其の278:巨匠のあくなき挑戦「理由」

 この欄を読んでくれている友人・知人たちから「知らない映画が多い!」とよく言われるが(苦笑)、筆者の目的のひとつには「映画史から抹殺されそうな映画を記録する事」も含まれているのでご容赦の程を^^それにしてもカルトアクション映画「マッドボンバー」とか、日本が誇る底抜け超大作「幻の湖」系統ばかり書くのも問題なので(決して変な映画紹介コーナーじゃないのよ。でもそのうちパム・グリアの黒人アクション映画は書く予定)今回は少々メジャーな作品を!宮部みゆき直木賞受賞作を映画化した「理由」(’04)は「尾道三部作」で知られる大林宣彦が監督したもの(同名洋画作品とお間違いなく)。当たり外れが多い御大ではあるが(「漂流教室」とか:苦笑)これは当たりでっせ。

 
 大雨の夜、都内の超高層マンションで、<ある一家>全員が殺害された。ところが、その人々は登録されていた入居者たちではなかった!彼らは真の正体は?そして犯人は誰なのか?大勢の関係者、目撃者の証言から少しづつ事件の真相が明らかになってゆく・・・。

 
 宮部みゆきの書く社会派ミステリーには必ず現代日本が抱える問題に焦点があてられる。例えば「火車」では自己破産者の壮絶な姿が描かれるが、今作では不動産業に絡む問題がクローズアップされる(ネタバレになるので詳しくは書けませんが)。宮部センセは、専業作家になる前は東京ガスにお勤めだったそうで、その当時に見たり聞いたりした事が参考になっているそうな。今作の同名原作はルポタージュ形式(=取材者が関係者たちの証言を集める、いわば「羅生門」方式)がとられているユニークなもの。こういうタイプの小説を映画にする場合は、登場人物を整理し(宮部作品はとかく登場人物が多い)時系列等を再構成する必要があるのだが・・・なんと大林監督は、原作そのまんまで映像化する事に挑戦(驚)!!本人は「インディーズ(自主映画)魂に火がついた」とコメントしてます。


 映画はもうほとんど「台詞劇」なのだが、登場する俳優の数、実に100人以上!峰岸徹(「ねらわれた学園」)、小林聡美(「転校生」)、片岡鶴太郎(「異人たちとの夏」)、宮崎あおい(「あの夏の日」で脱いどる)ら以前からの大林映画常連組に加えて久本雅美の「お笑い系」から永六輔(「文化人」)、立川談志家元まで大挙出演(尾美としのりが出てないのが残念だ)!で、カメラ目線で語ると(笑)。
 勿論、これだけの人数が出るからにはチョイ役も多く、通行人役の大山のぶ代(「ドラえもん」)はまだマシな方で、高橋かおり宝生舞は台詞なし(よく出たなぁ)。更に「リアルな生活感を出すために」との監督のオーダーで出演者全員ノーメイク(=以前、吉永小百合主演作でもとった手法)。古手川祐子はとまどいもあったようだが、南田洋子(懐)は「ラクで良かった^^」とコメントしとります。


 一時期、めちゃめちゃカットを細かく割る事に力を注いでいた大林御大だが、今作でもその編集方法は健在(でも絶頂期よりは大分落ち着いた)。時折ここはカット割らないでもええやん、とは思ったけど(苦笑)。ただ「カメラ目線」が多い分、クレーンにドリー(移動撮影)、手持ちカメラと様々な撮影方法を駆使しているので、観ていてあきはこない。原作のスピリットも外していないので(ちなみに実写映画「どろろ」や「デビルマン」はスピリットを外してた:怒)宮部先生も今作はお気に入りだそうで。森田芳光の「模倣犯」はお怒りになられたそうだが・・・あの出来じゃ誰が原作でも怒るわ。


 あえて少々難を言えば・・・尺がちょっと長いかなぁ(=2時間40分)。もう少〜しはしょる部分があってもよかったかも?あとメインとなる<ある人物>がラスト前に、これまた<重要な人物の自宅>に電話するシーンがあるのだが「いつ電話番号聞いたの??」。あの状況じゃ絶対に聞いてないと思うのだが・・・その前までは複雑な内容をうまくさばいていただけに残念ではあった(=タイトルの本当の意味は最後の最後で分かります)。


 今でも定期的に作品を発表する大林宣彦御大(この前は「時をかける少女」をセルフ・リメイク)。永遠の映画青年として、これからもバンバン新作を撮って欲しいと思う。願わくば、いまのところの最高傑作「さびしんぼう」に匹敵する胸キュン青春映画をもう1本!是非お願いします!!