其の316:フルチの異色マカロニ「荒野の処刑」

 三谷幸喜監督の第4作「ザ・マジックアワー」を観賞。ギャングもの(&日活無国籍アクション)をベースにしたコメディーですが・・・佐藤浩市西田敏行の名演技に笑わせていただきました^^演出も前作「THE有頂天ホテル」より遥かにうまくなっていたと思う。
 リアリティーは設定からして0ですが、大部屋俳優から裏方さんにまで至る「映画愛」がブレンドされていたのは良かった(市川崑監督が本人役で生前最後の姿もみせる)。惜しいのは(ファンの方には大変申し訳ないけど)妻夫木聡深津絵理がミスキャスト!妻夫木くんの役はもっと「男前だけど、金も力もないベタな優男」でないとダメだし、深津さんの役はファム・ファタールとしてもっと「色気」がないと・・・ね。
 どの作品もちょっとビリー・ワイルダーっぽい三谷作品ではあるのだが、今後は期待しようと思う。


 ストーリー的に展開が分かり易い「ザ・マジックアワー」と異なり、意外な展開が続き困惑させられるのが「荒野の処刑」(’75)!のちに「イタリアン・ホラーの帝王」と呼ばれる故ルチオ・フルチ監督の初期作品だ。勿論、タイトルからしマカロニウエスタンの1本であることは賢明な読者諸氏ならお分かりだろう^^

 物語はひょんなことから知り合ったギャンブラー(=どう見てもイタリア人のファビオ・テスティ)にアル中男(=「俺たちに明日はない」のマイケル・J・ポラード)、妊娠中の娼婦(のちにピーター・セラーズと結婚するリン・フレデリック)と黒人男性の4人がある街を目指して旅していると、そこに謎の凄腕ハンター・チャコ(=トーマス・ミリアン!!)が強引に乱入。無理矢理、一行に加わる。この男の出現が4人の行く末を大きく狂わせてゆくこととなる・・・!さて4人の運命は!?

 この映画、非常にストーリーが書きづらい!ロードムービーの体裁をとっているのだが・・・あれこれ書くとすぐネタバレしてしまう(困)。差し支えない範囲で書くならば、本性を露わにしたチャコはある日ギャンブラーや黒人を縛り上げた後、妊娠中の娼婦をレイプした挙句、馬そのほか一切がっさい奪って逃亡。よってギャンブラー達は<復讐>を誓い、いつものマカロニ・テイストになるかと思いきや(=金と復讐がマカロニの主題の多くを占める)・・・ストレートにそうはならない(苦笑)。映画紹介泣かせの1作である。

 監督のルチオ・フルチ(1927〜96)は’59年に監督デビューしてからしばらくの間喜劇や歌謡映画を手掛けていたものの<マカロニウエスタン>ブームが到来するとフランコ・ネロ主演で「真昼の用心棒」(’66)を演出、頭角を現す。70年代にはホラー映画ブームにのって「サンゲリア」(’79)を監督して大当たり!以降「ビヨンド」、「地獄の門」(共に’80)ほかグロ&ゴア(人体破壊)描写&難解な映画を撮り続けた(=残念ながら、そのほとんどが日本未公開)。今作「荒野の処刑」は自身2本目のマカロニということで(ブームも終焉を迎えようとしていたし)変わった作品にしたかったんだろうね、きっと(笑)。

 そもそも主人公がギャンブラーゆえ銃も持ってないというのは意表を突いているし(=普通はガンマン:ちなみに「ガンマン大連合」、「JFK」で知られるトーマス・ミリアンはアイヌの民族衣装のような扮装で登場、パッと見彼だとわからない!そんな衣装やメイクは本人の発案だそうで)、合間合間に西部劇にはまずありえないメロウで叙情的な楽曲が流れてくる(当初は仮でボブ・ディランの「天国の扉」をあてていたそうな)。知らない人が途中から観たら、おそらく「青春映画」だと間違えそう。で、いきなりの「人食シーン」で驚き倍増と(笑:本当です)。フルチ(フルチンではない)の傾向が今作にも出てますわ。

 但し、チャコが(唐突に)仲間4人にイニシエーション(?)を施すシーンは夜に撮ったカットと昼間に撮ったカットが混在しているから正直<つながってない>し、娼婦が陣痛を訴えて近くの街へ向かうと、そこは「大雪」!!すぐそこが砂漠だったのに地理上ありえないだろう。その辺りのミス(狙い?)は・・・痛いねぇ。あとレオーネの真似かどうかは定かではないが、人物のアップがひたすら続くのも如何なものかと。「もう少しサイズ変えようよ」って筆者なら現場で言うね!
 タイトルバック後の銃撃戦は大量出血だけど、その後はドンパチが・・・ハッキリ言って少なめ。そちら目的で観る人は物足りないかもしれない(娼婦の乳見せはあるよ♪)。DVDのジャケットの文面を素直に信じないように!

 多々欠点もありますがルチオ・フルチを語る上では、そのルーツが観られる見逃し厳禁の初期作品の1本だろう。「異色作」あるいは「怪作」の名にふさわしいマカロニウエスタンだ。・・・とはいってもフルチの作品はその大半が怪作だとも思うけどね(苦笑)!