其の287:超重量級歴史娯楽作「アポカリプト」

 またまたヘビーな作品を(笑)。映画「アポカリプト」(’07)は一風変わった作品だ。「歴史もの」であり、「娯楽作」であり、「残虐映画」でもあり・・・。公開当時は「史実と違う!」という事で一部で騒動になりましたが、この作品の持つ異様な迫力はそれを一蹴して余りあるぞ。


 物語は・・・遠い昔、南米のとある村。人々は狩りに子作りに平穏に暮らしておりました。そんな村へ突如、他部族による侵略の魔の手が!主人公の青年は身重の妻と幼い長男を深い穴の中へ逃がす事になんとか成功したものの、自身は捕まってしまい奴隷のひとりとして彼らの村へ。すると、そこで見た光景は・・・太陽を神と崇め、奴隷の心臓を抜いては神に捧げるおそるべき儀式だった(=そう、彼らは「マヤ文明人」だったのです)。なんとか脱出した彼は追っ手を交わしつつ、妻子を助けるため村を目指す・・・。


 一口に南米の文明と申しましてもスペイン人の大陸侵略に伴い滅ぼされた「アステカ文明」や「インカ文明」と異なり、「マヤ文明」はいつ、どうして滅んだのかよくわからないのが実情(=すっかり密林に覆われた遺跡群が発見されたのは遥か後年)。だから筆者もボカして年代を書いた次第。ネタばれになるので詳しくは書きませんが、最後●●●●●が現れるのは、そういった意味で間違い。学生さんはこの映画をまんま信じると「世界史」で赤点くらうのでご注意!


 こんな普通は手を出さないような題材を映画にしたのがメル・ギブソン。勿論、「マッドマックス」、「リーサル・ウェポン」のメルのことよ!彼は近年「監督業」が著しく、前作「パッション」(’04)では私財を投じて「キリスト最後の24時間」を聖書の記述に沿って再現(しかも劇中話す言葉は当時使われていたラテン語アラム語)。中でも鞭打ちシーン(=キリストの皮膚が裂け、尋常ではない血が周囲に飛び散る!)の凄まじさは公開当時問題となった程(ちなみにキリストが磔にされた「ゴルゴダの丘」は「ゴルゴ13」のネーミングの元ネタ)。彼がバリバリのカトリックだったため、バチカンがわざわざ映画の擁護をしたエピソードは有名だ。
 今作もそんなメルの<リアル路線>が徹底的に貫かれてます。言葉は当時の「マヤ語」オンリー。で、マヤ人の「いけにえの儀式」もまんま再現(心臓取ったあとは首チョンパしてピラミッドの上から投げ捨てる)。おかげでエロもないのに日本では「15歳以下観賞禁止」っす。


 本編の最大の見せ場はなんといっても「後半の逃亡劇」でしょう!映画の半分はこの逃げるところで時間取られてる(笑)。主人公は傷を負いつつも必死に逃走。ハリソン・フォードの映画版「逃亡者」あるいは「ミッション」を彷彿させる巨大な滝へのダイビングあり、「ランボー」よろしく追っ手に罠を仕掛けてひとりづつ仕留める作戦あり。映像的にもあらゆる技術を駆使して(ステディカム、クレーン、移動撮影・・・えとせとら)ハラハラドキドキさせてくれます。何度も書きますが、最後の意味深なオチは間違いです!


 にしても本編の8割は舞台がジャングルだから・・・撮影はさぞかし大変だっただろう。暑さや虫に野性動物、機材や水・食料はスタッフが背負って森の中へ搬入したに違いない(=筆者にはその様子が見える)。ほかのハリウッドの監督なら絶対セット組むかCGで背景合成するんだろうけどさ(笑)。
 メル自身は今作の映画化について「子供の頃から古代文明に魅了されていたから」とコメント。また「歴史誤認」に関しても「徹底的にリサーチしたうえで、少々の脚色はあるものの歴史的背景にでっち上げはない」・・・そうだ(苦笑)。これから観る方は、ちゃんとしたサブテキストを用意した上でDVDを再生しましょう^^。


 筆者は歴史ものの文献等を読むのも好きなんで今作を観た側面もありますが「マヤ人の儀式が怖そうで無理!」という方は、現代劇の「ブラック・スネーク・モーン」(’06)は如何でしょう?パッケージを見る限りではサミュエル・L・ジャクソンクリスティーナ・リッチを鎖でつないでいるので「残酷飼育系エロ映画」と勘違いされそうですが(笑)老人と少女の心の傷とその再生を描いたいい映画ですよ!リッチの乳見せはありますが、エロい映画じゃないので<そっち方面>で過剰な期待はしないように!