<其の778>プログラム・ピクチャーの味わい・・・「とんかつ大将」

 7月も末、猛暑真っ盛りですが・・・国内のコロナ第7波は、とんでもない数字に!東京は遂に1日で4万人の感染よ!!!いつになったら、ピークアウトする事やら・・・(とほほ)。

 

 当ブログでちょいちょい取り上げている川島雄三作品。この方、最初は松竹で働いていて、後にあちこちで撮るようになるんですね。傑作、秀作といわれるものは松竹以降の作品が圧倒的多数なのですが、松竹時代の「とんかつ大将」(’52)はいいぞ!!話はベタだし、メロドラマ調だけど・・・観終わっていい気分になれる作品^^。面白い映画、いい映画って・・・可能ならずっと観続けていたいじゃない。筆者にとっては、そんな作品の1本(川島晩年の作「喜劇 とんかつ一代」とは無関係)。とんかつに焦点を当てた<グルメ映画>ではありません(笑)。主人公がとんかつを食べる場面は1回しかないし(笑)。

 

 戦後、しばらくしての東京・下町ー。荒木(=佐野周二)は長屋暮らしと、とんかつを愛する青年医師。無報酬で診療にあたる人格者でもあった事から、長屋の人達には「とんかつ大将」の渾名で慕われていた。そんなある日、近くの病院が増築の為、長屋を取り壊すことを画策している事を知る。皆の窮地を打開すべく、荒木は病院サイドへ交渉にむかうのだが・・・!?

 

 原作は「姿三四郎」で知られる富田常雄(書くまでもないが「姿三四郎」は黒澤明が映画化している)。11のエピソードで構成された小説を川島自らが脚色。原作にはない病院増築のエピソードをメインに、オリジナルのストーリーを構築した。監督助手で、あの野村芳太郎も参加している。

 ホント、話に目新しさはないんだけど、主人公の知られざる過去や彼に想いを寄せる女性達(津島恵子、角梨枝子ほか)に、個性の強い長屋の住人たち(←後の「貸間あり」に通ずるとこがあるね)が絡んできてテンポよく進む演出はさすがの川島。ただ、この住人たちも単なる“いい人達”ではなく、病院サイドから金を貰うと一転、立ち退き反対の立場を豹変させる等、川島は人間の醜悪な部分もきっちり描く。女性同士の口喧嘩シーンで、いきなりカメラがクレーンアップした演出にはちょっと驚いた。これがホントの「高みの見物」ってか!?(笑)

 主演の佐野周二も正義感の主人公を好演。彼は川島の処女作「還って来た男」(’44)から組んでるし、後に「七人の侍」にも出た津島恵子も川島とは前から仕事してるから、旧知の俳優達と割とのびのび撮影したのではなかろうか。主人公と同居している吟月役の三井弘次が川島作品らしいキャラでいい味出してる^^。

 ネタバレするので詳しくは書けないけど・・・クライマックスの●●シーンは低予算ながら(←筆者の推測)、巧く演出していると思った。さすがに全体を見せる広い映像はないけど(笑)、うまく編集して緊張感を盛り上げている。長屋のセットといい、美術さんも頑張ってる。こういうシーンこそ小説や漫画では表現仕切れぬ、映画ならではの独壇場だわさ^^。

 

 故・井上ひさし氏は生前、某映画本にて今作を学生時代に観て角梨枝子に憧れ、映画館に通ったと書いている。その上で「これをもう一度観られるなら、たいていのことはするのだが」と締めくくっていた。筆者は円盤での視聴だったが・・・井上さんは今作を再見する事は出来たのだろうか(気になる)??