今回紹介するのは「キャリー」、「ブラック・ダリア」他で知られるブライアン・デ・パルマ監督の新作「リダクテッド 真実の価値」(’07)です。なんせ上映館が余りに少ないので、実は公開早々に観に行っていたのですが・・・多忙過ぎて忘れてた(苦笑:少しでも時間がある時に更新しないとね)!もう上映終わってるかもしれないけど、今作も「闇の子供たち」級に観て欲しい作品です。2006年にイラクで米兵が起こした「イラク人少女レイプ&一家惨殺事件」を題材にした<フェイク・ドキュメンタリー形式>。タイトルは「編集済み」を意味し、削除された文章や映像のことを指す。2007年ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)受賞作品。
2006年、イラク・サマラの米軍駐留地。19歳の若き兵士サラサールは帰国後、大学の映画学部入学を夢見て日々の様子をビデオ撮影していた。部隊の任務は、通行する車両を1台1台停車させて点検して回ること。いつ車が爆発するか、いつテロリストに襲撃されるかー恐怖とストレス漬けの日々。時には誤って民間人を射殺してしまうことも・・・。「果たして自分たちに無事、帰国できる日は来るのか?」
そんなある日、厳しくも部下からの信頼の厚い曹長がブービートラップによって爆死してしまう。その現場を目撃した上等兵フレークは怒りと恐怖から夜間ある一家の邸宅を襲撃。難くせをつけ、父親を無理矢理拘束する。これに味をしめたフレークと同じ部隊のラッシュは仲間の制止も聞かずに再び民間人の邸宅を襲撃。2人の目標は、ここに住む少女を襲うことだった・・・!
「デ・パルマ」、「アメリカ軍の兵士が戦地で少女をレイプ」と聞いて映画おたくが思い浮かべるのは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のマーティことマイケル・J・フォックスと名優ショーン・ペンが出演したベトナム戦争大作「カジュアリティーズ」(’89)だろう。1966年、ベトナムの戦場でアメリカ陸軍の小隊が10代の少女を拉致・輪姦し殺害した事件を描いた映画である(勿論、シリアス)。本人も十分それは承知していて「私は同じ物語を何年も前にカジュアリティーズで語ったが、ベトナム戦争の教訓は無視されてしまった」とコメントしている。
今作製作のきっかけはデ・パルマにHD(ハイビジョン)テレビ専用ケーブルTV局から「HDでなにか撮りませんか?」と依頼があった+デ・パルマが大きく報道されなかったこの事件を知ったーこの2つの要素が重なったこと。そこで彼が思いついた手法は劇映画として撮影するのではなく、プライベートビデオや設置されたカメラの映像、パソコン上にアップされたサイトやブログ、「YOU TUBE」の動画風にして全編を埋め尽くすこと!
当然、筆者のほか観客も「実際の事件を題材にした劇映画」として観に行ったわけだがー全編、上記のような手法で撮影されているし、俳優陣は皆<無名>の役者ばかりなので・・・段々、本当のドキュメンタリーを観ているように錯覚してくるのだ(=ハイビジョン撮影、無名の俳優たちをキャスティングしたおかげで低予算で製作できたそうな。この企画では大手スタジオでは引き受け手がないことは容易に推測できる)。絶対にイラクではロケしてないだろうけど(笑)、セット含めてうまくその辺は誤魔化して作りこんである。なんせ前作「ブラック・ダリア」では昔のロスをヨーロッパで(安く)再現してたし^^。
<流麗なカメラワーク&凝った映像技法>がデ・パルマ作品の一般的なイメージだが、インディーズ時代の初期作品ではドキュメンタリー・タッチで撮影した作品もあるようだ(筆者未見。すまん)。ヒッチコックの真似ばかりしているわけじゃない(笑)。
どうも「人間」というのは長期間、極限状態に置かれると刹那的になったり、自暴自棄になったりするようで(=冷静に考えれば、軍隊に所属していてレイプ殺人などやらかしたことがバレたら即、軍事裁判にかけられる)それはいつの時代の戦争でも同じ。どんなに「戦争反対」を世界中の人が呼びかけても、地球上では必ずどこかに紛争地帯はあるし・・・ここで何度も書いてるけど、本当に人類は進歩しない(嘆)。
デ・パルマファンなら彼が「カジュアリティーズ」のような「戦争映画」のほか多岐に渡るジャンル(コメディからSFまで)を演出していることも知ってるし(=特にサスペンスでは「暴力」と「セックス」も重要なテーマとして描いていた)、一般的な映画ファンなら「こんな事件があったのか!」と半分勉強する意味で観ることが出来る作品だと思います。アメリカという国は時にお節介でとんでもないことをする事もあるけど、今作のようにそれを暴露する人もいる(マイケル・ムーアとかもそうですな)。なんだかんだ言っても<多民族国家>である分、いろんな考え方があるので<懐の深い国>といえなくもないだろう。
<追記>さて、次回はようやく300回!!ネタは・・・アレしか今のところ思いつかないなぁ。「チアリーダー忍者」とかではありません(笑)!