其の323:史実と虚構と。

 トム・クルーズ主演の映画「ワルキューレ」を観た。実際にドイツ国内で起こったヒトラー暗殺未遂事件の顛末を描いた実話の映画化。当然、<オチ>は分かりきっているので、いかに話を盛り上げていくかが監督の腕の見せ所だが・・・「ゴールデンボーイ」&「X−MEN」シリーズでナチスをあつかってきたブライアン・シンガーではあったが、少々重厚さが足りなかった(残念)。
 上映時間の2時間は飽きずに観ることが出来るのだが、ヒトラー暗殺を決意する主人公のバックボーン(=数百年も続いていた名門貴族の出で、幼少時代から「貴族は国に奉仕するもの」と教育されてきた。それゆえホロコーストや日に日にわけわからんこと言い出して各前線で敗北を重ねるヒトラーではドイツの行く末が危ういと思案した)が描かれていないので感情移入しにくいし、怪我して「ワルキューレ作戦」を利用することを思いついた後はサクッと作戦を開始した感じ。失敗すれば当人は勿論のこと一族郎党皆殺しにされるのは明らかだから、家族との葛藤もあっただろう。あと10分、15分長くてもいいからその辺りも描いて欲しかった。
 また、セットした爆弾が爆発するまで約10分少々しかないわけだから(自分の逃げる時間込み)、例えば関与している人物たちのハラハラしている様子をカットバックで畳み掛けていくとかすれば、もっとサスペンス感も盛り上がった気がしてならない。
 でも、来日したトム本人も「この企画に参加するまで、こんな事件があったとは知らなかった」とコメントしていたがこの映画の意義はその一言に尽きると思う。要は「知られざる歴史の側面に光を当てる」。これまでナチはいろんな映画で史上最凶残虐変態エロ集団として描かれることが多かったけど(「ナチなら何でもやる」みたいな)「当時のドイツ国内にもこういう人たちがいたんだ!」という事実を広く世の中に知らしめたことだけでも製作した価値は十分にあると思う。
 製作準備中にはドイツ本国でも物議を醸し(ちなみに現在のドイツでは例の「ハイル、ヒットラー!」で御馴染みナチス式敬礼を公衆の面前でやると逮捕される。実際にはネオナチや隠れナチ信奉者も多いらしいが)撮影前から色々とタブロイド紙をにぎわせていたけれど、苦労の甲斐もあって興味深い映画になったのでは。これこそ「学校では教えてくれないこと」。筆者も「傑作!」とか誉めないけど(笑)製作意義の高い作品だと思う。若い人には是非観てほしいと思うね。


 生憎我が国では、昨今そういった「知られざる歴史に側面を当てた」映画が作られることが少ないので嘆かわしいけれど、悪い表現を使えば「所詮、映画は嘘」である。例え史実の映画化でも100%脚色していない作品は人に観せて代価を得る商業娯楽作である限りはありえないし(一部ドキュメンタリー除く)、虚構であっても「これは現実ですよ〜」という風に撮っているのが「映画」。観客はそんな「作られた嘘」を前提として映画館に行くわけ。ゴジラが本当にいて国会議事堂壊したとか信じてる人いないでしょ(笑)。
 ベストセラー小説を映画にした「リアル鬼ごっこ」は、そういった意味では映画の王道中の王道!「国王制となっている別次元の日本で、一番多い「佐藤姓」の人を政府が派遣した<鬼(=勿論、仮面を着けてる人間)>が狩りにくるんで逃げ回る(だから「リアル鬼ごっこ」)」というお話。これぞ映画という大嘘の極み^^山ほど作られている「お涙頂戴難病もの」より遥かに「映画」らしい。日本人なら誰もが遊んだことのある「鬼ごっこ」を題材に、こんな思いつきそうで思いつかない設定を考え付いた原作小説は素晴らしいね!これだけでも賞賛に値する(映画はちょっと高見広春の「バトル・ロワイアル」や藤子・F・不二雄先生のSF短編集のテイスト入ってる)。
 タイトル通り主人公たち(勿論、名字は「佐藤」)が全編に渡って逃げまくり、走りまくる。全編「走る」映画と言っても過言ではない(同じく走りまくる「奈緒子」は「駅伝」)。月9「太陽と海の教室」や映画で「おろち」演った谷村美月も走りまくりつつ1人2役(いや3役?)を演じわけ、柄本明に乳さわられながらも頑張ってたし(笑:本当)。
 でも・・・設定のスケールに反して(すまん。原作読んでない。でも原作と大分違うそうな)かなりの低予算!出てくるTV局の人間は何故かロケから中継、サブ(副調整室)に至るまで同じ少数のメンバーで回してて(ありえない)プロデューサーらしき人いないし、鉄火面つけた謎の国王(=グラディエーターまんまの衣装も謎だが)の王宮にも、護衛とかほとんど人いない(苦笑)。もう少し監督(すまん。聞いたことない人)にエキストラと美術の予算をあげれば良かったのに!
 バジェット的には「ワルキューレ」に遠く及ばないけど、でもやっぱり設定が面白いから飽きずに観られる。真の<佐藤狩り>の目的や国王の正体も次第に明らかにされていくミステリー性もある(でも国王の正体は観てれば途中で分かるけどさ^^)。「邦画は難病ものと携帯小説が原作のエグい恋愛映画ばっかりで面白くない!」とお嘆きのアナタに御薦めの1作です。尺も2時間ないから観易くていいぞ。


 <追記>寸暇を惜しんで映画は観てるもののリサーチ&構成を考える時間がないので、いつもとは異なる形式で書いてみました。内容が物足りないと思った方は是非お調べ下さい(=それも映画の効用のひとつ、というのが筆者の自説でもある)^^。マジで今月はちょっと・・・忙し過ぎた(疲)!!若者言葉で書くと「ヤバイぐらいガチ働いた」(爆笑)!