其の326:桃色暴力時代劇「不良姉御伝 猪の鹿お蝶」

 これまで度々紹介してきた70年代の東映ポルノ活劇(通称「東映ピンキー・バイオレンス」)。この消滅したジャンルを後世に残すために筆者は書いているわけだが、今回紹介するのは一部で再評価されている(ごく狭い範囲だけど:苦笑)鈴木則文監督作「不良姉御伝 猪の鹿お蝶」(’73)。主演は巨乳ポルノ女優のパイオニア池玲子。共演には本場スエーデンから招聘したクリスチナ・リンドバーグ!!
 一般的に鈴木監督の代表作といえば「トラック野郎」シリーズとなる訳だが、今作以前にもすでに「温泉みみず芸者」(’71)や「おっぱいバレー」よりもタイトルがどストレートな「徳川セックス禁止令 色情大名」(’72)ほかを演出している。近年の温室で育てられた無菌の食物のような日本映画と違う荒々しいパワーがこの作品にはある!!


 時は明治。葛西杏子は3歳の時、ある陰謀によって目の前で父を殺される。父は息絶える寸前、ダイイングメッセージとして「猪・鹿・蝶」の3枚の花札を握っていた・・・。20年後、成長した杏子は元スリにして女博徒の「猪の鹿お蝶」と名乗り犯人一味を探していた(=無論、演じるのは池玲子)。そんなある日、お蝶は政界の大物・黒川の命を狙って追われていた壮士・柊修之助(成瀬正孝)と知り合う。ひょんなことから頼まれ事を請け負ったお蝶は大手土建会社の社長・岩倉(名和宏)と博打対決をすることに。岩倉は自分の代打ちとして西洋一の女ギャンブラー・クリスチーナ(=役名まんまのクリスチナ・リンドバーグ)と勝負をすることに。このクリスチーナ、実は英国から送られたスパイにして柊の元恋人でもあった。父の復讐を誓うお蝶、柊、そしてクリスチナ3人の運命が加速するー!

 ヒロインの父の仇探し(=と言いつつ、意外にあっさり犯人3人判明)&復讐に加えて、日本人壮士と英国人女スパイの恋愛に国家的陰謀まで加わるなかなか凝ったストーリー。ちょっとシリアスに話が進むと、すぐおっぱいかセックス、そして壮士達による殴り込み(バトルシーン)が挿入される飽きのこない展開は流石である^^。「女の裸とアクションシーン(=「子連れ狼」のように腕チョンパあり)」という男性客を取り込む必要な条件に加えて、「反体制・反権力」といった内容まで盛り込んでいるところが他の作品と一線を画している(後年、鈴木は「当時の学生運動の影響もあった」とコメント)。

 主演の池玲子杉本美樹と共に70年代の「東映ポルノ作品」を牽引した2大女優のひとり。彼女について詳しく知りたい人は自分で調べてほしいが・・・いまとなっては80年代は生きられなったであろう、70年代ならではの女性だったような気がする。そんな彼女、今作では全裸で華麗な立ち回りを披露(=勿論、アンダーヘアは見えないよ)!終盤では身体を紐や鎖で巻かれ壮絶なリンチを受けるわ(何故かクリスチナがカウガールの衣装で鞭打ち:笑)クライマックスでは全身に返り血を浴びて真っ赤になりながらの大熱演。平成の現在、おっぱいも出しつつ日本刀振り回せる女優が日本にどれだけいることか?
 作中の「復讐&リンチ」は当時流行したマカロニ・ウエスタンの影響だろう。マカロニに加えて筆者は石井隆の諸作品も連想してしまった(大半のヒロインがレイプされたり、拷問を受ける)。映画青年だった石井も大なり小なり影響されたのではないか・・・と勝手に推察しているが。

 池の脇を固めるのは惜しまれつつ亡くなった殿山泰司のほか遠藤辰雄名和宏、成瀬正孝に大泉滉というピンキー・バイオレンス御馴染みのメンバー(笑)。以前、東映はポルノの本場スエーデンからサンドラ・ジュリアンを呼んで出演させたが、今回はクリスチナ・リンドバーグ。男優陣達は後年「サンドラの方がよかった」と述懐しているが、筆者的にもサンドラの方が良かった(こらこら:苦笑)。サンドラにしてもクリスチナにしても、いまの若いコは知らんだろうけど(苦笑)。

 東映制作だけにビッグ・バジェットでうま〜く明治の東京を再現(少々、室内のセットくささはご愛嬌)。これも当時、安価&ノー・スターで多大なる儲けを出していたポルノ制作プロダクションとはひと味違うところ。タイトルバック(&キャスト、スタッフクレジット)も「猪の鹿お蝶」だけに<花札>をコラージュした凝ったもの。鈴木自身も後年、今作は自信作であり(「うまく耽美的に撮れた」のがその理由)「タイトルバックから凝ってて市川崑にも負けてないよ(笑)!」と語っている(「東映ピンキー・バイオレンス浪漫アルバム」徳間書店刊より)。

 
 幸い、今作のほか東映ピンキー・バイオレンスの諸作品はDVDも出るようになったし、一昔前と違って手軽に観られるようになって嬉しい(TV、特に地上波では死んでも放送無理)^^。いつも書くことだが「食わず嫌い」は損をすると思うので是非一度ご覧あれ。但し、彼女や妻子がいる人は絶対にひとりで観ること!!ドン引きされることは間違いない(笑)。

 <執筆後記>また近いうちにピンキー・バイオレンス取り上げます!筆者の映画探求の日々はまだまだ続くのであったー。