其の548:理想と現実の間で・・・「ナイトライダーズ」

 以前も書きましたし、内容が重複しますが・・・どなたもご存じの通り、毎年毎年世界中で山ほど映画が作られているわけで・・・劇場で公開されて我々が目にする作品は、その中のほんのほんの“一握り”。ピラミッドの頂上部分にすぎない。そんな星の数ほどある<日本未公開作>ながら、DVDが発売されたのが「ロングライダーズ」(’81・米)!監督・脚本はあの「ゾンビ」のジョージ・A・ロメロ!!でもゾンビは出ないので、そのテが苦手な方もご安心を^^。配給元だったユナイト映画の日本支社閉鎖で“お蔵入り”となった、ある意味【いわくつき】の作品ともいえるかも。


 現代(公開当時)のアメリカー。“中世の騎士”のコスチュームに、楯をとりつけたバイクを駆って立ち回りを演じるグループ。“王”の座に君臨するビリー(→エド・ハリス)をリーダーに彼らの旅は続くが、そんな日々の中で“袖の下”を要求する悪徳警官や彼らを大々的に売り出そうとするプロモーター、そしてビリーの金や名声より名誉と礼節を重視する言動により、仲間の団結は少しずつほころび始め・・・!?


 
 <マスター・オブ・ホラー>ジョージ・A・ロメロ御大(1940〜)の偉大さについては既にその多くが語られているので敢えてここではもう書かない。ただ小学校高学年時にリアルタイムで観た「ゾンビ」のインパクトは・・・凄かったなぁ!今作(アメリカのTVドラマは「ナイトライダー」なのでご注意)の“中世の騎士スタイルにホンダのバイク”というビジュアルも「ゾンビ」と真逆のベクトルでインパクト大(かっこいい)!さすが御大は“映画はビジュアルが大切”であることを分かってらっしゃる^^。

 そもそも今作はロメロ御大が<アーサー王伝説>をテーマにアイデアを練っていた事に加え、アーミッシュじゃないけど中世の思想や生活を啓蒙するコミュニティの存在に興味を覚えて考えついたそうで、バイクでの槍試合は編集リズムの良さもあって凄い迫力!勿論、当時はノーCGなんで・・・バイクから転倒するスタントマンはめちゃめちゃ大変だっただろう。あとバイクを調達・修理するスタッフも(苦笑)。

 人によっては「いい年こいた大人が中世コスプレして遊んどる」と思って物語に入っていきにくいかも知れないけど(筆者も中学時代、友人たちと公園で運転する自転車ぶつけあって倒す遊びをしてチャリ壊したことを思い出した)、これはロードムービー、バイカー映画の体裁を取りつつ“夢(あるいは理想)と現実のギャップ”を描いた苦い青春映画でもある。主人公がどのような理由で騎士道精神に傾倒し、グループを作っていったかは劇中描かれないので不明だが、ひたすら騎士のように気高く高潔に生きようと考えブレないのは素晴らしい。ただ現実にはなにをするにも“お金”が必要なわけで(嫌だけどね)・・・現実的な人や多かれ少なかれ野心がある人たちと摩擦を起こしてしまう。人と人との係り方、集団で暮らすことの難しさ・・・をついつい考えさせられてしまった。

 そんな悩める王に扮したのが若き日のエド・ハリスエド・はるみではない)。今作以降、ジェームズ・キャメロンの「アビス」やロン・ハワードの「アポロ13」ほかで名優としての地位を築いていく。他にも「ゾンビ」で特殊メイク担当&俳優で出てたトム・サヴィーニも重要な役で出演(いうまでもなく若いが、そんなにいまと変わってないのも凄い)。更にちょい役ながら「キャリー」や「ミザリー」の原作者<モダン・ホラーの帝王>スティーヴン・キング大先生が奥様と共に出演しとる(これが翌年の「クリープショー」に繋がるわけでんな^^)!余談ながら・・・割とキーとなる女優たちが皆、おっぱい出すのもロメロ御大の“観客サービスを忘れない”精神と姿勢に感銘を受けた(笑)。

 この「ナイトライダーズ」、撮影期間、実に92日!尺は145分という編集までも兼任したロメロ映画史上の大作なのだけど(このデータだけでも本人のやる気がビンビン伝わってくる)・・・どうも当時の興行成績はパッとしなかったみたい(残念)。「ロメロ=ゾンビもの」というイメージがついていたからだと思うけど・・・これ、ホントいい映画ですよ。ネタばれになるんで詳しく書けないけど・・・80年代の作品ながら“アメリカン・ニューシネマ”になってるし。「イージー・ライダー」や「真夜中のカーボーイ」とか“理想を抱きながら現実社会に押しつぶされてゆく人たち”に共感を覚える方なら、ようやくDVDになった今作を是非ご覧ください^^。


 ふと考えると・・・現在に至るあらゆるゾンビ映画の始祖としてジョージ・A・ロメロの名と功績は人類が滅亡しない限り永遠に語りつがれてゆくのは間違いないが・・・もし彼が亡くなった時、今作のような「非ゾンビ映画」がロメロ作品としてマスコミほかに紹介されるかどうか・・・。なにも残さず亡くなるよりは遥かにマシな気もするけれど、「ロメロ=ゾンビ映画」としてだけ記録されるのはロメロ御大にとって本意ではないだろう。もしご本人がこの世の最期に「結局、俺はゾンビ映画があたったことで、以後の全てをゾンビにとりこまれてしまった」と思われたら・・・悲しいな。



 これ書いてたら・・・高倉健さん死去のニュースが!!!マジかマジかマジか!!!筆者は健さんを<日本最後の銀幕男性スター(個人的には女優だと吉永小百合さま)>だと思い、尊敬していたのに・・・うわぁあああああーーーー(涙)!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!