其の296:息詰まる艦内描写!!「U・ボート」

 仕事の隙を観て、ようやく先日ドイツ映画「U・ボート」を久々に観直すことが出来た。公開当時も観たけど(1981年)今回観たのは97年に再編集された「ディレクターズ・カット版(=日本公開は99年)」。いや〜、いま観ても面白かった^^!昔から「潜水艦映画にハズレなし」というけれど(「眼下の敵」とか「海の牙」とか。でも邦画の「ローレライ」は・・・)今作も大当たりの1本。若い人は「U・ボート」という単語すら知らんかもしれんが是非観て欲しい。芦ノ湖あたりで漕ぐボートとちゃうぞ(当たり前だ)。テーマ曲も最高にカッコいいし、かわぐちかいじ先生は絶対「沈黙の艦隊」執筆前に観てると思うゾ!


 第2次大戦下のある日、ドイツ軍の誇る潜水艦「U・ボート」がフランスの軍港から大西洋に向けて出撃する。艦長(=ハリウッド映画だと悪役の多いユルゲン・プロホノフ)以下、50名の乗組員のうち戦闘経験がある者はごく僅か。しかも平均年齢19歳ー。
 当初は意気揚々としていたクルーも敵と出くわさない日々が続くうち、次第に士気も低下。そこで艦長はイギリスの艦船に攻撃を試みるが・・・彼らが<真の戦争>を理解した時、ジブラルタル海峡への航行を命ぜられる。そこは敵・連合軍の艦隊がひしめく海域だった・・・。


 第2次大戦中、かのチャーチルをして「最も恐ろしいのはU・ボート」と言わしめた潜水艦そのものズバリを取り上げたのが今作。主に大西洋に派遣され、イギリスを兵糧攻めにするためイギリスとその植民地を往来する商船の破壊を任務とした。
 勿論、一口に「Uボート(=映画タイトルと異なり、普通表記する場合は「・」は余り付けない)」と言ってもいろんなタイプがあるわけで、映画に出てくるUボートは最多の659隻が建造された通称「U96」と呼ばれた中型タイプ(原作者ロタール=ギュンター・ブーフハイムは「U96」に乗船、その体験を本にした)。大戦終了時には全Uボート乗組員4万人のうち、約3万人が亡くなったそうだが、その戦果は連合軍に比べて圧倒的であったことでも知られている。


 監督・脚色は「アウトブレイク」や「エアフォース・ワン」のウォルフガング・ペーターゼン。当初、今作はドイツで全6話のTVシリーズとしてスタート。その後、1本の映画としてまとめたところ大ヒット!1983年の米・アカデミー賞で6部門にノミネートされ(=結果は受賞0)ペーターゼンのハリウッド進出のきっかけとなった(肝心のTVシリーズは1985年に放送された)。なんでも本人は今作と「パーフェクト・ストーム」、そして「ポセイドン(=「ポセイドン・アドベンチャー」のリメイク)」と併せて「海洋3部作」と名づけているようだが「ポセイドン」は最高につまらなかった(怒)。でも「U・ボート」では若きペーターゼンの徹底したこだわりとリアリズム&才気が全編に炸裂している^^


 「U・ボート」製作にあたってペーターゼンは、巨費を投じてほぼ原寸大のUボートを製作(=これで甲板上に人が立つ場面を撮影した)。そして本編の大半を占める艦内のセットにおいては当時、実際にUボートで使われた部品を収集して作り上げたという(おそらく原寸大で再現したものもあると思うけど)。このセットは45度にまで傾けることが出来るもので、爆雷によって艦が揺れるシーンに大きく貢献した(艦が海中を進むシーンには模型が使われている。逆に後の「レッドオクトーバーを追え!」は全てCG)。

 艦長役のユルゲン・プロホノフは今作を「忘れられない作品」と語っているが、実際の撮影は実際の戦闘さながらに大変だったようだ。まず撮影前には艦内をクルーとしてスムーズに走り回れるよう(ホントに潜水艦の内って狭いのよ)全キャストが数週間に渡って移動の練習(同時にカメラもセットに併せて小型のものが製作された)!
また撮影がはじまるとペーターゼンは「長期間、外に出ていない人の青白い肌を再現するため」キャスト全員にスタジオの外に出ることを禁止した。で、毎日水浸しと(苦笑)。「ディレクターズ・カット」のDVDには特典でその模様が収録されているので興味のある方は是非ご覧ください。


 そんな苦労もあって、映画は潜水艦という<鉄の檻>に閉じ込められた人々の様子が(=潜水艦には窓がない)リアルに映し出されることになった。いつ破裂するか分からない敵の爆雷、潜行し過ぎると艦が圧壊する恐怖、水漏れに酸欠・・・潜水艦ならではの状況がこれでもかと描かれる。この<極限描写>が映画を圧倒的に面白いものにした。そして最後には戦争に善も悪も英雄も存在しないということがよ〜く分かる!


 一般的に<ナチス・ドイツ>といえば映画では「残虐変態キ●●イ集団」として描かれるが(笑)今作のクルーは皆、当時の日本国民同様「いやでも戦わざるをえなくなった市井の人々」。故郷を思い、恋人に届かぬ手紙を書き、暇な時は馬鹿騒ぎに興じる至って普通の若者たちだ(艦長は上層部批判、引いては政府批判も口にする。)。筆者はナチがしたことを擁護する気はさらさらないが、当時ドイツ国内においてもヒットラーは2回暗殺されかかっており、全てのドイツ国民が「第三帝国」を支持したわけではないのだ(=本当です。是非、この辺りは教科書には載ってないので自分で調べてみてください。来年あたりには、その暗殺未遂事件を映画にしたトム・クルーズ主演「ワルキューレ(仮)」が公開されますのでソチラも是非)。


 ドイツ人スタッフがナチ批判もこめて描いた反戦映画の傑作(そういえば敗走するナチが主人公の映画って、現在でも今作とペキンパーの「戦争のはらわた」ぐらいじゃないか?)。「死ぬ前に観ておくべき1本の映画」だと思う。ちなみに今作で作られた「Uボート」の巨大レプリカは、スピルバーグの「レイダース」でもちょこっと観ることが出来ます。よくとっておいたもんだ^^


 <どうでもいい追記>昨日から「第21回東京国際映画祭」が開幕しましたが、オープニング作となったジョン・ウー監督作「レッドクリフ Part1」に期待(「赤壁の戦い」の途中までしか描かれないことは分かってるけど)。おかげで最近「三国志」の本ばかり買ってる。・・・読む時間もさほどないのに(苦笑)。