其の257:ロマンなき時代の伝説「ダスト」

 この「21世紀」は・・・世界の情報がどこにいても即座にわかる「情報化社会」になった分、ロマンがない(あるいは生まれにくい)時代だと思う。2001年の映画「ダスト」は、2000年のニューヨークと100年前のアメリカ、そしてマケドニア情勢が交錯する作品。筆者が今作のコピーを考えるなら「不思議な味わいの異色ウエスタン」、あるいは「ロマンなき時代に創作された新たな伝説」とか書きそうだ。


 2000年、米・ニューヨーク。空き巣に入った黒人青年エッジ(エイドリアン・レスター)は、部屋の主である老女アンジェラ(ローズマリー・マーフィー)にあっけなく逆襲され、銃で脅されたまま100年前の西部時代の<ガンマン兄弟>・・・ルーク(「ロード・オブ・ザ・リング二つの塔」のデヴィッド・ウェンハム)とイライジャ(「恋に落ちたシェイクスピア」のジョセフ・ファインズレイフ・ファインズの弟)の話を聞くはめになる(笑)。2人は仲の良い兄弟であったものの、共に同じ女性を愛してしまったため(=そのうえ女性は弟と結婚)単身パリに渡るルーク。更には一攫千金目指してトルコ軍が蛮行をふるうバルカン半島マケドニアへ!そこで繰り広げられる物語とは・・・?


 普通、こういう構成のパターンでは冒頭とラスト(時々合間)が現代の部分になるんだけど(「ネバーエンディング・ストーリー」とかね)、この映画の場合は語られる過去の部分にしょっちゅう現代のふたりが食い込んでくる(笑)。おまけに老女は途中、発作を起こして入院!黒人は彼女と約束した金貨をゲットするため(=金が手に入らないと悪徳警官にシバかれる)入院先まで行って話の続きを聞かなければならなくなる。非常に凝ったー練りに練られた脚本だ(ネタバレするから余り書きませんけど)。


 監督、脚本はミルチョ・マンチェフスキー。ロシアではなくマケドニア出身でアメリカに留学経験あり。その後、CMやビデオクリップの演出を手掛けた(よくあるパターン)。94年の長編デビュー作「ビフォア・ザ・レイン」は故郷マケドニアを詩的なイメージで描いて、ベネチア国際映画祭で10部門に輝いた。そこで「ハリウッド進出話」になるのだが・・・そのあと色んなことがありまして、今作製作まで6年もかかってしまう。テリー・ギリアム並に苦労したようだ(苦笑)。


 マンチェフくん(マンチョではない)は今作演出に当たって様々なテクを駆使している。カラーとモノクロ映像の使い分けに始まって、繰り返されるイメージ&トリッキーな映像や構図に早いカット割、意外な音の使い方等々・・・筆者も大変勉強になりました^^ストーリーが凝ってる分、人によっては少々難解さを感じるかもしれないがゴダールほどではない(笑)。それに加えて「ウエスタン」だけにドンパチもあれば、おっぱいに首チョンパもあり!「娯楽映画」の要素が詰まってる(笑)。
映画を観ていると「(真実か否かは別として)ガンマン兄弟の運命は?」のほか「何故、老女が兄弟について語って聞かせるのか?」、「金貨の在りかは?」、「(ニュアンスは異なるが)老女と黒人はそれぞれ助かるのか?」等の<?>部分も多々あるので、ある意味サスペンス映画とも言えるかもしれない。


 今作でメジャーな俳優といえば「スターリングラード」でインテリ、「キリング・ミー・ソフトリー」でヘザー・グラハム縛ってたジョセフ・ファインズになるのだろうが・・・重要な役どころながら出番は少ない(でもクレジットはトップ。ギャラが一番高いからだろう)。スタッフも余り知られている人がいないんで・・・きっと日本でヒットしなかったんだろうね(苦笑)。勿体ないなぁ。


 さてマンチェフくん待望の最新作はまたまたマケドニアが舞台のようだが・・・故郷(よくいえば「風光明媚」。悪くいえば「僻地」)に「西部劇」を持ち込むとは(特にクライマックスは「ひとりワイルドバンチ」状態)なかなかの才人と見た。ただ単に西部劇やりたかっただけかもしれないけどさ(苦笑)。もし、そうならそうで彼も未だ少年の心を持った映像作家ではないか。やっぱりピストル撃ちまくるのって男の夢だよね(ワタシだけ?)^^