其の345:やっぱりコルブッチ「さすらいのガンマン」

 先日の衆院選で自●党に対し大いに溜飲を下げたが・・・依然ストレスの多い世の中である。そんな「ストレス社会」の一服の清涼剤・・・それが「マカロニウエスタン」!やっぱりストレス発散にはドンパチが1番(笑)。
 中でも筆者贔屓の知る人ぞ知るイタリアの職人監督セルジオ・コルブッチの「さすらいのガンマン」はいいね!「続 荒野の用心棒(原題「ジャンゴ」。三池崇史の失敗作「スキヤキウエスタン ジャンゴ」のルーツ)」で知られるコルブッチだがアクション、アクションの連続で観ていてあきませんぜ^^。


 西部開拓時代末期、凶悪犯ダンカン一味(たけし軍団ではない)によって集落を襲われ、妻や仲間を皆殺しにされたナバホ族のジョーは彼への復讐を誓う。そんなある日、街で元刑務所仲間にそそのかされたダンカンは現金50万ドルを積んだ列車強盗に成功するものの、ナバホ・ジョーによって機関車ごと金を奪還される。怒り狂った彼は街の人々を人質にしてジョーに迫るのだが・・・!?


 マカロニでは数少ない<先住民問題>を取り上げている「さすらいのガンマン」。なんと、主人公<ナバホ・ジョー(=今作の原題)>を演じるのは70年代、数々のアクション映画に主演した若き日のバート・レイノルズ(驚)!製作総指揮のディノ・デ・ラウレンティスのお眼鏡にかかって、クリント・イーストウッド同様「アメリカからの出稼ぎ組」になったおひとり(ちなみにイーストウッドとレイノルズはスタジオから「将来性がない」との理由で解雇された経験あり。スタートは一緒だけど、今じゃ大分差が開いたね)。レイノルズ自身がチェロキー族の血が入っているということで、起用されたのかもしれない。イタリア人の目から見れば、干されててギャラも安そうだと思ったかも(笑)。若いし、動きもいいし、後の大活躍の片鱗が今作からも窺える。ジョン・トラボルタが「パルプ・フィクション」で完全復活したように、レイノルズが「ブギーナイツ」で完全復活できなかったのは個人的には残念。


 対する悪党ダンカンにはスペイン人俳優アルド・サンブレル(ちょっとジョン・マルコヴィッチ似)。このお方、いろんなマカロニに多々出演されてます。基本、マカロニの野外シーンはスペインロケなので現地調達(=安い)ってやつかも(笑)。このダンカン、不幸な生い立ちではあるものの(詳しく知りたい人は映画を見てね)牧師のほか女もバンバン平気で撃ち殺す真の外道!アメリカ・インディアンを襲って「逆皮剥ぎ(1枚1ドル)」で生計を立てているという物凄い設定(「白人=悪、先住民=善」の図式は「ソルジャー・ブルー」より製作年早し)。本場のアメリカ西部劇じゃ絶対出せないキャラクターだ。
 ・・・ところがねぇ、今作のポスター(DVDのジャケット含む)、主人公より、このダンカンの方が扱いがデカいんで、一瞬こいつが主人公だと思ってしまう(苦笑)。本来は「復讐のイン●ィアン」が内容を的確に表した邦題だと思うんだけど、この当時は配給会社によってA社は「〜のガンマン」、B社は「〜の用心棒」とか使い分けしていたから(本当)従来のパターンにならった結果、ダンカンの顔写真を大きくしたんだろうね。イン●ィアン大きくしたら「ガンマン」じゃないし(爆笑)!


 コルブッチの演出は今作も快調!このお方、マカロニの基本要素(→金、復讐、暴力、拷問)はキチンと押えつつ、後の作品同様、主人公を「先住民」にした<得意のひねり>を加えている(→コルブッチ作品の主人公は目が見えないとか口がきけないとか、変わった設定が多い)。クライマックス前、ジョーが街の人々を助ける条件として、報酬に加えシェリフのバッジを要求した際「アメリカ人以外は保安官になれない」と言われ「お前の祖父はどこの出身だ?俺の先祖は代々ここで生まれてきたし、俺もそうだ。俺がアメリカ人だ」と言い返す(筆者一部意訳)。これは移民の子孫であるアメリカ人には耳の痛い台詞だろう(欧米人ならではのアメリカ視点)。


 勿論、社会派要素だけではなくドンパチも爆発もこれまで通りふんだんにあるし、ラストは・・・<意外なパターン>で決着がつく。こういう<ひねり>がコルブッチのコルブッチたる所以であり、作品毎に本場アメリカ映画に近づいていったセルジオ・レオーネとは違うところ(機関車が出るのはレオーネの最高傑作「ウエスタン」より早い)。但し、この決着(ぶっちゃけ残酷)のつけかたに撮影中、レイノルズは眉をしかめたそうだが、コルブッチは「いいんだよ。これがイタリア西部劇なのさ♪」と説明したとか(笑)。


 マカロニウエスタンに「燃える音楽」は必須だが、今作の音楽担当レオ・ニコルスとは・・・実はこのジャンルの開祖エンニオ・モリコーネ大先生の変名(=「荒野の用心棒」でも別の名前名乗ってる)!!主人公のテーマ曲では「♪〜ナバホ・ジョー、ナバホ・ジョー〜」と名前のスキャットが入る(笑)。モリコーネはレオーネ監督作「夕陽のギャングたち」においても「♪〜ション、ション、ショーン」と主人公の名前をスキャットさせてたが、それよりも早いぞ!!ちなみに「荒野の用心棒」では「ユー・キャン・ファイト(!?)」と歌ってる^^。


 
 ここまでの中で「●●より早い」と幾度が書いた。今作「さすらいのガンマン」はそんなにメジャー作ではないのだが(注:マカロニマニア除く)実は後の作品に多大な影響を与えた<ルーツ的役割を担う作品>なのかもしれない・・・。誰も言わないけど(苦笑)。