算にも関わらず全米興行収入1億ドルを突破。アカデミー賞にも4部門にノミネートされたのが今作。エイリアン(→見た目から人類に“エビ”と蔑まれる)を“難民”に見立てた発想が素晴らしい。「ショーン・オブ・ザ・デッド」がゾンビ映画のニューウェイヴなら、「第9地区」は新たな宇宙人ものと言えるだろう。舞台が南アフリカだけに(今度ワールドカップも行われますな)ちょっと世界史知ってる人なら、この設定が「かつてのアパルトヘイトのメタファー」であることは容易に連想出来る筈だ。

 エイリアンたちは人類には扱えない超兵器の数々を持っているので、かつては高度な文明人だったと推察されるが(見た目は「プレデター」並に凄いビジュアル)28年経った今ではゴミは漁るわ、立ちションはするわ・・・まぁ、下品なこと下品なこと(宇宙人の立ちション、初めて観たわ)。そんなエイリアン相手に黒人ギャングは武器と食料(→エビたちは肉とキャットフードが大好物)を物々交換させて武装化するわ、MNUの連中も理由をつけて彼らを捕らえては遺伝子研究したり・・・と、どう贔屓目に見ても地球人の方が極悪に描かれているのもグー。横山光輝の「マーズ」じゃないけど、やっぱ人類は滅亡させた方がいい気もする(苦笑)。

 
 そもそも今作はピーター・ジャクソンが以前ゲームソフト「Halo」の実写映画化を企画中、CMや自主短編映画で注目されていたニール・ブロムカンプ(南アフリカ出身の1979年生まれ)に監督をオファーしたことが出発点。紆余曲折の結果、「Halo」の企画は頓挫。そこで2人はすぐさま<次の企画>としてブロムカンプが以前演出した短編映画を下敷きにして長編映画を製作することで合意。様々なアイデアを加えていったという。

 実際、今作には数々の映画の影響が見てとれる。合間合間に事件の関係者や実際のニュース映像を混ぜる<擬似ドキュメンタリー形式>はウディ・アレンも使っていたし、手持ち映像と素早いカッティングはマット・デイモン主演の「ボーン」3部作を彷彿させる。後半、地球に住むエイリアン・クリストファーと身体が“エビ化”しつつあるヴィカスがコンビを組む(!)展開は「エイリアン・ネイション」と酷似。冒頭に書いた<パワードスーツ>はマシンガンからミサイルまで飛び出すスーパー兵器なのだけど、デザイン含めてアニメ「超時空要塞マクロス」の主役メカ・ヴァルキリーに似ているなぁ・・・と思っていたら、なんとミサイルの動きなどはブロムカンプが「マクロス」を参考にしたんだって(やっぱり〜)!!日本製アニメはやっぱ凄いね^^。

 意表を突く設定に、予想不可能なストーリー展開(ラストもまさか、ああなるとは・・・)。全くダレずに進行する至福の111分!今作の大ヒットのおかげで一躍メジャーになったブロムカンプは次回作もSFを撮るそうだし(続編「第10地区」の企画も)、最初は平凡でちょっとドジな男ながら、みるみる面構えからしてもヒーロー然となってゆくヴィカスを演じたシャルト・コプリー(→ブロムカンプの友人で、本当は製作者サイドの人!でも演技力は文句なし)は、その熱演が認められてジョー・カーナハン待望の新作「特攻野郎Aチーム THE MOVIE」に<俳優>としてキャスティングされたんだって。空虚な大作や安易な続編とリメイクが劇場の大半を占める昨今、映画監督志望の筆者としては低予算&ノースターでも面白いオリジナル作が作れることを若いニール・ブロムカンプに改めて教えていただきました^^。