其の273:練られた脚本に感心「アフタースクール」

 筆者が敬愛する故スタンリー・キューブリックは、映画の題材を求めてひたすら読書に没頭していた事は有名な話。「エイリアン」、「ブレードランナー」のリドリー・スコットも映画でなにより大事なものは良い脚本だと言っている。確かになんぼ現場で頑張っても(=演出)、脚本がダメダメだとどうしようもない。劇場用長編デビュー作「運命じゃない人」(’05)が高く評価された内田けんじ監督の第2作「アフタースクール」は凝った脚本で大変感心させられた^^舞台挨拶で出演者たちが内容に関して、余りコメント出来なかったそうだが・・・確かにこれは言いにくい内容だよな〜!

 ある夏の朝、エリートサラリーマンの木村(堺雅人)は、幼馴染の中学教師・神野(大泉洋)の車を借りて仕事へ向った。ところがその夜、何故か木村は帰宅しない。そんな折、木村の妻・美紀(常盤貴子)は陣痛のため神野に助けを求め、なんとか女の子を出産する事が出来た。連絡の取れなくなった木村は一体何処へ・・・?夏休み中の学校に顔を出した神野の前にひとりの男が現れる。彼は自分を同級生だと言うが、その正体は木村の行方を捜す北沢(佐々木蔵之介)。わけのわからないまま神野は北沢によって強引に木村を探す手伝いをする事になる・・・。

 さて、筆者もネタバレしない範囲で書き進めますが(苦笑)物語の発端は先述の通りなのだが、話はドンドンややこしい方向に向かった末に予想外の大サプライズが待っている!!あっと驚くどんでん返しで知られる「情婦」や「スティング」までの衝撃はないが、これを序盤の展開で読める観客はそうはいないだろう(と言っても「ワイルドシングス」ほどはゴロゴロ展開しないのでご安心を)。内田監督自ら2年がかり(!)で完成させた脚本だけの事はある。こういう入り組んだストーリーをオリジナルで考えるのって、ホント大変なのよ!

 監督のキャスティングの基準は「いい人にも悪い人にも見え、シリアスな演技もコミカルな演技も出来る人」だったそうだが、その意味では大泉洋堺雅人もベスト・キャスティング!堺なんか、途中から胡散臭くて仕方がない(笑)。また、佐々木蔵之介は2人に反して、目つきからして悪人(爆笑)。伊武雅刀(かつてのデスラーも今や名優だ)、山本圭北見敏之もいい味だしてる。常盤貴子も30代半ばなのに、変わらず綺麗だし♪

 内田監督(’72年生まれ)は赤川次郎よろしくユーモア・ミステリーの体裁を取りつつ(笑うところも多々あり)「少年時代の初恋」、「平和な家庭」といった<表向きの綺麗な世界>を描くと同時に「アダルトショップ」や「ヤクザ稼業」、「拳銃密売」、「嘘と裏切り」といった<裏の姿>ー人間の暗黒面も提示してみせる。人によっては汚い部分は見たくないと言う方もいるだろうが・・・ふふふ、人間社会というものはそんなものじゃないのだよ。その点でも内田監督は人間という動物を見る目がしっかりしているし、少々シニカルな考えの持ち主なのかもしれない(一緒に飲んだことないから、あくまで推論です)。

 筆者は未見ですがデビュー作といい、今作といい内田監督は<凝った脚本>で売り出していますが・・・これが<彼のお決まり>になると今後つらいかも。観客はやはり、その監督のパターンを期待するものだから。「シックス・センス」が大ヒットしたM・ナイト・シャマランは以後、<謎ときもの>ばかり作る事となり(=今度の新作もそのパターン)、「ウォーターボーイズ」を当てた矢口史靖監督もいつの間にか<集団青春もの>を作らざるをえなくなってしまった。ヒッチコックみたいに同じジャンルを作り続けることも勿論素晴らしいけど・・・筆者的には才能のある人だと思うのでキューブリック路線を目指してほしいね!彼は毎回違ったジャンルの作品を作った、とんでもない映画人だったと思うので。