其の311:インテリ向け伝記「チェ 28歳の革命」

 2009年1月1日はキューバの革命戦争勝利50周年だったそうで。そんなナイスなタイミングで公開されたのがTシャツのプリントで御馴染みの革命家チェ・ゲバラを描いた2部作の第1弾「チェ 28歳の革命」(’08:スペイン=仏=米)。監督は「オーシャンズ」シリーズのスティーブン・ソダーバーグゲバラ役はオスカー俳優ベニチオ・デル・トロ(=今作ではプロデュースも担当)という「トラフィック」コンビによる力作です。その昔、筆者に「(学園紛争で使われた)ゲバ棒のゲバって、チェ・ゲバラのゲバ?」と聞いてきたディレクターがいましたが間違いなので気をつけましょうね(=正しくはドイツ語で「抵抗」を意味する「ゲバルト」のゲバから)^^


 物語は「キューバ革命」後の1964年、キューバの首都ハバナで行われたインタビュー&国連総会出席(「キューバ危機」はこの2年前)の様子を軸に、1955年7月、メキシコシティーで医師ゲバラと元弁護士フィデル・カストロとが出会い意気投合するところから1959年1月1日、当時の権力者フルヘンシオ・バティスタドミニカ共和国へ逃亡(=「キューバ革命終結)。ゲバラ一行が首都ハバナへ向かうところまでが描かれる。


 チェ・ゲバラ(本名:エルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナ)は1928年6月14日、アルゼンチン生まれ。裕福な家庭で育った彼は医大生時代にバイクで南米を旅行、貧富の格差など各国の惨状を知リ、革命による共産主義国家の成立を考えるようになる(=この時の様子を描いた映画がウォルター・サレス監督「モーターサイクル・ダイアリーズ」)。53年、時のペロン政権に「軍医」として徴兵されることを嫌ってアルゼンチンを出国。55年、メキシコでイルダ・ガデアと結婚、同年フィデル・カストロと出会う。翌56年、共にキューバに上陸、反乱軍として政府に対抗。59年1月1日、キューバ革命を達成(=カストロによる「勝利宣言」は翌日)するも、カストロとの方針の違いなどから65年、キューバを後にする。ボリビアで革命を試みるものの失敗、67年10月9日処刑される(享年39)。
 ・・・というのが彼の超大雑把なプロフィール(単なる葉巻好きのオッサンではない:笑)なのだが、今作で<一番古いエピソード>が55年にカストロ(注:ス●トロではない)と出会う場面なので当時のキューバの状況は勿論、「何故、彼が革命を起こす気になったのか?」さえも描かれない(苦笑)。おまけに粗筋で書いたように1964年のエピソードと進軍の様子が細かくシャッフルされていくので話が分かりづらいのだ。「レッドクリフ」同様、<ある程度の知識>がないとすぐに置いていかれます(多少知ってた筆者も危なかった:苦笑)。おまけに最後はいきなりブツッと終わるし。というのも、これ元々1本の映画なのよ(総上映時間:約4時間半)。この前半だけでも長いけど(2時間12分)2本立てにして料金を倍取るなんて・・・ズルい(タランティーノの「グラインドハウス」の時と同じじゃん)!


 「レッドクリフ」同様、「だったら面白い映画として書くなよ!」とお叱りを受けそうですが、これまた「レッド〜」同様<2部作の内の1本目>なので半分だけ観て論じるのもアンフェアな気がするので。観ている間は飽きないのも「レッドクリフ」と同じだ。
 で、ここで色々書いちゃうと後半にあたる「チェ 39歳別れの手紙」を観た時に書くことがなくなっちゃうんで(笑)今回はベニチオ・デル・トロに絞ってネタを書きます(監督と撮影を兼任したスティーブン・ソダーバーグについては次回)。


 デル・トロがオスカーを受賞した「トラフィック」の撮影中、ソダーバーグにゲバラの映画化案を持ちかけた事がそもそもの始まり。以後、言い出しっぺのデル・トロは初めて実在の人物を演じるにあたってゲバラや歴史を徹底的にリサーチ。その期間、なんと約7年(驚)!「ゲバラを知ってる人に会ったりもしたんだ。実際の出来事や言動に忠実でなくてはいけないから。彼が何を考えていたかを理解することが大事。」とは本人の弁。
 やがてクランクインが決まると4ヶ月で25キロも減量、しぐさや声まで似せての熱演である(=しかも全編スペイン語で)。結果、昨年のカンヌで見事、主演男優賞を受賞した。だが、多少不満もあったようだ。「実在の人物を演じるってことは、演技の選択が限られるから難しいね。いつも俳優として自分を驚かせたい僕としては<演じる驚き>はなかったかな。」・・・いや〜、さすがオスカー俳優は言うことが違うね!とても筆者と同世代とは思えないわ(苦笑)


 全体的な完成度については次回を観てから判断しようと思いますが、デル・トロのそっくりさんぶりは一見の価値あり。カストロを演じたメキシコ人の俳優さんもそっくりで笑える^^
 最後に「チェ・ゲバラ」の「チェ」というのは、アルゼンチンあたりで使われる「ねぇ、君」という意味のラフな言い回しのこと。日頃ゲバラが「チェ」という言葉を連発していたことでついた愛称だそうだ。決してふてくされているわけではない(笑)。