其の274:超絶銃撃アクション「シューテム・アップ」

 昔から「女性と銃と車があれば映画は撮れる」と言われますが、ゴダールはそれを「勝手にしやがれ」で実践し、新鋭マイケル・デイヴィスは「シューテム・アップ」(’07)を撮った。それもただひたすら撃ちまくる(2万5千発!)ジョン・ウーテイストの大銃撃馬鹿映画!!以前、室賀厚監督も「SCORE」でひたすらガン・アクションを追求しましたが、今作もアクション映画好きには外せませ〜ん^^

 冬、深夜のニューヨーク。ホームレス風の男、スミス(「クローサー」、「シン・シティ」のクライヴ・オーウェン)の前を妊婦、そして彼女を追う男が通り過ぎた。犯罪の臭いを感じたスミスが後をつけると、いままさに女性が男に殺されるところー!それを間一髪救ったスミス。ところがハーツ(「サイドウェイ」、「レディ・イン・ザ・ウォーター」のポール・ジアマッティ)率いるギャング団が乱入!大銃撃戦が繰り広げられる。その際、産気づいて出産した母親は死亡。スミスはなんとか赤ん坊だけは助け出す事が出来た。彼は旧知の間柄の娼婦ドンナ(「マレーナ」、「ブラザーズ・グリム」のモニカ・ベルッチ)に赤ん坊を預けようとしたが、そこにもハーツの手が及んでくる。何故、彼らは生まれたばかりの赤子を狙うのか!?激しい戦いが続くなか、スミスは徐々に恐るべき陰謀に辿り着くー!!

 監督・脚本のマイケル・デイヴィスはストーリーボード(=撮影用絵コンテ:ハリウッドでは専門に書く人がいるのだ)担当として映画界入りしたそうで、日本では未公開作ばかりだが既に何本か監督している。で、ジョン・ウー信者の彼は「ウーのようなガン・アクションが撮りたい!」と自らイメージアニメを製作。それをスタジオのお偉いさん方に見せて映画化のGOサインをとりつけたのだそうだ。ストーリー的には「何故、ギャング一味は赤子をつけ狙うのか?」、「凄腕のガンマン、スミスの正体は?」ーという2点があるものの、こんな設定は所詮、ガン・アクションをやる為「後付け」で考えたもの。ぶっちゃけ、どーでもいい(笑)。「赤ん坊を抱いたまま戦う」という設定自体、ウーの「ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌」(’92)のクライマックスからヒントを得たんだって(=病院内でチョウ・ユンファが銃撃戦を行う)。「子連れ狼」はアメリカで映画も公開されてるから、その辺りもあるのかもしれない。

 今作最大の「見所」はマイケルさんが考えたアクションのシチュエーションの数々!室内やカー・チェイスしながらの銃撃戦はもとより、スカイダイビングしながらの銃撃戦やセックスしながら(=駅弁状態)のガン・アクションは筆者も始めてみたよ(笑)!勿論、大半の超絶アクションは人間技ではない(爆笑)!!これらのシチュエーションを撮影するため、マイケルさんはウーの最高傑作「狼/男たちの挽歌・最終章」(’89)のカメラマン、ピーター・パウを起用(但し、スローモーションにはならないし、鳩も出ません:笑)!筆者もその昔、イメージで銃撃戦撮影したことがあるけどスタッフがノリにのってた。きっと現場は楽しかったに違いない(笑)。

 「アクション」が漫画的なら「キャラクター設定」も漫画的・・・ってゆーか狂ってる!クライヴ・オーウェン扮する超凄腕ガンマン(軽くチョウ・ユンファは越えた)スミスは廃墟のビルに住む職業不詳の男。自ら栽培しているニンジンを常に口にしている(で、このニンジンで敵を倒したりもする。そんな馬鹿な:笑)。彼は「ウインカーを出さずに車線変更する奴」、「子供に手を上げる親」等は許せないという倫理観の持ち主!だから1円にもならないし、自らを危険に晒しながらも赤ん坊を助けるわけよ。
 小柄でどうみてもギャングの親分には見えないハーツ(笑)は恐るべき嗅覚で逃げるスミスを(うまいこと)追い詰めてゆく。何故ならば、彼は元FBIのプロファイラーだったから・・・って、ご都合主義にも程がある(笑)。よくポール・ジアマッティがこの役を受けたと思うが「悪役も楽しいね♪」と本人が語っているから、まっいっか。
 モニカ・ベルッチに至っては母乳クラブで働く風俗嬢の役(爆笑)!!助けた赤ん坊に乳を飲ませる為とはいえ、この設定は凄すぎる。何故、この仕事受けたモニカ?ギャラか・・・??

 マイケルさんは「漫画キャラ」、「ありえないガン・アクション」にクライマックスでは「マカロニウエスタン」も加味!ネタバレになるので詳しくは書きませんが、元ネタ知っている人はニヤリとするよ(どうだね、S君。観たくなってきたかい?)^^

 劇中「ベレッタ92をトイレに落として分解乾燥させたものの不発になる」というシーンは、実際は軍用銃だけに不発にはならんのだけど(誰か教えてやれよ)、持ち主以外は撃つ事が出来ない「指紋認証付きの銃(=アメリカでは既に開発済らしい)」が登場したり、細部も楽しめる今作。本家ウーほどの詩情性はないものの、ガン・アクションの楽しさを久々に満喫&大笑いしました。尺も86分とコンパクトでいいぞ!!


 <追記>映画評論家の水野晴郎先生が亡くなられました。キューブリックが亡くなった時、急遽、番組で「追悼企画」のVTRを作ることになりダメ元で先生にインタビュー取材を打診したところ、急なお願いにも関わらず快く引き受けて下さいました(インタビュー終了後「シベリア超特急」をヨイショしたところ、のちに「2」が作られた時は心底驚いたものです)。心よりご冥福をお祈り致します・・・。先生の遺志を引き継ぎ、終生「映画」を愛していきたいと思います。