其の292:たけし版エド・ウッド「アキレスと亀」

 もう幾度か書いたことで恐縮だが、筆者はビートたけしの大ファンであり、彼が本名で発表している一連の映画も全て劇場でリアルタイムで観ている。よって、週に2回も完徹する超ハードな番組をやりながらも新作「アキレスと亀」を観に行った。我ながら・・・よ〜体力あるなぁ(笑)。


 物語は3部構成になっている。
 <少年時代>地方の実業家のひとり息子・倉持真知寿(まちす)は絵を描くことが好きな内気な少年。そんな彼は絵画好きの父の影響、そして周囲のお世辞によって画家の道を志すようになる。ところが父の会社が倒産!おまけに両親が相次いで自殺し、その後は一昔前の「大映ドラマ」か石井隆の映画のように不幸の道を一直線につき進む。
 <青年時代>画商のアドバイスを受けて、働きながら美術学校へ通うようになった真知寿(たけし軍団のユーレイくん)は仲間と共にアートの道を探求する日々。そんな中、バイト先の女性・幸子(麻生久美子)が真知寿の作品に興味を示し、2人はいつしか恋仲となるー。
 <そして・・・現在>中年になった真知寿(もち、たけしさんよ)だったが絵は未だに売れない。妻となった幸子(樋口可南子)は昼間は工場で働き、夜は夫の創作の手伝いに明け暮れていた。学生ながら生活のために働きに出されている娘は、そんな両親を冷ややかな目で見ている。画商のアドバイスもあって、次第に2人の創作活動はエスカレートしていくのだが・・・。

 
 今作を一言で説明するならタイトルにも書いたように、たけし版「エド・ウッド」。映画「エド・ウッド」は、実在したアメリカの映画監督エドワード・ウッド・ジュニアの半生を描いたもので映画に対する情熱だけは人一倍あったが、才能が全くなかった男の話(笑)。「映画監督」を「画家」に入れ替えると、図式は全く同じだ(=男を支える従順な妻がいる点も同)。とは言っても、たけしさんが「エド・ウッド」をパクったという事では決してなく「書いた絵がたまったんで何かに使いたいと思って考えた」そうだ^^。それに加えて自分がMCをしている某テレビ番組の影響もあるのではないか、と筆者はひそかに睨んでいる(笑)。


 北野作品の系統で考えると「キッズ・リターン」や「菊次郎の夏」に連なるハートフル路線(得意の暴力シーンはちょこっとあり)。それにしても映画監督として・・・本当にうまくなったなぁ、と今作を観て感心した。独特の構図(例:横一列に並ぶ人々)やキタノ・ブルーと称された色彩(一応、少年時代はセピア調、青年時代はブルーとちょこっと色はいじっているものの)は鳴りを潜め、その分非常に洗練されたカメラワークが随所に登場!監督としての成長を感じさせてくれました。冒頭にアニメが使われたのもびっくりした!


 いま公開中の作品なので、内容の詳細は最低限にしようと思いますが・・・大半の人は幼いとき、なんらかの夢を持ってはいるものの、やがて勝手にその夢に見切りをつけ<現実>に妥協し、やがて埋没していく(勿論、中には極貧生活を味わいながらも夢をつかむ人たちもいるが、それでも第一線で長く活動を続けられる人はほんの一握り。才能に加えて運も絶対に欠かせない要素だろう)。
 主人公・真知寿(にしてもわかりやすいベタな名前)は、そんな我々が<もし夢を諦めずに続けたとしたら?>の<if>を見せてくれているような気がした。「もし、あのまま音楽を続けていたら?」、「もし、諦めずに俳優を目指していたら?」・・・誰もが一度は過去を振り返って考えることではないだろうか。
 今回、たけしさんは今作について様々な雑誌で語っているが、彼は「主人公は酷い奴」、「ろくでなし」と言っているので、筆者が上記に書いたようなことは、ほとんど意識していないとは思うけど(苦笑)。
 ちなみに筆者の知り合いには夢破れて業界入りした人がかなりいる。テレビディレクターって・・・本当はその程度の職業レベルなのかもしれない(苦笑)。但し、夢破れて業界入りした知り合いに映像のセンスのある奴は・・・残念ながらほとんどいない(爆笑:でも本当)!


 初期の北野作品はあまり有名俳優は起用しなかったのだが(=ブレイク前の佐野史郎やトヨエツも出てる)作品を重ねるごとに豪華キャストになってきた(笑)。
 今作でも荒筋に書いた樋口可南子(=「明日の記憶」とほとんど同じ役。但し、現場では監督があまりにも何も言ってくれないので不安だったそうな)、麻生久美子のほか中尾彬伊武雅刀ビートきよしボビー・オロゴン電撃ネットワークまで出演(勿論、常連組や「たけし軍団」の面々も)!以前の作品に出た人たちもちょい役ながら大勢出てくるので、そこらへんも全作観てるとついニンマリ。


 小泉元総理のように「感動した!」というのはないけれど、ラストにじんわりとくる「いい映画」^^。評論家受けは良かったものの、ちと難解だったゴダール・テイストの前々作「TAKESHI’S」やフェリーニの「8 2/1」を彷彿させる前作「監督・ばんざい!」よりも分かりやすいので評価は上々。たけしさんの想像以上にお客さんは入るだろうから、事務所の経営も上向いてくるのではないでしょうか(笑)。


 <追記①>ドイツ映画「善き人のためのソナタ」も、最後にじんわりくる「いい映画」。筆者は泣かなかったけれど^^
 <追記②>先日、「やる気まんまん」を観た。低予算ゆえ出来もそれなりだが、この原作漫画(エロ)を実写でやったその心意気は「買い」だ。
 <追記③>「パイレーツ・オブ・カリビアン」の第4作目の製作が決定したそうで(公開は3年後を予定)。勿論、主人公は海賊ジャック・スパロウだが・・・ジョニー・デップにはその前に製作予定の「不思議の国のアリス」(監督は盟友ティム・バートン)に個人的に期待してる^^