其の325:ヒーローの光と影「ウォッチメン」

 筆者の昨年のベスト1だった「ダークナイト」は日本では大コケ(想定内だけど)。ところが「映画秘宝」のベスト1は勿論、映画館主が選ぶ2008年度の第1位ほか「ダークナイト」は<玄人筋>では高く評価された。観るべき人が観れば「ダークナイト」の価値は分かるのさ♪で、今回紹介する「ウォッチメン」(勿論、原作はアメコミ)も劇場はガラガラ(笑:これも想定内。日本じゃ知名度低いし)!でもね、これは「ダークナイト」を遥かに越えるハードな内容を要した作品。多々、問題もあるが・・・食わず嫌いは損するよ^^

 そもそも「アメリカンコミック」といえば日本の漫画とは様々な面で異なっている。基本は全て「オールカラー」で描かれ、人気がある限り漫画家が変わっても延々連載は続くし(TVドラマも同)、「スーパーマン」や「バットマン」、「スパイダーマン」、「アイアンマン」ほかヒーロー漫画が<主流>ではあります(=この辺りは「コミックは子供が読むもの」という考え方や国の歴史が浅いことも起因するものと思われる)。勿論、近年では多種多様な作品が書かれていますが・・・さすがに日本にはまだ追いついていないね。これも手塚治虫のおかげだろう^^

 英国人漫画原作者アラン・ムーアが86年に発表した「ウォッチメン」は「X−MEN」同様、複数のヒーローが登場する「ヒーローもの」ながら、そのテイストは一味も二味も異なる。ちなみにムーア作品はこれまで「フロム・ヘル」や「リーグ・オブ・レジェンド/時空を超えた戦い」、「Vフォー・ヴェンデッタ」が映画化されている(生憎、ほとんど凡作だったが)。今作は「ifの歴史で綴られた1985年」が舞台で(日本の「架空戦記もの」みたいなもの)「アメコミを変えた!」と高く評価され、ヒューゴー賞グラフィック・ノヴェル部門に輝いている。

 その昔「自警団」に端を発した男女6人からなるヒーロー集団(=「バットマン」同様、大半の人はコスプレした普通の人)はアメリカの歴史に深〜く関与していて(=「ケネディ暗殺」もヒーローの仕業!)かのニクソンが「ウォーターゲート事件」もなく、まんま大統領として活動。ベトナム戦争アメリカ勝利(!)で終結した1985年。東西冷戦は真っ只中で核戦争の恐怖が世界に蔓延していたものの(=ジェームズ・キャメロンは核の脅威を感じて「ターミネーター」を考えた)この時にはヒーローの活動を禁止した法律もあって大半のヒーローが(年も食ったし)引退している状態。「Mr.インクレディブル」もそうだけど、日本と違ってヒーローが引退するって発想が面白いね^^
 そんなある日、かつてヒーローとして活躍していた通称「コメディアン」が何者かによって殺害された。ひとり法律をバックれて裏で暗躍していた覆面ヒーロー「ロールシャッハ」は「これは<ヒーロー狩り>ではないか!?」と推理、かつての仲間たちを訪ねてまわるが・・・果たして、事件の真相は?そして、その犯人は!?

 この「ヒーロー」たちがー日本のヒーローものと違ってー異様に人間くさい。結婚しているのに内輪でヤっちゃったり、妊娠して結婚を迫られた現地妻を射殺したり(こらこら)、古女房から若い恋人に乗り換えたり(苦笑)。近年放送されてる「仮面ライダー」も聞くところによると、かなり複雑かつリアルな設定らしいが、ここまでじゃあないだろう。単なる正義の味方、善人ではないヒーローたちが殺されていく・・・って凄いアイデア
 ただ例外的にヒーローのひとりで全身「ブルーマン」状態の「Dr.マンハッタン(=どう見ても「マンハッタン計画」に起因する<原爆>、引いては<核の象徴>)」だけは「スパイダーマン3」の「サンドマン」同様、放射線事故の影響でテレポート(瞬間移動)出来るわ、惑星をも破壊するパワーを有し、政府に依頼されてアメリカ全土を守護している「大アメリカ人」。この人、原作でもほぼ真っ裸なんだけど、映画はCGで描かれているせいか日本でも修正されずまんまフルチン(爆笑)!!スケベな婦女子はCGでもよければ彼の股間に注目よん(作り物なのに「ブギーナイツ」はボカシかかってたけど。おかしいぞ、映倫)♪

 監督はフランク・ミラー原作の漫画「300」をまんま映像化したコミック大好きザック・スナイダー(=テリー・ギリアムほか多くの監督が今作の企画に携わっては頓挫していた)。「300」のバイオレンス描写は「大合成CG大会」ではありながら凄まじいものがあったが、今作では「エロ」+「バイオレンス」+「政治」に加えて「哲学」まで網羅した原作コミックをまたまた完コピしてます(=「20世紀少年」で堤幸彦は彼の演出方法を模倣したのかも??)。「撮り方だけじゃなくて、街角に貼られたポスターや食べ物のパッケージまで全て原作通りにしたんだ」とは本人の弁。妙な脚色をせず、ほぼ原作に忠実に製作したのは素晴らしいの一言(=ラストは変更しているけど)!

 ただ・・・冒頭にも前フリしておいたが、まず原作は素晴らしいものの日本では知名度が低いし、あまり感情移入できるキャラクターが出てこない。おまけに俳優陣も余り有名な人出てないし(=スナイダー曰く「制作費はほとんどセットとSFXに使われて、俳優は大スターには頼めなかった」)。時代設定が「80年代の冷戦下」というのも、ソ連が崩壊して久しい現在ではちと古い(劇中の「アフガン侵攻」もとっくに撤退してるし)。おまけに「粗筋」で書いたように「ミステリー」だけならいざ知らず、いろんなヒーローたちの方にも描写が飛ぶんで話が複雑&長尺(3時間近い)!多少は筋をはしょった方がスッキリして分かりやすくなった気もしないではない。「ヒーローもの」ながら爽快感もないし。ただ久々に映画館で「●●●シーン」が見られたのは音響の迫力もあって良かったな〜(注:エロシーンじゃないよ)。

 劇場で観て・・・とは言いません。DVDになったらでいいので、その重厚なテーマ&細かなディティールを確認して欲しいと思います。原作&今回の映画化で相当「ヒーローもの」のハードルは上がったと思う。今作を上回る設定を考えるのは・・・かなり難しいぞ〜!筆者的には昔ながらの単純なヒーローものもあっていいとは思うけどね。敵が「世界征服を目指す悪の秘密結社」とかさ(笑)。